その2
その日はルッコラにとって、とっても良い日だった。
なにせ、ハンターギルドに登録してから――まだ三日目だけど――で一番の成果を持ち帰れたのだ。
いつもは、例え狩る事が出来ても持ち帰れないから、と泣く泣く諦めていたに違いないタイミングでも狩りを続けることが出来たのも大きい。
――荷物を運ぶ道具って偉大!
ギルドのお姉さんから借りてきた、箱付きの猫車。
ルッコラ達の運搬能力を格段に上げてくれるソレを、彼女はなんて素晴らしいんだろうと思いながら見詰める。
――クーがどうしてもって言うから借りたんだけど、
やっぱり、クーはそう言うモノを見極める目があるんだなぁ……。
可愛くて有能なクーは、最高の弟だね!
最初は格好悪いから嫌だった猫車が、今では後光が差して見える。
現金?
そうかもしれないけど……。
やっぱり、頭で思ってたのと違う成果が出ると、人の評価って変わる物だとルッコラは思う。
少なくとも自分はそうだ、と。
猫車は素晴らしい道具だと、今のルッコラは声を大にして言えるのだから。
「今日はウサギも5羽獲れたし、キツネも一頭。いつもとは段違いの稼ぎだね。」
「そうだね。」
「クーの採集品も、随分採れたよね。」
「そうだね。」
彼女の弟から返ってくるのは素っ気ない返事だけど、その口元にはゆったりとした微笑が浮かんでいるから、ルッコラは気にせず話し続ける。
クーは、あんまり口数が多いタイプじゃないから、素っ気ない返事はいつもの事だ。
なにはともあれ、今日の稼ぎがいくらになるか、それが今から楽しみすぎるのも、彼の素っ気ない返事が気にならない要因かもしれない。
――クーも口には出さないけど、猫車がすごいって思ってるんだろうなぁ。
そう思いながら、ルッコラは周りを警戒しながら、弟の後ろ姿が眺める。
そこには彼女の自慢の尻尾の次に可愛い、二本の尻尾が機嫌よさげに揺れていた。
ルッコラ達が今居るヴァーヴ・ヴィリエは、森の中に唯一ある、陸人の村だ。
普通、森に住むのはルッコラ達のような獣人や森人だけなんだけど、この村はなんだかトクベツなんだと聞きながら彼女等は育った。
だから、そこにあるのは普通じゃないけど普通。
理由は良く分からない!
と言うのが、ルッコラの中での認識だ。
ただそのおかげで、自分たちが今まで生まれ育ってきたこの森で初期資金稼ぎが出来るんだから、何の問題もないとルッコラは思っている。
弟がどう思っているのかまでは彼女としては分かっていないが、何か致命的な間違えがあればさりげなく教えてくれるのがルッコラの可愛い弟だ。
だから、何の問題もないのだろう、とそう思っている。
「あとどれくらいこの村で稼いだら、他のところに行けるかなぁ……。」
「余裕をもって、五十万フィリス位は欲しいね。」
「うわぁ……。目標は遠いなぁ。」
ちなみに銀貨一枚が五百フィリスだから、五十万フィリスは結構な大金だ。
ルッコラが狩るウサギが大体五百フィリスで買い取ってもらえているから、単純計算でウサギを千羽狩らないといけない。
実際には、一日でそんなに狩れるモノでもなく、衣食住にも金がかかる為、実際にはもっと大量に――倍くらい?――狩らなくては賄えない金額だ。
ルッコラは、どれ位狩ればいいのかと考えようとして頭を振る。
頭脳労働は、弟のお仕事なのだ。
「多分、それ位あれば一年くらいはブラブラ旅して歩けるよ。」
「そっかぁ。」
「まぁ、稼ぎながら旅をするのも手だけどね。」
「それも楽しそう♪」
「ただ、それだと最悪の場合も想定しないと。」
「それって、ご飯が食べれないお話?」
「うん。」
「それはやだー!」
「だよね。」
夜の帳が落ち始める中、彼らは明日の予定や、夕飯の予想をしながら村への道を辿って行った。