言葉は──
「──────」
何も無い静寂の世界で乾いた音が響いた。
いや、そのはまだ世界ですらない。
大地も空もなく、ましてや色や音、光もない。
そこはまだ世界ではない静寂に包まれた常闇の空間。
音のように響いたのは気の所為なのだろう。
「──────」
再び響く。
まだ音ですらない何かが空間を揺らす。
意思を持ち、何かを作り上げんと揺らす。
揺りかごのように優しく、大地震のように激しく。
しかし空間は応えない。
まだその時ではないかのように、応える気の無いように。
しかしソレは何度も揺らす。
揺らすもののない空間を。
意思を持つかのように揺らす。
「────」
空間は応えない。
「───────」
諦めず揺らす。
「─────」
自分を創り出す為に。
「───」
色を奏でる為に。色を生やす為に。
「─」
ソレは諦めかけた、私には出来なかったと。
「」
揺らすことすら諦める。
何も無い空間が揺れることなく、動くことなく、その場に佇む。
「────────────a」
最期の足掻きと、ソレは最大限に揺らした。
空間はそれに応え、色のある波紋を揺らす。
まだ音と言えないようなか細いモノ。
ソレは希望を持ちもう1度揺らす。
「─────u」
先程とは違う色が揺れる。
ソレは楽しくなり、新たに揺らす。
揺らす度に違う色が生まれ、消えていく。
ソレは揺らす。新たな色を見るために揺らす。
空間が許したのだろう、消えていく色も次第にその場に留まる。
色も意志を持ったかのように意味ある何かに成ろうとする。
色は揺れるソレを支える。
意味ある自分を作る為にソレを支える。
ソレも色の行動に応えて揺らす。
まだ音とも声とも言えないモノで揺らす。
その度に色が生まれ、意味を持ち、空間に定着する。
次第にソレの周りには色彩が生まれた。
色彩は楽しく合唱をするかのようにソレの揺れを跳ね返して空間に広げていく。
「────la」
「────la」
「────la」
反響を繰り返し、揺れるそれ自体も意志を持つ。
色彩に押されるままに揺れるのではなく、自らの意思で揺れる。
風のように強く、優しく。
ソレは未だに揺れる。
まだ足りぬと揺れる。
生まれた色も次第に重みを持ち、空間にどっしりと構えていく。
揺れるそれも風となり、色彩の幅を拡げて空間を彩っていく。
既にある色彩を揺らす。命を持たせるかのように。
色彩を広げるために揺らす。新たな何かをを作るために。
そして、空間は生まれ変わる。
か細いソレの為に、ソレのおかげで、ソレのせいで。
景色が生まれた。
青、緑、黄、橙。色彩によって生まれ、風によって命を育んだ景色がその場に佇む。
そして最期にソレは囁いた。
「──おはよう」
それを起点に空間は物語を紡ぎ始めた。
世界を創り始めた。
──言葉は物語を紡ぎ世界と成す。
ソレはまた新たな世界を創る為に言葉を揺らし続ける。