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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
三話 オタク魔道士セージ
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その27

 言われてみれば、確かにセージがそう口にしていた事があったようにも思える。

彼が首や腕をぐるぐる回して、痛みを緩和しようとしたり、首の付け根を揉み解したりしているところはよく見る光景である。

だが、その『肩こり』が持病と呼ぶに値するモノなのかどうかという点がどうにも疑問だ。

三人が説明を求める様に、目の前に座る魔飾師の少女に視線を集めると、彼女は苦笑しながらそれについての説明を始めた。


「皆さんも、野営の荷物を運んびますよね?」

「しょっちゅうじゃないが、運ぶな。」

「うんうん~。」

「野営の荷物って野営する時には地面に降ろしますよね?」

「降ろさないと役に立たないから……。」

「その荷物を、寝るとき以外は常にずーっと身に着けたままでいるのが魔道士です。試しに、似たようなものがあるので身に着けてみましょうか?」


 ジャラジャラと音を立ててテーブルに置かれたのは、色とりどりの装飾品だ。

それを同じような重量になるように、ミールが三つに分けて三人に身に着けるよう勧める。

ディオンスは自分は男だからと遠慮しようとしたが、嫁に押し切られて首から大量のペンダントをぶら下げる羽目になった。


「さて、身に着けていただいた感じ、いかがでしょうか?」

「おっもーい!」

「うざったい……。」

「結構な重量感ね。」


 三者三様の感想に頷きを返しながら、ミールは心の中で気合を入れる。

彼らの『魔道具プレゼント鬼大作戦』という考えから『みんなニコニコ♪ お揃い記念アイテム贈り隊』へ切り替える為には、あと一押し必要そうだ。

ミールは訥々と、『肩こり』の恐ろしさについて語り始めた。




 ――彼らが陥落するまでにかかった、所要時間は三十分。


「――取り敢えず、魔道具は無しって方向で……。」

「確かにこれ以上、セージの重荷を増やすのは酷だわ……。」


 ずっしりとした重量物を外した彼らは、首を回したり腕を回したりと思い思いに体をほぐす。

この方法で解れるのは、まだまだ初期段階。

慢性化している凝り(・・)には、この程度では太刀打ちできないのだが、お試しで三十分程度の荷重を体験しただけの彼らにはそれで十分なのに違いない。


「そこは同感~。……で、肩こりの恐ろしさについて語ったり、辛さについて体験させたのって、理由があるんだよねぇ~?」

「ええ。今の状態で試していただきたい魔飾があるので。」


 ジャニーの揶揄う様な詮索の眼差しにミールは微笑で応えると、一旦、先ほどまで彼らが身に着けていたジャラジャラしたものを片付け、カウンターの陰からお試し用の魔飾を手に取り彼らの前に並べていく。

指輪・ペンダント・イヤリングなどの様々な装飾品に施されているのはすべて同じ魔飾だ。

効果としては主に『血行促進』。

眠っている間にも身に着けていると、寝ている間にこっそりと寝相のふりをしながらストレッチも出来る優れものである。

ちなみに、『カモミールの魔飾工房』で一番の売れ筋商品だ。

なにせ、人口の半分近くがお爺ちゃんお婆ちゃん世代。

肩こりを慢性的に患っている人も多い。

こういう商品が売れない訳がない。

まぁ腐っても魔飾であり、お値段もそこそこするのだが琥珀金貨二枚で購入できる為、つらい肩こりから解放されるのならと購入に踏み切る人間がほとんどである。

余談になるが、それに、血行が良くなるという事は女性にとっての悩み事でよく聞くお肌のトラブルの原因除去にもつながるらしく、この村の中では結構身に着けている女性が多かったりもする。

琥珀金貨二枚と言うのは、ヴァーヴ・ヴィリエ唯一の宿『ロベッジの宿』に一人客が40日泊まれる金額なのだが、その金額が安いのか高いのかは個々人の考え方次第というところだろう。


 ミールに促されて、それぞれ思い思いの装飾品を手に取り、身に着けて五分も経ってみると彼らの口から驚きの声が上がる。


「なんか、着ける前より体が軽く感じるような……?」

「あのジャラジャラのせいで感じてた、肩の重っ苦しさが減った?」

「これは……結構劇的かもぉ~。」

「疲労回復や、お肌のトラブル回避にもいいらしいですよ。」


 ミールがシレっとした顔でそう告げると、女性組が顔色を変えた。

ハンターと言えども、女は女。

美容問題については敏感なようだ。

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