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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
二話 恋に恋するお嬢様アニス
23/82

その3

 転移の光が収まり目を開けると、周りを木々に囲まれた建造物の前にアニスは立っていた。

目の前には見慣れない、見上げる程大きな木造の人工物がある。



これって、確か陸人達の住むって言う『家』の一種だったかしら?



 山人達は、山の中に創った空間を居住用に整えて暮らしているので、アニスは『家』というモノの実物を見たのはコレが初めてだ。

アニスがこれを『家』だと思えたのは、子供の為の絵本に挿絵として描かれた物を見ていたお陰で、そうでなかったらコレが何か分からずに途方に暮れていたかもしれない。



本をたくさん読んでいたのは、無駄じゃなかったのね!



 前向きにそんな事を考えながら、どんな人が住んでいるのだろうと、その家の周囲をぐるりと回る。

パッと見ただけでもあちこちに窓があるから、そのいずれかから覗き見る事が出来るのではないかと期待したのだ。

下手にノックして、中から恐ろしい姿をした住人が出てきたりなんかしたら、アニスは卒倒する自信があった。

ほっそりとした山人と違って、陸人や森人の中には『熊』の様な姿の物も居るらしい。

山人の中で大事に大事に育てられてきたアニスは、勿論『熊』なんか見た事はなかったが、本で見たソレは毛深くてとても恐ろしかったのだ。


 その家の出入り口は、アニスがやってきた転移陣の左前方にある小洒落た感じのものが一つだけ。

その右手には、間を空けて引き戸タイプの木の窓が二つ。

奥行きのある建物の向かって手前の右側面には、アニスが手を広げた程度の横幅の窓が二つに、随分高いところにガラスの小さな窓が一つ。

奥の方には手前の窓を二つ合わせた程度の幅の広い窓が一つ。

ガラス製の窓以外は、どれもアニスの肩程度の高さにあるものの、内側からカギが掛かっているらしく中を覗く事ができない。

裏に回り込んでもソレは同じで、ただ、大きさの違う窓があるだけだ。

反対の側面に至っては、出入り口から程近い場所にしか窓自体がない。

しかも、どれもこれもきっちりと閉まっていて中を覗く事は結局出来なかった。



それにしても、こまごまとした部分が随分と可愛らしい造りのお家ね。

これなら……中の人が出てきても大丈夫かしら?



 アニスは、白塗く塗られた壁の上の濃緑の屋根を見上げて声に出さずに呟く。

出入り口もそうだけれども、なんとなく女性の暮らす家の様な雰囲気を感じるのだ。



『熊』が出てきませんように……!



アニスが意を決して、出入り口の扉を叩こうと震える手を上げたところで、何者かが小枝を踏む音が聞こえた。

それまでアニスの息遣い位しか聞こえない程静かだったから、その音はやたらと大きく響いて、思わず彼女は「ヒ!」と引きつった声を上げてしまう。

思わず口元を両手で押さえて、恐る恐るゆっくりと振り返る。

突然の物音と、もしかしたら後ろにいるのは人ではないかもしれないと言う恐怖感で、鼓動がやたらと早く感じた。


「おはようございます。」


 そう挨拶の言葉を口にしながら微笑むのは、アニスと同じくらいの年頃の明るい緑色の髪色をした色白な少女。

その人畜無害そうな雰囲気に、アニスは安堵のあまり足から力が抜けてしまう。

へなへなとその場に座り込む彼女に驚いた様に瞬きをして、少女はアニスの前にしゃがみこむ。


「ようこそ、『カモミールの魔飾工房』へ♪」

「ましょく……こうぼう……?」

「あら……。ご存知なくていらしたんですか?」


 少女の思わぬ言葉をぼんやりと繰り返すと、彼女はコテンと首を傾げる。


「……ワケあり、かしら?」

「え?」

「いいえ。玄関先で、というのも無粋ですから宜しければ中へどうぞ?」


 少女の呟きは小さ過ぎて、アニスには良く聞こえない。

聞き返して見たモノの、少女はゆるりと首を振るとアニスの手を取って家の中へと誘った。

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