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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
三話 オタク魔道士セージ
63/82

その24

 昼食の片づけを終えると、三人は店舗に向かう。

店舗につくと、ミールは二人が展示してある魔飾を眺めながら世間話を始めるのを横目に、奥にある工房へ入る。

ちなみに、彼女が一人だけ工房に行くのはアニスがテンパるのを観賞するためではない。

いや、本当はそれも理由の一つだ。

だがメインの理由でないというだけである。

メインの理由は、ミールが居るとアニスが接客する必要がなくなってしまい、彼女の人見知り矯正プログラムが執行できないからだ。

ただ、何もせずに工房にいるのもばからしいので、ついでだから簡単に作れる日用品系の魔飾の在庫も作るつもりではある。

でも、店舗で二人と一緒におしゃべりに興じたいというのが本音なのだ。

ミールはため息を吐きながら、在庫作成に取り掛かる。



――ああ、そうだわ。

ついでに、アニスが遊べるようにいくつか高難度魔道具(知恵の輪)も作ろうかしら?




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 その頃。

ミールが工房の扉を閉じると、アニスとチコリは目配せを交わす。


「やっぱり、不安ですの……。」

「そうは言っても、確かにミールさんの言う通り少しずつ慣れて行かないといけない事ですからね。」

「解ってはいるんですのぉ……。」

「それでも、やっぱり不安にはなりますよね?」


 自分にも覚えのある感情だと思いながら、微笑を返す。

なにせチコリ自身、ミールが作った魔飾(カフス)を着けているからこうやって胸を張っていられるのだ。

ソレがなかったら、今のように振舞う事は出来ていなかっただろうと思うと他人事ではない。

実はアニスの『人見知り』の方が、自分の『自信喪失状態』よりもずっと軽症なんだろうと彼女は思う。

なにせ、矯正道具(補助用の魔飾)が必要ないのだから。


「大丈夫ですよ。」

「ほんとに……?」

「お茶を淹れに下がるまでは、私が居るし、隣の工房にはずっとミールさんもいる訳ですから。」

「……頑張りますの……!」


 ギュッと小さな手を握り締めて、決意を込めた言葉を口にするアニスに、チコリは頬を緩める。



――妹でも出来たらこんな感じなのかな?



 種族的な差があるから、生きている年数的にはアニスの方が遥かに長いはずなのに、なんだか彼女はとても幼く、可愛らしい。

だからついつい、こんな風に彼女の事を甘やかすようなことをしてしまうのだ。

ミールが何かの拍子に、『かわいいは正義!』と口走った事があった。

その時のチコリは苦笑交じりに妙なことを言うな、等と思ったのだが、今となってはその言葉に同意するしかない。

本人に自覚がないものの、チコリは順調にミールに毒されていた。



 チリンチリン

澄んだ鈴の音が店内に響き、来客を告げる。


「いらっしゃ……」


 覚悟していたものが来たと、引きつり気味の笑みを浮かべて声を上げかけたアニスの声が途切れた。

凍り付いたアニスの笑顔を不審に思いながら振り返ったチコリの目に、三人のハンター達の姿が映り、彼女の反応に納得する。



――えっと?

お客さんって、一人だったんじゃありませんっけ?



 想定外に多い来客に、既にパニックになりかかっているアニスを軽くつつくと、必死に助けを求める大きな瞳に見つめられてしまう。

とっさに、その期待に応えかけたチコリはソレでは駄目だとハッと我に返り、彼女がやるべき事を小声で示唆する。


「こんにちは。店主さんとお約束をしていたのだけれど……。」


 アニスの様子に戸惑いながらも用件を伝えてきたのは、紫髪の女性。

昨日、この工房にやってきたと言うのはこの人なのだろうとチコリは思う。

後ろにいる二人も、一昨日、宿の夕食の席で見た記憶がある。


「いら……いらっしゃぃ……マセ……。」

「……今、店長さんは奥で作業中だそうですよ。」

「あ、わた、わたし、イマヨンデキマス!」


 あまりにも噛み噛みなアニスの返答を見かねて思わず、チコリは助け舟を出す。

アニスは、その言葉に逃げ場を見つけたらしい。

相変わらず噛みながらも、ミールを呼んでくると何とか言い切り一礼して工房へと飛び込んだ。


「「「……。」」」


 彼女が入っていった扉を呆然と見つめる三人組に、チコリは苦笑交じりに釈明を試みる。


「彼女、すごい人見知りなんだそうで……」

「人見知りにしても、ちょっと度を越えてねーか……?」


 返ってきた返答に同意を返すと、チコリはミールが顔を出すのに合わせてそそくさと宿へ戻っていった。

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