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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
三話 オタク魔道士セージ
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その15

「補償金に最低10万フィリス~?!」


 聞かされた金額に驚きの声を上げながら、ルッコラは思わず席から立ち上がる。

驚きのあまり、ピンと立った尻尾がぶわっと膨れ上がり、本来の太さの三倍はあるように見えた。


「まぁ、大金だよなぁ。」

「だねぇ~。だから、よっぽどの大物を……って時位しか借りないもんね。」


 ルッコラを驚かせた二人組は、呑気に笑いながらそう告げる。


「登録してから一年以上経っていて、それなりに堅実に稼いでいれば問題なく出せる金額ではあるのよ。」

「そういうもんなのぉ……?」


 彼女は涙目で、隣に座った明るい紫髪の女性――ステビア――に宥められながら腰を下ろしなおす。

何で補償金なんてものが必要なのかとブツブツ言っていると、ステビアの隣から答えが貰えた。


「転送袋は、二つセットで役割を果たす魔飾だからだ。」

「セットで?」

「ハンターは危険な仕事だから、転送袋を貸し与えた先で死ぬこともあれば、何かの事故で失ってくることもある……というのは分かるか?」

「うん、まぁ……。」


 ルッコラは、自分はそんな事にならないと言う新人にありがちな勘違いを頭に思い浮かべながらも取り敢えず同意する。

彼女も、空気が読めないわけではないのだ。

その返事に返ってきたのは苦笑で、自分の考えを見透かされた気がして、彼女の頬が羞恥に染まる。


「……悪い。みんな、同じことを考えるんだ。」

「ふぅん……。」

「転送袋の話に戻ろうか。まず、転送袋というのは二つで一つの魔飾だというのはさっき言った通りだ。

送る物を入れるための『袋』と、送られたものを受け入れる為の『箱』がそれにあたる。」

「転送袋って、見えないどっかに仕舞う為の道具じゃないの?」


 赤毛の男――セージというらしい――の言葉に、ルッコラが戸惑いの声を上げると、彼は面白そうに含み笑いを漏らす。


「そういう勘違いが多いのは確かだけどね、所定の『箱』に向かって『転送』する袋の事を転送袋と呼ぶんだ。」

「私も、セージに教えてもらうまで同じ勘違いをしてたわ。」


 ステビアの言葉に、ルッコラは強いて自分だけがアホな子だと言う訳じゃないのかと胸をなでおろす。

クレソンも、表面上は平然としているように装っていたが、内心は似たようなものだ。

彼の場合は表情には出なかったものの尻尾が膨らんでいたので、それに気が付いたジャニーは笑いを堪えるのが大変だった。


「で、この袋と箱はどちらか片方を沢山作るという事は出来ない。」

「どーゆーこと?」

「大きな倉庫を用意して、そこに誰も彼もが複数の袋を用いて荷物を送ることができない……イコール、箱がたくさん必要になる。」

「……箱を置く場所もたくさん必要になるという事?」

「正解だ。」


 その後も彼が説明してくれた話からルッコラ達が理解したのは、魔飾というのがひどく高価な代物だという事。

その高価な魔飾である転送袋を紛失した場合、袋だけでなく転送先の箱にあたるモノも作り直す必要がある為さらに値段が吊り上がるらしいという事。

ハンターギルドで使用している転送袋は、送られた先で鮮度などを維持する機能も備えている為、これまた値段が吊り上がるのだという事。


「それ、買えるだけのお金があったら、世界中を旅して回れそう~!」

「違いないな~!」

「いえてるぅ~!」


 ルッコラの嘆きの叫びに、明るい緑髪(ディオンス)黄髪(ジャニー)が明るい声で同意を唱えて盃を打ち合わせる。

もう大分、二人とも酔いが回っている様だ。


「そうなると、借りれないなら買おうって言うのも現実的じゃないですね。」

「買えるころには、借りる方が安くつくだろうな。」


 クレソンの呟きに、同情するように赤毛(セージ)が相槌を打つ。


「やっぱり、地道にやるしかないのかぁ~……。」

「荷物を少しでも多く運びたいというのなら、あとは台車のようなものを使うと言う手もあるな。」

「台車ぁ~?」


 カッコ悪い―! と大声を上げて仰け反るルッコラの反応に笑いながら、紫髪(ステビア)が台車の利点を挙げる。


「どこにでも運べるわけではないけれど、採集している場所の近くの道の端に置いて置けば、戻る時には背嚢だけの時よりはずっとたくさん運べるから私達も最初のうちは結構重宝したわよ?」

「でも、なんかカッコ悪いなぁ……。」


 話しの合間に、夕飯として提供されたオムライスを口に含みながらぶーたれるルッコラに、同席した先輩ハンターの四人組は昔の自分たちを思い出して思わず笑みを浮かべた。

やっぱり、女性陣が台車――彼らの時は大八車だった――を使う事を同じような理由で渋ったのだ。

結局、強引に男二人が押し切って使ってみたら、その有用性に手放せなくなってしまったのだが。


「台車使うなら、ルーは引かなくていいよ。」

「クーが引くのもなんかヤダ。」


 ルッコラの口の端についたケチャップを身を乗り出して拭いながらクレソンがそう提案するが、彼女はそれをすっぱり切り捨てる。

代わりに、ステビアの向こう側にいるセージに向かってこう言い放つ。


「リーダーさん。将来有望な魔法士兼採集家と軽戦士の育成を手掛けてみる気はなーい?」


 その先走った言動に、クレソンは頭を抱えたくなる。



――そういう事は、二人できちんと話し合ってからにして欲しかったんだけどな……。



 話してみた感じ、彼らの人格的には問題なさそうではあったものの、事前の相談は欲しかったと彼はこっそりため息を吐いた。

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