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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
二話 恋に恋するお嬢様アニス
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その6

「え……?」

「そうですね……。まずは、見た目と魔力を誤魔化さないといけませんね。」


 アニスは、目の前に座っている少女の言い出した言葉が、一瞬理解できなかった。



今、『味方』って言ったのかしら??

『味方』って誰の?

可愛い女の子って……私?????



 カモミールという名のその少女は、アニスが戸惑う間に椅子から立ち上がると先程入ってきたのとは違う扉の向こうに消えていく。


「今、変装用の魔飾をぱぱっと作っちゃいますからね。」

「……変装???」

「魔力の質を誤魔化すのは一時的に魔力を抑える方向で……」

「魔力を、抑える……?」


 隣の部屋から聞こえてくるその言葉に、アニスのただでさえ白い肌が青白くなる。

山人であるアニスにとって、日常の些細な事でも魔法を用いるのは息をするのも同然だ。

実際のところ、天空に近い山人の居住地は、他の種族のそれと違い大気に魔力――魔素が多く含まれる。

山人以外の種族が高い山に登った際に『高山病』と呼ばれる酸欠状態になる病に掛かる事があるが、彼等の間では逆に『平地病』と呼ばれる魔素欠乏症があるのだ。

高所に適応している彼等は、呼吸によって取り込む魔素が他種族より多く必要なのである。

これもやはり、多少の個人差はあり、幸いにもアニス妙な運動をしなければちょっぴり『息苦しいかな?』と言う程度だ。


 

今すぐ逃げないと殺される?!



 恐慌状態に陥ったアニスは立ち上がろうとして、椅子に足を引っ掛けて盛大な音を立てて床に転がりこんだ。

その音に驚いて、隣室にいたカモミールが戻ってくると、思わず彼女の口から悲鳴が上がる。


「いや……やめて、許して……」

「え? えええええ??」


 腰が抜けたのか、ずるずると尻もちをついたまま許しを請いながら後退りするアニスの姿に、カモミールの口からは驚きの声が漏れた。

多少は交流があるとはいえ、カモミールは山人が普段どのようにして暮らしているのかなど詳しくは知らない為、アニスが何にそれほど怯えているのか、まるで想像がが付かない。

結局、号泣する山人の娘の気を静めて、二人の間できちんとした会話が成立するまでに1時間もの時が必要となるのだった。






☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★






 グニグニグニグニグニグニグニグニ

アニスは今、さっきお茶を飲んだテーブルセットの椅子に腰かけ、マジッククレイと言う輝石の粉を練り込んだ特殊な粘土を指の間でひたすら捏ねている。

この粘土は練れば練る程、練っている者の魔力を吸収して色合いを変えるらしい。

最初、黒かった粘土の色は今は銀色に近くなっていて、アニスはそろそろ自分の仕事が終わる頃なのではないかと、期待の視線を目の前に腰掛けて作業に没頭している様子のカモミールに向ける。


 カモミールはカモミールで、瓶の中でキラキラと光を反射する石の中に棒を突っ込んでクルクルとかき混ぜる作業に没頭中だ。



……まだ、捏ねてなきゃ駄目なのかしら。



 カモミールのその真剣な様子に、アニスは肩を落として粘土を弄り続ける。

彼女は今、繊細な魔力操作の真っ最中なのだ。

飽きてきたからそろそろ粘土いじりを終わりにしたいなんて言う話で、その集中力を散らすのは申し訳なさすぎる。

なにせ、今行っている作業は全て、アニスがすぐに同族達に見つからない様に偽装する為の魔飾を作る為の物なのだから。



それにしても……



 アニスは、カモミールの完全に制御され、揺らぎ一つない魔力の流れを見詰め、うっとりと感嘆のため息を吐く。

この世界で最も魔力の制御に秀でている山人でさえも、目の前にいるこの少女と同程度の制御を行えるものはそうそういない。

氏族の中でも、5本の指で数えられる程度の人数だろうか?

とにかくアニスの制御力では、彼女の魔力制御には到底及ばないのは間違いない。

他人を凝視するのはマナー違反だと気付いて、アニスが少し視線をずらすと部屋中がいつのまにやら色の洪水に呑み込まれていた。


 クリンクリンクルクルクリン

ミールが手にした魔飾棒を瓶の中でかき回す度に、部屋の中を乱反射した光が踊る。

瓶の中身は同じ色ばかりではないから、その様はまるで部屋全体が万華鏡にでもなったようだ。


 クルクルと回していた棒を、スッと引き抜くと、紫の光が部屋に散らばる。

魔飾棒に粘着力のある液体であるかのように纏わりつく輝石の一部は、その棒を軽く一振りすると瓶の中へとサラサラと音を立てながら落ちていった。

ミールは棒に残った輝石をパレットに収めると、アニスに視線を移し目元を緩める。


「粘土はそろそろ良さそうですね、ありがとうございました。」


 部屋に満ちる色の洪水に半ば魂を抜かれたようになっていたアニスは、その言葉にはっと我に返り、ミールの差し出したパレットへと、今まで無意識に弄んでいた粘土をコロリと転がす。


「ソレで……この、マジッククレイと言うのは何のために私が捏ねる必要があったんですか?」

「それはですね……」


 コロンと転がったマジッククレイから、ミールへと視線を移してアニスが訊ねると、彼女は得たりとばかりに笑みを浮かべる。


「魔力の偽装と、使用者限定の為に必要になるんです。」

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