その15
結局方針は、食堂の一角の雰囲気がおかしいと心配して覗きに来たロベッジの鶴の一声で決まった。
「なら、『お見合い』目的じゃないパーティを経験させてやったらどうだい?」
その言葉の後には、「もちろん、あんたの出資で」と言うお言葉がディルに向けられたのだが。
「と、言う事は……」
「タダ酒が呑めるって事ね!」
ビルの言葉に被せるようにして、ミールが気合いに満ち満ちた喜びの声を上げる。
『タダ酒』のフレーズがひどく気に入ったようだ。
目をキラキラさせているのを見て、ディルはこめかみを抑える。
――この娘は一体いつのまにこんなに酒好きになったんだ……?
一年前にあった時にはまだ酒の味は覚えてなかった筈なのに、こんなにあっという間に食の嗜好も変わるのは陸人だからなのだろうかとディルは思う。
言っちゃなんだが、そんな訳はない。
ただ単に、ミールに飲兵衛の素質があっただけだ。
ここ半年位のミールの体は半分アルコールで出来ている位のレベルの飲酒量である。
それはともあれ、ディルが気を逸らしている間に完全に彼の出資でアニスの為に村の集会所を利用してパーティを行う事が確定したらしい。
日程は明日の晩。
その決定の速さには驚くしかない。
パーティの立案を始めたミールとビルの案を書きだす役は、何故かチコリの分担にされており、彼女は苦笑を浮かべながらその仕事にとりかかっている。
その程度の事でアニスを連れ戻せるのなら安いものだと思いつつ、ふと、ソレの名目が気に掛かった。
「……で、そのパーティの名目と規模は?」
「うーん……。高祖父さまの言う『交流パーティ』に近いイメージにするならどんな感じなのかしら?」
「ここでやるなら、村人総出になるだろうな。」
随分と規模の大きなモノになるなと、自らの財布勘定をしかけて諦める。
ディルはしばらくアニスの父親に食事を集ろう、とひっそり心に決めた。
無駄遣いする性質ではない為それなりの貯蓄はあるが、成り行きでとはいえ姪っ子を連れ帰る為に200人余りのパーティを主催する羽目になるんだから、それ位の意趣返しは許される筈だ。
ちなみに、ディルはそれなりには高給取りではあるモノの、下手すれば陸人の宮廷魔法使いの方が高収入かもしれないと言う程度だったりする。
「老若男女関わりなくなのね。」
「幼い子供はいないから、子供とその母親は概ね欠席だな。」
ミールからの険のある視線が和らぎ、ディルは内心ホッとした。
声に出して言う訳にはいかなそうではあるのだが、姪っ子に泣かれるよりも玄孫に睨まれる方が悲しい。
きっと、これを声に出すとまたミールに睨まれる事になるから、ディルは微笑を返すだけに留める。
「まぁ、寝る時間もありますものね……。でも、オチビさん達はみんなで美味しいもの食べてる時に仲間外れにされるんじゃ可哀相だし……」
「それなら夕方開始にして、子供達は適当な時間に引き上げさせればいいんじゃないかな?」
「ああ。そうね、それなら仲間外れ感はないかも。それじゃ、名目は?」
ミールが考えを纏めようとしながら口に出す度に、ビルが案を出していく。
中々、息のあったコンビだなと思いながら見ていたディルは、もう一人の玄孫の目に宿る熱っぽさに気がついて思わず余計な言葉が口に出そうになる。
『ミールは止めておけ』なんて、余計なお世話だなと思いつつ厄介な娘に思いを寄せているらしいビルは苦労しそうだなと嘆息した。
ミールは何と言うか……、遠くで見ている分には面白い娘になってしまった様な気がして仕方がない。
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