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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
閑話 其の一 猫獣人クレソンとルッコラ
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その1

 クレソンは、ルッコラが眠り込むとベッドを抜け出す。

暫くの間、その寝顔を覗き込んでよく眠っていることを確認すると、窓際のテーブルの小さな灯りを頼りに明日からの遠出の際に採集できそうな品物の買い取りリストを広げる。

猫獣人のクレソンは、僅かな光でも昼と大差なくモノを見ることが出来るから、点す灯りは最小限で済む。

ぐっすりと眠りこんでいるから大丈夫だろうけど、疲れている彼女の顔に明かりが届かないよう自らの体で光を遮断した。

彼の可愛い姉は就寝時間が早い。

寝る子は育つと言うし、姉には健やかに育ってほしいクレソンは静かに資料を検めだす。


 クレソンが手元で開いている資料は、遠出の際に参考になるだろうからとハンターギルドの受付のカモミール嬢が、クレソンの為に用意してくれたものだ。

先輩ハンター達によると、おそらく他にハンターが出入りしていないヴァーヴ・ヴィリエだから受けられるサービスであるらしい。

生まれ育った里から一番近い陸人の村がここであったのは、随分とラッキーな事だったみたいだとその話を聞いて、有難く思う。

この森で育ったからある程度は把握しているとはいえ、どんなものに需要があって、どの辺りで採れるのかを一応復習しておいた方が良い。

実際に貰った資料と照らし合わせてみると、自分では思ってもみなかったものが高値で買い取られていたりするのだ。



――無知は損だな。

  ああ、これも今日採ってきたやつより効率よく稼げそうだったかも。



 今日採集したものと見かけたけれど持ち帰れる量と天秤にかけて諦めたものを思い返しながら、資料とクレソンお手製の採集ノートを突き合わせ、改めてそう思う。

この辺りではありふれた植物が、他の地域では珍しいなんていうのはどうやら良くある話の様だ。

折角こんなに詳しく書き出してもらえたのだから、きちんと活用しなくては。

特に、ルッコラは『世界を旅する』事が目的なのだから、需要が高くて買取価格も良いものを中心に採って歩いたほうが絶対に良い。

彼は、資料を確認しながら、コレを貰う事になった経緯を、ふと思い返す。




 実は、クレソン達は明日から先輩ハンター達と一緒に遠出をすることになっている。

その先輩方は、クレティエ大森林の北にあるデュパール山の麓で狩りをする予定でこの村までやって来たのだとか。


「その一員になっておきながらなんだけど、ハンターと言うのはモノ好きが多いんですね。」

「実際、遠出を楽しみの一部にしてる人もいるけど、少しでもお金が欲しいからって拠点を転々とする人も多いのよ。」


 自分たちもそのモノ好きの一員だと自嘲する彼に、受付嬢はそれが割と普通の事なのだと語る。

曰く、森人達のように森の恵みを享けられない陸人の村落では厳しい生活を強いられることもあるのだとか。

クレソンは、少しその話を聞いて親近感を持つ。

彼もルッコラも厳しい生活と言うのは体験したことがないが、1フィリスでも多く欲しいという気持ちは良く分かる。

旅をするのにも、随分な金額がかかると言うのは耳にしているのだ。

可愛いルッコラには精神的にも肉体的にもひもじい思いをさせたくないから、少しでも多く稼がなくてはいけない。


 受付嬢が彼らの話をしだしたのは、丁度、そちらの方でそろそろ採れる様になる品を採集する緊急依頼があり、受付嬢がその依頼の遂行を打診してみたものの、彼らは採集が得意ではないと断られたのが原因らしい。


「朝のですよね……。」

「そうなのよ。それで相談なんだけど……。」


 続く話の想像がついたクレソンが先を促すと、やはりそれを採集する能力のあるクレソン達に彼らと同行しないかと言う打診だった。

その依頼の内容を聞いて、ルッコラは飛び上がらんばかりにして喜んだものだから、クレソンとしては依頼を請けるのに否やがある訳もない。

喜んで一も二もなく引き受けた。

なにせ条件がいい。

先輩ハンターパーティの一員として扱われるという条件は、クレソン達にとっては利益の方が大きいハズで、よく先輩方がこの条件で引き受けてくれるものだと思ってしまうほどだ。

明日は昼過ぎに出る予定らしいから、朝もゆっくりできる。

少しくらい夜更かししても大丈夫だと、クレソンは回想を振り払い手元のリストに集中し始めた。

大変です。

カモミールさんの出番が出家してしまいました!!!

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