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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
閑話 其の一 猫獣人クレソンとルッコラ
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その5

――引率者付きの遠出なんて、子供みたいでちょっと嫌だな。



 そんな風に、こっそりとルッコラは思っていたのだけれど、実際にハンターを長くやっている彼らと一緒に行動してみると、その思いはあっという間に消え失せる。

何せ、里の大人と一緒に遠出した時と、ルッコラ達に対する対応が根本から違う。

対等とまではいかないけど、それでも彼らは『保護者』じゃない。

『先輩』ハンターからの指導と言う名のアドバイスは、どこか大人の仲間に入れてもらえた様でルッコラの心を弾ませる。

 実際のところ、森で育ったルッコラにとっては常識であるような事もその指導には含まれていたものの、彼女が思いもしなかった様な視点も教えて貰える。

それも、報酬付きで!

なので今となっては、彼女の中で今回の仕事の評価は上々だ。



――なんて美味しいお仕事♪



 なにせ、暫くの間は縁がないと思っていた転送袋まで使い放題なのだ!

それに、転送袋の借り方なんかもパーティリーダーのセージがルッコラにも分かるように教えてくれたから、自分で借りることが出来るようになった時にもきちんと交渉が出来る……ような気がする。

やっぱり、ルッコラが交渉するのは色々と怪しい気がするから、クレソンにやらせるのだろうけど。

こういうのは、やっぱり『てきざいてきしょ』と言うのがあると思う。


「やっぱり、森育ちだと見方が違うんだねぇ~。」

「そぉ? ジャニーみたいな見方の方が新鮮だけど。」

「うーん……。まぁ、なんのかんので10年試行錯誤してはいるから多少は……?」


 ジャニーがなんだかもにょもにょと呟き、視線をチラチラと近づいてきた茂みに視線を向ける。

ルッコラはソレに頷き返すと、何気ない動作でブーツの脇に刺した金串を抜くと、近くの茂みに投げ込む。


キャン!


 蹴とばされた犬のような声と同時にガサリと茂みが揺れる。

ハイタッチを交わしあったジャニーとルッコラが茂みをのぞき込むと、そこには丸々太ったエスケープラビットの姿。

後ろ足に刺さった金串に地面に縫い留められ、逃げ出そうともがくエスケープラビットを手早く仕留めると、血抜きの為に首と後ろ足の太い血管がある辺りに深めにナイフを入れ、逆さに吊るす。

この作業は仕留めてすぐにやらないと肉の味が落ちるのだが、今までルッコラは地の匂いに惹かれて肉食獣がやって来る危険性と天秤にかけて諦めていた。

今回、血抜きをやれている訳は、ジャニーの魔飾がその血の匂いを分解しているからだ。

この魔飾が分解できるのは血の匂いだけではなく、体臭なども含まれる。

その為、こっそりと動き回りたい時などにはコレを身に着けていると便利なのだ、と最初にソレを見せてくれた時に彼女は笑った。


「魔飾って便利ぃ~!」

「ほんと。でも、うちはセージが詳しいからこう言うの使ってるけど、あんまり流通してないみたいよ~? 値段も結構したし……。」

「う。魔飾って高いんだっけ。」

「ここだけの話ね?」


 そう前置きをして、他に聞く人がいる訳でもないのに、ジャニーはルッコラの耳に口を寄せて値段を囁く。

その値段にルッコラの耳と尻尾がピンと立ち、毛が逆立つ。


「う、そ?!」

「いやいや、マジだよ。マジ。」

「うえぇぇ……。あると、すごい便利そうだけど手が届かないよぉ~!」

「だよね~? 買うとき、ほんとに勇気が必要だったもん。」



――1金貨以上するなんて、絶対に無理。

  ……クレソンにおねだりしたって、逆立ちしても出ないよねぇ……。



 是非とも欲しいと思ったのに、とルッコラがしょんぼりと尻尾を垂らすのをジャニーは優しい目で見つめ、少し強めに背中をどやしつける。

ジャニー自身にも、記憶にある感情だ。

だから、彼女はあえて気軽な調子で続ける。


「こう言うのは、余裕が出てから買うモンだしね~。」

「うう。道が遠すぎるぅ……。」

「必需品から揃えていくのが基本だよ?」

「はぁ~い……。」


 

 自分よりも、ずっと長くハンターをやっている先輩が便利な道具を持っているのを羨むのも、それが手に届かない物だと知って落ち込むのも。

彼女が外に出たばかりの今だからこそ感じるものなのだ。

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