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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
三話 オタク魔道士セージ
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その2

 魔道士と言うのは金が掛かる。

なぜならば、魔道士というのは本来魔法が使えない陸人が、道具を介して魔力を顕現する方法を学んだ者たちの総称であり、魔道具が無ければその力を揮う事が出来ない為である。

そして、その魔道具はとても高価な代物であり、最も弱い攻撃魔法を模した道具であっても一万フィリス――銀貨で20枚――程度の金額にはなるのだ。


 ところで、この魔道具。

実は、ミールの作る魔飾と同じものである事は余り一般的には知られていない。

勿論それを扱うモノと触れ合う機会の多いハンターには知っている者も多いのだが、町に根付いて暮らしている者達にとって、それらは別の物だと言う認識だ。

主に生活に即しており、魔力供給源を大気中に漂う魔力で賄う魔道具を『魔飾』。

攻撃に特化した、使用者の魔力により機能を果たす物は『魔道具』と呼ばれている。

勿論、『魔飾』の中にもチコリの耳飾りの様に使用者の魔力を利用するモノもあるのだが、大まかな区分としてはそうなっていると覚えて欲しい。

魔飾と魔道具の差は他にもあるのだが、専門的な話になってくるので今は割愛しよう。

呼び名がどうあれ、これらは高価な輝石や貴金属などを使用し、専門の技術を持つ者の手によって作り出される為に、どうしても値が張る。

そして、魔道士が自らの手札を増やす為にはその値の張る魔道具を買い集めるしかない。

その為、彼等はその道を極めようとすればする程貧乏になっていく者が多かった。




 かく言う彼も立派な魔道具貧乏の一人だ。

彼――セージと共にハンター業を営んでいる仲間達は、腕利きとまでは言わないが、まぁそこそこ稼ぐ事が出来ている中堅パーティである。

大イノシシくらいならば、大した傷を負う事もなく狩る事が出来るし、それよりも手強い風狼などの群れを相手にしても手傷を負う事無く討伐が可能だ。

お陰で彼も、パーティの運営費用を除いて分配した収入によって、それなりの質と数の魔道具を入手する事が出来ている――いや、出来ていたと言い変えた方が良いかもしれない。

それも、後少ししたら難しくなってしまう。

なにせ、仲間である剣士のディオンスと斥候のジャニーが結婚してしまい、近いうちにパーティを解散すると言う事になっているのだから。

ハンターとして生活している者は多いものの、上手くやっていける相手と言うのは意外と少ないものだ。

彼等が抜けた後は、暫く色々と不自由するのが予想された。


「この村に来たのは初めてだけど、防壁が無いなんて変わった村だな。」

「そぉだねぇ~?」

「普通、こんな森の中にあったらそれなりの防壁がある物だものね。」


 そこでディオンス達の提案により、最後のひと稼ぎをしようと言う事になったのが、このヴァーヴ・ヴィリエと言う村へやってくる事になったきっかけだ。

陸人の町から遠いデュパール山の魔獣は、流通量が多くなく割と高値がつきやすい。

彼等の新生活の資金を調達するのにも、残されることになるセージとステビアが新しいメンバーを見付けるまでの間、食いつなぐだけの現金を得る為にも都合が良さそうである。

高所に登らなければ、彼等の狩り場として問題もない。

今回は、山の入り口付近に出没すると言う魔獣を狩る予定だ。

その辺りの魔獣ならば、彼等がこれまでに狩ってきた獲物と大差ないらしいのだが、その山の入り口と言うのが兎に角遠い。

ただ往復するだけでも10日以上はかかると言う辺りか。

今まで、拠点としているセルブールから往復3日程度の範囲で稼ぐことの多かった彼等にとって、その距離は少しきつく感じるが、今回に限っては誰も文句を言う者は居なかった。

むしろディオンスとジャニーの二人は、異様に熱心にこの遠出の計画を推し進めてきた位である。

それに、なによりもその辺りは余りハンター達が出入りする事もない為、毛皮などの素材が出回る量が極少量であり、実際の価値よりも多少は高く売れるらしい。

イメージとしては、虎の毛皮が黄色いか白いかといったところか。

大差ないけど差があるのだ。


「それはそうと、今までここに来なかったのをあたし、すっごく後悔してるところ!」

「オレもだな。」


 ジャニーが、大げさに嘆く。

セージも同感だ。

彼等は元々、この村に最も近い陸人の町セルブールのギルドを拠点に活動していたからいつでもここに来る事が出来た筈なのである。

それなのに、一度も来た事が無かったのは何故か?

単純に、この村から出される討伐依頼が無かったのもあるが、彼等自身が大した事のない寒村だろうと決めつけていたせいだ。

なにせ、国の中でも北端にある村であり、特別な特産品の噂も聞かない。

それなのに、来てみたら宿は小奇麗で飯は旨く、その挙句に値段も良心的ときている。

初心者の頃にここを拠点としていたのならば、随分と生活が楽だったのに違いないと彼等は今更ながらに自分達の先見の明のなさを嘆いているところだ。


「こんなに美味しいご飯が食べられる挙句に、部屋は綺麗だし。コレで銀貨一枚とか、セルブールで活動するよりこっちの方が良かったかもなぁ……。」

「新居はここにするか?」

「いいねぇ!」


 彼等はとっくに朝食を食べ終わって、今は朝から別料金を出して酒を飲みながら肴をつつきつつ、今後の落ち着き先について語り始めた。

セージはソレを眺め、自らの食べかけの朝食を食べすすめる。

白飯に味噌汁、川魚の焼き物にお漬物。

立派に美味しい朝御飯だ。

みそ汁の具はミョウガ。

口にすると程良い塩気と出しの利いたみその香りに混じって、独特の清涼感が鼻に抜けていく。

悪くない。

彼は飯粒一つ残さず綺麗に平らげると、箸を置き席を立つ。

このまま同席していると、一緒になって呑みたくなってしまう。

今の彼は、その金も惜しい。

何せ、昨日の夜もその一心から早々に部屋に引き取ったほどである。


「今日から三日の間は休養日にするから、それぞれゆっくりするとしよう。」

「おう。んじゃ、また夜な!」

「のんびりしてらー!」

「後で、お茶でも差し入れるわね。」


 メンバーの返事に頷くと、セージは部屋に戻る為階段へと向かう。

これから彼は、内職の時間だ。


「貧乏暇なし……か。」


これは自分みたいな人間の為の言葉だと、彼は自重する。

チコリ辺りがその言葉を聞いたら、きっと心の中で『仲間!』と叫ぶ事だろうが彼女は既に狩りに行っていた為その言葉を聞く事はなかった。

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