その29
「と、言う訳でだ。」
「皆でこんなの買っちゃいました~♪」
セージは今、やたらとテンションが高いディオンスとジャニーが大げさな仕草と共に差し出してきた小さなコイン型のペンダントトップを前に、当惑顔で目を瞬く。
そうでなくとも書き物をしているところに急に三人がやってきて驚いているというのに、差し出されている薄い魔銀製のソレは、どう見ても魔飾だ。
その小さなコインのそこかしこに細かな輝石が埋まっており、そこから魔飾特有の紋様が刻まれている。最近では、こういった細かな輝石を扱う魔飾師は減少の一途であり、この一種独特な造形美を醸し出している一品はこの村の魔飾師の少女が創ったものだと思われた。
彼らよりは冷静そうなステビアに、説明を求め視線を向けると彼女は心得たように頷き、口を開く。
「明日からの狩りが終わったら、解散予定でしょう?」
「ああ、そうだな。」
「だーかーら~♪」
「俺たち四人が共に戦った日々の記念に☆」
「……みんなでお揃いの、出来れば実用品をって事でそれを見繕ってもらったのよ。」
言葉と共に、またもや華麗な舞を見せるテンションの高い二人に奪われた視線を、再びステビアに戻す。
「……そういう趣旨なら、俺も一緒に選びに行きたかったな。」
彼の口から出たのは、紛う事なき本心だ。
なんだかこれだと、仲間外れにされたみたいでちょっと面白くない。
この村には、ハンターギルドの受付嬢でもあるミールの工房しか魔飾師の工房はないハズであり、セージも是非、彼女の店を訪ねたいと思っていたのだ。
誘って貰えなかった事に不満を感じるのも無理はないだろう。
「サプライズでプレゼントして驚かせたかったのよ。」
「そーそー!」
「サプライズ??」
なんだか嫌な響きだな、とセージは思う。
彼は、予定外の出来事と言うのが好きではない。
突発事項なんて、大概が碌なものじゃないからだ。
人為的に引き起こされるものなら尚の事、厄介ごとの確立が高まる。
「最初は魔道具って考えてたんだけど……予算がなぁ……。」
「お前らじゃ使えないだろうに。」
「いや、セージに使って貰う用に。」
「そんなん、渡されても受け取らんわ。」
ディオンスが無念そうに続けた言葉に、彼は頭痛を感じてこめかみを揉む。
魔道具と言うのは普通に買ったら、下手すれば年単位で働かずに過ごせる金額がするような代物だ。
それを自らが使うのではなく、他人に渡すために購入するだなんて、正気を疑う。
「それねぇ、ミールちゃんにも言われたぁ~♪」
「なんで、それで楽しそうなんだ……。」
あっけらかんとした口調でケラケラと笑うジャニーに、思わず苦笑が浮かぶ。
そういえば、こうやってバカ話をするのもあと僅かな期間なのか、と思うと急に寂寥感を感じる。
「あの子、よく見てるねぇ~? セージは、自分だけに買ったものは受け取らないだろうからって、これを薦めてきたの。」
ジャニーがそう言うと、三人揃って首元から同じ細工の魔飾を取り出す。
三人とも嬉しいような照れ臭いような、複雑な気持ちの入り混じった……でもイイ笑顔を浮かべる。
「お揃い!」
「こーゆーの、前からあってもよかったねぇ~?」
「でも、少し恥ずかしいかも……。」
楽しそうなディオンスとジャニーには悪いと思いつつも、セージはステビアと同意見だ。
いい年をして仲間とお揃い、と言うのはちょっぴり恥ずかしい。
「……確かに少し恥ずかしいが、嬉しくもあるな。」
ディオンスの手から、差し出されていた魔飾を手に取り、首から下げている魔道具の鎖に通すと首にかける。
「だが、自分の分の代金は払わせてくれ。」
「それはだーめ!」
「今まで、ずーーーーーーっとその魔道具を買い集めてたのは、趣味もあるかもだけど、パーティで請けられる仕事の幅を増やすためだろ?」
「お陰様で、随分と良い思いもさせてもらってきたんだもの。これ位、私たちに出させてほしいわ。」
確かに、セージが魔道具をあれやこれやと買い集めた事にそういう側面があったのは否定できない。
だが、それは趣味の品を集めながら少しでもいい生活をしたい、という気持ちからでたものでもあり、それを恩に着せるつもりなどさらさらなかった。
暫くの間、「払う」「要らない」の押し問答を繰り返したものの、結局はセージがその日の飲み代を負担することで最終的に手打ちにする事になると、彼らは早速宿の食堂へと向かう。
その日の夜、大いに盛り上がった彼らは翌日の昼過ぎに、新人二人組を連れ立ってデュパール山の方向へと旅立っていった。
少し風邪をこじらせているので、
次の更新は11月1日になります。




