その26
昨日、セージと話した時にミールが感じたのは、高潔さ。
だからこそ、アレだけの知識がありながら魔道学校での職にありつけなかったのだろう、と彼女は思う。
高価な魔道具をプレゼントされて喜ぶ人でなさそうだとも感じた。
今まで自分の取り分だけを使って揃えたという魔道具の数々を見ても、それが垣間見られる。
だから、彼の仲間たちがどんな気持ちでそれを贈ろうと考えたのかも分かる気がするのだ。
セージの魔道具を見せてもらって結果分かったのは、彼の魔力操作力が優れているという事。
彼の所持している魔道具はどれ一つとして、同じパターンの物はなく、更に言うなら魔飾師が趣味で作ったのだろうと思える程に高難度な代物だ。
多分、あまりにも繊細な魔力操作が出来ないと使えないようなものを作ってしまって不良在庫になっているのを買ったのだろう、とすべてを確認し終えたミールは思った。
不良在庫だから、通常価格よりも随分と安く手に入ったに違いない。
確かに厳密な価格規定は存在するが、何年も倉庫に仕舞い込まれている物はその限りではないから。
余談になるが、魔道具の不良在庫に関しては備品の類と同じで経年劣化が適用される。
経年劣化が殆どない魔道具にその制度が適用されることになったのは、過去に大穴をあてようとして需要のない代物を大量に作ってしまった魔飾師が新しいものを作ることが出来なくなったことがあるかららしい。
まぁ、そのアホな魔飾師のおかげで、セージのように不良在庫品の魔道具を安く入手できることがあるというのはハンターとしては助かる事なのだろう。
実は、ミールがアニスに玩具代わりに渡した魔道具も、その不良在庫の一種なのだがソレを出すつもりは今のところない。
アニスの玩具だからとか、セージが扱う事が出来ないとかいう理由ではなく、魔力操作にかかる時間が長すぎて実用的ではないのが理由だ。
「十分の一の値段の魔飾……ねぇ……。」
「でも、仕事に使うのは魔道具の方だよねぇ~?」
「その最低価格帯の魔道具と言うのは……」
「ご本人が既にお持ちです。」
ちなみに、嘘は一切言っていない。
いくら不良在庫を買い叩いたとしても、元の値段からすると安くなるというだけの話であり、元値が高いモノは値引きされてもやはり高いのだ。
どうしても超えられない金額の壁と言うのは存在していたらしく、その為にセージの所持している魔道具は、お安めな価格帯の物のみで構成されていた。
「いや、でも……どうしよっかぁ~?」
「魔道具買う気満々だったしなぁ……。」
沈鬱な表情で意気消沈する彼らに、ミールはここで一石を投じる。
「ところで、魔道士の職業病についてはご存知ですか?」
「「「職業病?」」」
三人の声がハモった。
やっぱり知らないのかと思いながら、ミールは話を続ける。
「魔道士って、仕事柄大量の金属製のアクセサリーを身に着けていますよね?」
「ああ。セージも結構な量の飾り物をつけてるなぁ。」
「着けてるわね。」
ミールの指摘にそれぞれに頷きながら、彼らはセージが着けている装飾品を指折り数え挙げていく。
それから不意に「でも、それになにか問題でもあるの?」と言わんばかりに首を傾げた彼らは、続く言葉に驚きの声を上げる。
「それだけの重量物を身に着けている魔道士の職業病、それは……」
「「「それは……?」」」
「ズバリ、『肩こり』です。」
「「「はぁぁぁぁあああ????」」」
そう。
肩こりこそが、魔道士達に共通する病であった。
そして、これを解消するための魔飾が、今回彼らにお薦めしようと思っている商品である。




