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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
二話 恋に恋するお嬢様アニス
27/82

その7

「取り敢えず、服の中に隠しやすいのでペンダントの形にしましょうか。」


 首を傾げるアニスの前に、ミールはペンダントヘッド用の素材を並べていく。

丸型・楕円形・涙滴型・ハート型・星型・動物型などの様々な形の物が並んで行くのを見て、アニスは目を丸くする。

形は様々だが『皿』と言う名称が示す通り、どれもが端の部分が持ちあがっていると言うことが共通点だろうか?


「コレはミール皿って言って、ペンダントの飾り部分に使うんです。」

「ミールさんが考えたんですか?」

「……たまたま?」


 ミール皿と言うのは、カモミールが魔飾を学び始めた時には既に存在していた資材だ。

その名前の由来を聞いた事はない。

返事を返しながら、頭の中でポツンと呟く。



ミールがミール皿で魔飾を作ってみーる



 ぷぷぷ。

自分の考えたどうでもいいダジャレに思わず噴き出す。

ミールの笑いの沸点は低かった。

いきなり噴き出したミールを、不思議そうに首をコテンと倒しながらアニスはみつめる。

アホなネタで笑ってしまったミールは、その視線に少し恥ずかしげに頬を赤らめると、ソレを誤魔化す様にテーブルの上に並べた物の中からアニス好みの物を一つ選ばせた。


「それじゃ、この楕円形のもので作っていきますね。」


 アニスが選んだのは、楕円形の皿周りを透かし彫りが囲っている形の金のミール皿だ。

その皿の上にアニスが魔力を込めて練り上げたマジッククレイをこんもりとした膨らみをもたせて盛ると、先程まで選別していた輝石を一粒一粒その粘土に押し込んで行く。

魔飾棒を輝石に近付けると、まるで磁石に引き寄せられるかのようにその先端にピットリとくっ付くのがなんだか面白く、アニスは瞬きも忘れて見入っている。

ミールも、そんな彼女のキラキラした視線をなんだかこそばゆく感じながらも悪い気はしていない。

むしろ、ちょっと嬉しい位だ。

そんな弾む気持ちで作っていれば作業そのものも気合いが入ると言うモノで、ややあって出来上がったのは、中々の自信作。

中央にはやや大きめの輝石を配置し、小ぶりの輝石が隙間なく埋め込まれたそれは、一見すると大きな一粒の宝石が填まっている様に見えなくもない。


「こんな感じでどうでしょう?」

「綺麗……。」


 でも、とアニスは思う。

魔力の偽装と見た目を誤魔化す為の魔飾を作ると口にしていた割に、この飾りには特別な魔法が掛けられている訳ではない。

これではただの綺麗なだけの飾りなのではないだろうか?


「では、仕上げをしますね。」

「あ、はい。」


 その疑問に答えるかのようにミールは宣言すると、アニスの返答を待たずにハミングを始める。

魔力の込められた歌声に合わせ、テーブルの上に置かれたペンダントトップの下に部屋の二方向から差し込んできている太陽の光が集まり魔法陣を象ると、中心にあったモノがフワリと目の高さまで浮かび上がった。

目を瞠るアニスの前で、ミールが魔飾棒を細かに動かす。



魔法陣を描いてるの?

あんなに小さく?

歌に魔力をのせ続けるのだって、随分と繊細な魔力操作が必要なのに?



 魔飾棒が動く度に小さな光の粒が産まれ、ペンダントトップに飾られた輝石に一つづつ吸い込まれて行くのを見ている内に、その形に一定の規則性がありながらもそれぞれ全く違うモノである事に気が付いたアニスは、思わず息を飲む。

輝石達に吸い込まれて行くのは、ミールの魔力によって描かれた極小の魔法陣だ。


 魔法陣と言うのは、魔法を使う際に必ず魔力を用いて描き出す図形の事を指す。

初歩的な魔法程、単純な形をしているもので、それらを組み合わせていく事により、より複雑な魔法を発動する事が出来るようになる。

魔法に長けていると一般的には言われている山人であるアニスが使える魔法陣(魔法)は、未だ初級の範囲内の生活魔法と呼ばれるモノのみであり、ミールが輝石に封じているのがどのような術式であるのかを読み解く事は出来なかった。

それは、イコールアニスよりも高度な魔法をミールが用いてると言う事でもある。

実はここに、陸人と山人の差異(互いの成長速度)と言うモノがあるのだが、それに気付けなかったからといってアニスを一概に責める事は出来ない。

それぞれの一生の長さにあった教育の速度と言うモノがそこには存在する。

彼女はこれから30年近くの時間を掛けて、中級や上級の魔法を覚えていく予定である為、今現在ミールの用いているモノが理解できないと言うのは無理からぬ話なのだ。



私と大して年齢が変わらない様に見えるのに、こんな複雑な魔法を使えるなんて……。



 輝石に次々と魔法陣が吸い込まれて行くのを見詰める、アニスの目はちょっぴり熱がこもり始めている事に、まだ、二人は気付いていなかった。

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