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ヴァーヴ・ヴィリエの魔飾師さん  作者: 霧聖羅
一話 森人のノーコン弓士
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その10

 自分専用の魔飾を作るかもしれない。

そんな事を言われて平然としていられる程、チコリの神経は太くない。

むしろ、細すぎてヤバい位だ。

そりゃあもう、ちょっと引っ張っただけでブチブチと千切れるレベルである。


 そうでなくとも、宿にあった魔飾を手掛けたのが自分の横を歩いているこの少女だと思われるのもまた、チコリの毛が生えていないツルツルの心臓には過度な負担だ。

あんな魔飾が作れる魔飾師が、もしも王都になんて行ったのなら間違いなく王族の専属になるはずである。

それに引き換え、自分はもうすぐハンターの資格もはく奪されてしまう予定のヘッポコぶりだ。

そんな有能な人間と一緒の空気を吸うのさえ、おこがましいとさえ思えるのに。




☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆




「大漁大漁♪」

「……そうですね。」


 チコリが解体して行く端から、ホクホク顔で転送袋に獲物を収納して行くミールに、彼女は上の空で返事を返した。

結局、チコリのその後の狩りは散々なモノだった。

今彼女がせっせと解体しているのは、全てミールが仕留めた獲物である。


「プクプクのエスケープラビットが3羽に、スキップフォックス1頭。」

「そして最後に大イノシシ1頭ですね。」

「今日のおつまみが楽しみねぇ。」


 世にも幸せそうな表情で、夜のお楽しみに思いを馳せるミールを見ていると、とてもじゃないが彼女が凄腕の魔飾師だとは思えない。

と言うか、彼女が今日だけで狩った獲物をみただけでも信じられないが。

チコリは自らの抱いていた魔飾師のイメージが、今日一日でガラガラと音を立てて崩れていくのを感じていた。

もっと、こう……。

知的でインドア、剣を手にするなんてとんでもない!

なーんて、そんな優雅な人達ばかりだと思い込んでいた。

ミールの魔飾師に対するイメージに近い部分と言ったら、おっとりした丁寧な言葉遣い位なものだ。



いや。

もしかしたら、ミールが特殊すぎるのかもしれない。



 そう思い直す。

なぜならここは、片田舎の森の中。

そんな事を言っていたら、命に関わる事もあるかもしれない。

だってこの村の周りには弱めのモノばかりとはいえ魔獣が溢れているのに、村を囲う壁もないのだ。

それなりの武芸の心得が無くては、危険だろう。


「あれ?」

「『あれ?』?」


 そこまで考えてチコリは初めて疑問に思う。


「何でこの村って、防壁が無いんですか?」

「ああ……。おじい様のお仕事なんだけれども……。」


 唇に指を当てながら口にされた答えに、チコリは地面に手を着きガックリと項垂れる。



今。

絶対に聞いちゃいけない事をサラリと聞かされた……!



 だが、これでミールのおじい様と言うのもかなりの腕前を持つ魔飾師だった事が判明した。

村の建造物を魔法の発動媒体として、村の周りに結界を作っているだなんてそんな技術は聞いた事が無い……。


「昔はあちこちでそういった大掛かりな魔獣除けの魔飾を作っていたそうなんですけど、そのせいで住処を喪った魔獣の大暴走がおこって滅んじゃった国があるんですって。」

「?!」

「だから、大型結界の魔飾は国の指導の元でしか作っちゃいけないんですよ?」


 その説明に、みるみるうちにチコリの顔から血の気が失せていく。


「あ……あの、そう言うのってもしかして国家機密の類だったりとか……?」

「……どうなんでしょう?」


 なんとかチコリの口からでた問いは、小さく震えていたが、ミールはソレには全く気付かない様子でほんわりとほほ笑んで首を傾げる。


「村の人はみんな知っているお話なんですけど、チコリさんはご存知ないんですものねぇ……。」


 おっとりと続けられた言葉は、しかしチコリを安心させるものではない。

目の前が真っ暗になって一瞬意識を飛ばしかけた彼女だったが、不意にハッとした顔をして、目の前の解体途中の大イノシシに視線を向けた。


「そうだ。解体しなきゃ……。」


 ポツリと呟いて、解体を再開し始めた彼女を、ミールはニコニコ笑顔を浮かべて眺めてる。


 チコリは魔飾に関する知識が無い為に勘違いしてしまっているが、少しでも魔飾について学んだことがある者なら、魔獣除けの魔飾と言うのは割とメジャーな代物だ。

むしろ、魔飾師としての修業を始める際には、最初に学ばされる事である。

ただ、それを施すのには様々な制約がある上に、魔飾師の能力も必要とされる。

その為、王宮や神殿などの特殊な場所にしか施される事が無い。

ただし、実際にミールが口にした通りの悲劇が起こった事もある為、現在では国の指導のない場所に魔獣除けの魔飾を作る事が禁じられてはいるが、どんな小さな村にでも神殿はある為、意外と身近な魔飾なのだ。


「チコリさん?」


 トンデモ無い事を聞かされてしまったと思いこんで顔色を悪くしたまま、解体作業に集中しようとしているチコリに、ミールは申し訳なさそうに声を掛ける。

実際のところ、最初にソレについて口にしたのは、ただチコリの質問に何気なく答えただけだったのだ。

その為、話しを進めるうちに、何故、彼女が挙動不審になっていくのかと不思議に思っていたのだが、その理由に思い当たった為、チコリを安心させようと声をかけたのだが、逆に緊張した様子で硬い表情を向けられてしまう。


「……何でしょう。」

「魔獣除けの魔飾についてですけど……」

「……。」


 聞きたくない。

そんな心の声が聞こえそうなチコリの表情に、より一層申し訳ない気分になりながら、ミールはその言葉を口にする。


「神殿には必ず施されている魔飾ですから、多分、機密事項とかじゃないと思いますよ?」


 その言葉を聞いて膝をつくチコリの姿に、ミールは少し言葉回しを気をつけようと心の中にメモを取った。

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