その20
ハンターギルド本部からの依頼書と、倉庫にある在庫を突き合わせて納品できる物を転送し終わり、地下から上がる。
次の予定を思い浮かべながら時計を見ると、丁度もうすぐ、明日からデュパール山の麓へ狩りに行く為に転送袋の貸し出しを受けるセージとの打ち合わせの時間だ。
今日は何故かいつもよりも依頼書が多かったから、予定の時間に遅れてしまうのではないかと思って焦ったのだが、大丈夫だったとミールは胸を撫で下ろす。
昨日のうちに用意しておいた、貸し出しプランを書き出した用紙のチェックを行い、問題ないことを再確認できたところでセージが到着。
――なんて、完璧な時間配分!
心の中で自画自賛する。
褒めてくれる相手がいないから、自分で褒めてテンションを上げるのだ。
これもある種のボッチスキルかもしれない。
転送袋の貸し出し手続きの為に受付にやってきたセージと共に、食堂のテーブルに着くと早速ミールは貸し出しプランの説明を始める。
実は転送袋と一口に言っても色々な種類があり、更に転送されてきた品物をどう処理するかと言うサービスある為、貸し出し時には必ず詳しい内容を貸し出す側であるギルドと、借り受けるハンターの間で打ち合わせる必要があるからだ。
「――異常が今回のプランになります。」
今、ミールが提案したプランは以下の通り。
その1 大型魔獣1体相当が収容できる大容量の倉庫。
帰還、もしくは出発から半年の間、中の品物には手を付けない。
ただし、半年の間帰還しない場合中の品物はハンターギルドの所有となる。
補償金 金貨5枚 貸出料 琥珀金貨5枚/1日
その2 大型魔獣1体相当が収容できる倉庫。
毎日、夕方に中の品物を取り出し解体などの諸作業を行う。
諸作業の後には、ギルドのパーティ口座に買い取り額を順次振り込む。
補償金 金貨5枚 貸出料 琥珀金貨1枚/1日
その3 中型魔獣1体相当が収容できる倉庫。
帰還、もしくは出発から半年の間、中の品物には手を付けない。
ただし、半年の間帰還しない場合中の品物はハンターギルドの所有となる。
補償金 金貨1枚 貸出料 赤金貨5枚/1日
その4 中型魔獣1体相当が収容できる倉庫。
毎日、夕方に中の品物を取り出し解体などの諸作業を行う。
諸作業の後には、ギルドのパーティ口座に買い取り額を順次振り込む。
補償金 金貨1枚 貸出料 赤金貨1枚/1日
「2番目のプランの解体手数料については?」
「手数料を除いた分が、口座に振り込まれる金額になります。」
「あと、『諸作業』の内容を。」
セージの経験からすると、この『諸作業』という項目が意外と曲者だ。
『諸作業』の内容は、各ギルド支部によって違ってくる。
場合によっては、同じ支部であったとしても担当者や、その時期の繁忙具合によって変わってくるものだ。
きちんと確認する必要がある。
「毎日の夕刻時点で取り出され処理した品物を、翌朝までに入った調達依頼と突き合わせて納品した上で、残った分を通常買取させていただきます。」
セージの問いに返ってきた返答は、今までの中で最も良い条件であり、彼は即座にそのプランを使う事に決めた。
一番多いパターンが、そのまま通常買取価格で引き取るもの。
ひどい場合だと、全ての支部での最低買取値で引き取るという事もある。
今回のように、調達依頼の内容と突き合わせて納品した上でと言うのは、最も実入りが高くなる上に、依頼達成実績にも反映されるからハンターにとってはとても有り難い。
その反面、担当者に大きな負担がかかる為、ここくらい寂れた支部でないと請けることのないサービスだろうとセージは思う。
「成程。なら、2番目のプランで。」
十年も活動しているパーティだけあるという事なのか。
商談が随分とあっさりとまとまったな、と言うのがミールの側としての感想だ。
彼女としては、少し拍子抜けしてしまう。
実は、この転送袋の貸し出し契約では、ハンター側と結構揉めるらしいのだ。
一日当たりの貸出料を少しでも減らせた方が実入りが増えるのだから、少しでも多く稼ぎたいパーティなどは随分とごねるモノだと聞いていた。
「随分とあっさりしてらっしゃるんですね?」
ルッコラのように粘着されることも想定していたミールは、あっさりと決定したセージに思わず、拍子抜けした口調でそう問いかけてしまった。
「そりゃあ、十年もハンターをやってればこの金額が格安だなんて事は学習する。」
「成程ぉ……。」
ミールは、セージのその言葉に感銘を受ける。
誰だ、ハンターをやってるやつが脳筋ばかりだと言ったのは?!
しかし、続く言葉で彼女は即座にその思いを消し去った。
「それでもごねる奴はいるが、時間の無駄だろう。」
そこに関してはどうやら人によるらしい。
これでごねる人が居たら困るな、と思わずミールは顔を引きつらせる。
今回の商談相手が頭脳労働系の魔導士だったというのも、やたらとあっさり決まった要因なのかもしれない。
「まぁ、自動買取付きでこれ以下を望むのもどうかと思うんだが……。」
「ご理解があって有難いです。」
ミールは心の底から、その言葉を口にする。
その1とその4のプランに入っている『解体などの諸作業』の内容については、彼女としても中々悩ましかった。
一番作業として楽なのは、その日のすべての支部での最低買取価格で一括買取をするものだが、それだとハンターにとってあんまりだと思う。
更に言うなら、ヴァーヴ・ヴィリエが底値に近いハズであり、通常買取価格でも一番作業が楽なものと大差ない。
結局、色々悩んだ結果、彼女は作業が煩雑になるのを覚悟のうえで、自分がハンターだったらこうして貰えると嬉しいであろうという案を採用することにしたのだ。
だからこそ、どういった契約にするかと頭を悩ませた内容について、相手の理解を得られた手応えに彼女は頬を緩めてしまう。
そしてこの達成感は、作った魔飾を喜んでもらうのともまた違う喜びだな、と心の片隅で思うのだった。




