その14
猫人族の姉弟が食堂へ降りて行った時には、だいぶ客が増えてきていて空席も僅かなものになっていた。
「……ゆっくりし過ぎちゃった?」
「目的の席は空いてるから。」
少し困り顔になった姉の耳元でクレソンはそう伝えると、早い時間からその席についていた四人組の近くの席へと陣取る。
彼らはどうやら、以前こなした仕事にまつわる昔話に興じていたらしい。
「あれぇ~? 新人ハンターの双子ちゃんだぁ~。」
少し間延びした声で、黄色い髪の女が猫人族の二人組に笑いかける。
もう既に、結構酒が回っている様子だ。
「お隣を失礼します、先輩方。」
クレソンがそう口にしながらはにかんで見せると、黄色い髪の小柄な女は嬉しそうに悲鳴を上げる。
「か~っわい~い!!!」
弟に対してのその反応に、ルッコラはちょっぴり不満を滲ませた表情で彼の前に腰かけた。
ちなみに、弟が『かわいい』と言われたのが気に食わないのではなく、自分が言われなかったのが気に食わないだけである。
「新人?」
「そーそー。確か、昨日登録したばっかりのハズ~!」
「……よくご存じですね。」
赤毛の男の問いに、黄色の髪の女はそう返す。
クレソンは一瞬、何でそんなことを知っているんだと思ったものの、それを表情には出さずに彼らに自己紹介をする事にした。
昨日登録したばかりだという事は、別に秘密でも何でもない。
ギルドのお姉さんと、多少の世間話をして聞いたとかそんなところなのだろう。
「昨日、ハンターギルドに登録したばかりのクレソンと……」
「ルッコラでーす!」
さっきの不機嫌顔はどこに行ったといいたくなるほどのイイ笑顔で、ルッコラは愛想を振りまく。
彼女の機嫌はいつも山の天気のようにコロコロ変わるのだ。
今更、この程度のことでクレソンは驚かない。
「はは。初々しいなぁ~!」
「あったなぁ~。私もこんな頃。」
「ジャニーは最初からこの調子だったじゃないか。」
淡い緑の髪のゴツ目な男が言うと、黄色い髪の小柄な女はどこか遠くを見るような目つきでそう呟き、赤毛の男に突っ込みを入れられる。
黄髪の女はジャニーというらしい。
「そぉかなぁ~? ルッコラちゃんみたいに可愛かった気がするよぉ~?」
――ないな。
クレソンは心の中で即座にその言葉を否定する。
どう見たって、見た目だけならルッコラの方が可愛らしい。
少々残念な事に、ルッコラの方が彼女よりも少し脳みそが軽めみたいだけれど。
ジャニーと呼ばれた女が、他のメンバーに笑われながらもこちらを観察しているのを感じて笑みを浮かべると、あちらからも同じ表情が返ってくる。
――僕の同類、かな?
「良かったらこっちにおいでよ。折角だから、おねーさんたちがハンターとしての心得を色々教えてあ・げ・る♪」
「宜しいんですか?」
「お、そんじゃ詰めるか。」
これからどうするかを考える上でも彼らの情報を得る必要があるから、彼らの方から誘ってくれるのは正直助かる。
例の言葉を告げると、彼女の隣に座った明るい緑髪の男と赤毛の男が席を詰めてくれた。
「いろいろご教授いただけると助かります。」
クレソンはこの後、ルッコラが変な脱線をしすぎないように様子を見ながら彼らから情報を引き出せればいい。
ジャニーの隣に座りながら、「あとはよろしく」とばかりにルッコラを見れば、「今度は私の出番!」とばかりの笑みが返ってくる。
知らない人との最初の交渉はクレソン。
色々聞きだすのはルッコラ。
聞き出した情報をかみ砕いて選り分けるのがクレソン。
これが二人にとって情報を手に入れたい時に、一番効率のいいやり方であった。
 




