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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
三話 オタク魔道士セージ
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その5

 ギルドの雑用を片付けて家に戻ってきたミールの目に、先程宿から出ていった女性の姿が映り、彼女は首を傾げる。



――あのお姉さま……ステビアさん、でしたっけ?

村の散策にでも出たのかと思ってたのに、何でこんなところに居るのかしら??



 しかも、彼女は窓から中を覗き込んで何やら話しかけている様子だ。

これは、見知らぬ人がやってきた事に驚いた人見知りのアニスが閉じこもってしまったのに違いない。

ミールは怯えて涙目になったアニスを思い浮かべて、思わず口元がニマニマと緩みそうになるのを必死で抑えこむ。



――怯えて涙目のアニスさん、滅茶苦茶可愛いんですよねぇ……。



 困り果てた様子のステビアには悪いが、流石のアニスも村の人には慣れてきている為、最近ではレアな表情だ。

折角なので堪能させてもらおう。

アニスの涙目をオカズに、今日のお昼御飯は随分と箸が進みそうだ。

弾む足取りで前庭にあたる部分に足を踏み入れると、その気配にステビアが振り返る。



――伏兵が!

伏兵が居た?!



 お姉さま然とした雰囲気のステビアの困り果てた表情に、ミールは胸を射抜かれた。

ギャップ萌え、しゅごい。

ミールは不意打ちで萎かけた足を必死に立て直すと、何とか表面を取り繕い微笑を浮かべる。

この辺は幼い頃に仕込まれた特訓の成果の見せどころ。

笑顔で本心(本性?)を隠すのは、それなりの家の出であれば必須スキルであり、ミールも勿論その技を仕込まれていたのだ。


「ウチの工房にご用ですか?」

「あなたはギルドの……?」


 紫の髪の女剣士は、驚きに目を見開くと扉の傍らに吊り下げられた魔飾師工房の看板と彼女の顔を交互に見やる。


「ウチの工房って言う事は、あなたは魔飾師……さんなのかしら?」


 ミールが静かに頷くと、ステビアは「居たんじゃん……近くに。」と、いかにもやらかしましたと言う表情でうな垂れた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 工房の前で話すのには長くなりそうだ、と言われてステビアが通されたのは店舗として使っているらしいちんまりとした空間だ。

可愛らしいテーブルクロスに覆われた丸テーブルに、背もたれつきの小洒落た椅子が三脚用意されていて、こう言った長くなりそうな商談の時に利用しているらしい。

工房を外から見た時点でも感じたけれども、随所に女性らしさが漂う可愛らしい空間だ。

目の前の彼女いわく、先程私から逃げ出してしまった娘の趣味だそうだけれども、少女趣味過ぎず落ち着ける素敵な空間だと思う。

こんな喫茶店が拠点にしている町にあったら、毎日通いたい。


「ああ~……。そう言う理由でこの村の魔飾師を探していたんですか……。」


 私がこの村で魔飾師の工房を探していた理由を聞き終えた、工房主でもありハンターギルドの受付嬢でもある目少女は、困った様な笑みを浮かべる。

私は彼女が困る理由が分からずに首を傾げた。



――まさか作らないなんて、そんな事は言わないわよね?



「リーダーの方のおっしゃる通り、魔飾と魔道具は元を正せば同じ物ですからお作りする事は出来ますけれど……。」

「……けれど?」

「正直、魔道具はサプライズプレゼントとしてはお薦めできません。」

「お薦めできない……?」

「はい。理由はいくつかありますけれど……。」


 それから彼女が口にした理由は簡潔に言うならこんな感じだ。


・魔道士には魔道具との相性があり、相性の合わないものは使えない。

  その為、本人からの注文もしくは本人が自分との相性を確認しながら入手する必要がある。

・彼等が使える魔道具の数には限りがある。

  個々人の能力により、その数にはバラツキがあるがハンター登録している魔道士の平均は15個。

  既に20個は所有している彼には、これ以上の数を扱う事が出来ない可能性が高い。


「でも、魔飾は一人の人間が使える数に限りなんてないじゃない。」


 思わず出た反論に、しかし彼女は冷静に答えを返す。


「身につけるタイプの魔飾ですと、実際に効果が出るのは……うまく組み合わせてやっと最大10個と言う所です。それ以上は他の魔飾と反発しあってしまい、本来の能力を発揮する事はありません。」

「そんな……。」


 それは完全に初耳だった。

上級ハンターと呼ばれる人がいくつもの魔飾を身につけ、自慢しているのを見ていたから、ステビアは魔飾と言うのは付ければつける程能力を増強してくれるものだと思いこんでいたのだ。


「最後にもう一つ。」


 魔飾師の少女は、唇に指を当てて少し残念そうな表情で視線を逸らす。


「リーダーさんは、私の作る魔道具はお気に召さないと思いますよ?」

「……?」


 ステビアは、彼女の言葉の意味を測りかねた。

必要とされる機能を果たせるのなら、気に入るも気に入らないもないのではないか。

不思議に思い彼女を見詰めるステビアに、彼女は苦笑を返す。


「そうですね……。宿の部屋にある魔飾について、彼から個人的な見解を聞いてみたら分かると思いますよ。」

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