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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
三話 オタク魔道士セージ
55/82

その16

 セージは仲間たちよりも一足先に部屋に戻ると、夕飯で同席した新人ハンター二人組の事を思い返す。



――なかなか、面白そうな二人組だったな。



 というのが、彼個人としての感想だ。

猫人族であるというだけあって、軽戦士だと言った娘の身のこなしはしなやかで軽く、魔法士だという少年の魔法の腕のほどはまだ不明だが、言動から察することができる範囲では無能という事はないだろう。

軽戦士の娘――ルッコラだったか――の軽挙にも感じる言動は少しどうかと思うが、面白い二人組だ。

ルッコラの提案というよりも売り込みと言うべき発言は、一旦保留にしたものの少し心が揺れたのは事実だった。



――今回の遠出が終わった後の身の振り方について悩んでいたが、後進育成という事にして彼らとパーティを組んでみるのも良いかもしれないな……。



 本人達に本当にその気があるのならば、だけれども。

その場のノリというものも存在するからと、今日のところは返事を保留したのだが、年若い彼らと共に行動するのは少し楽しそうだと個人的に彼は思う。


 ただパーティを組んでいる今、それはセージの意向だけで決められるものではない。

一緒にハンターを続けると言ってくれているステビアの考えも聞くべき案件だ。

それに、彼女と彼の意見が合わなかった場合は、そのままパーティを解散することになってしまう事もあり得るのだが、セージとしては、それは少し寂しい。

なにせ、十年も苦楽を共にしてきた、半ば家族と言ってもいい関係の相手だ。

お互いにハンターを続けているのなら、変な我を通して決別するのも面白くないから、彼女が嫌だというのならば無理を通すつもりはない。



――まぁ、ステビアにも打診してみようか。



 どうせ、口に出さなくては互いの考えなど分からないのだ。

取り敢えず、明日の朝にでも彼女の意向を確認してみようと心に留めて、論文の続きに取り掛かることにした。

今日は、実地で魔飾を作っている人間の話を聞くことも出来たから、筆が進みそうだ。

彼は、趣味的に充実していた午後のひと時を思い出し、頬を緩めつつペンを手に取った。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 セージが部屋に戻るのを待っていたかのように――実際、待っていたのだが――ステビアはハンターギルドのカウンターから呼び出しを受け、首を傾げながらそちらへと向かう。


「昼間にお伺いした件のお返事をさせていただこうと思いまして。」

「昼間というと……。」


 受付に居るのはやはり何度見直しても、昼間の魔飾師の娘だ。

なんで魔飾師がハンターギルドの受付なんかをやっているんだろうと、改めてステビアは不思議に思う。

収入なら本業だけでも十分だろうに。


「サプライズプレゼントの件ですけど、作成可能になりました。」

「は?」


 確かに昼間この娘と話したのは、セージへのサプライズプレゼントとして魔道具を贈りたいと言う話をしたきりだ。

その時にはけんもほろろに断ってきたのに、今度は引き受けられるなんて一体どういう事だと目を瞬く。


「実は、あの後ご本人とお話しする機会があって、一通り魔道具を拝見できたので作るのは可能になりました。」

「はぁ……。」


 あまりに驚きすぎて、ステビアの口からは生返事しか出てこない。

彼女が依頼されれば作ることができる様になった理由を尋ねて帰ってきた言葉に、ステビアの口から乾いた笑いが漏れる。



――何というか、その場面が目に浮かぶようだわ。

だから、さっきあんなに機嫌がよかったのね。



 苦笑交じりにその時の事を話す彼女に少し同情の念を覚えながら、夕食の席で彼がやたらと上機嫌だった理由を悟る。

今までも、他の魔導士とそういった状態になる事があったが、魔道具や魔飾の話になると彼は少し人が変わったようになるのだ。

今回は、実際にそれらを作る魔飾士を捕まえることが出来た訳だから、余計にそれが顕著だったらしい。

普通、魔飾士は工房の奥に閉じこもっていることが多いし、出てきたとしても長々と世間話をする事なんてないのだ。

だからセージのテンションが可笑しくなるというのは分からないでもない。

例えるならばステビアやディオンスが、剣聖と呼ばれるような人物に出会ったりなんかしたら、きっと今日のセージと大差ないテンションになる……ような気がする。

いや、もしかしたらならないかもしれない。


「明日の午後でしたら、工房の方に居りますのでご相談に乗りますね。」


 ちょっぴり思考の海に沈みかけていたステビアの意識が、その声で現実に立ち返る。

明日の午後、セージ以外の仲間三人で訪ねる約束をしたステビアは、軽い足取りで仲間たちの元へと戻っていった。

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