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第三話 命の対価

 目の前には、薄暗くだだっ広い大広間。

 そして、デフォルメされたカエルの模様が入った緑のパジャマとナイトキャップ装備の俺がいた。


「――まっ、こーなるわな」


 通産134回目の死亡を、地面に刻印という形で告げる。


 結果は惨敗だった。

 何とか初撃を避けて、ゴブリンが武器を持っていた右腕に捕まった瞬間、力任せにとブンッと投げられた。

 そして、壁に激突した後の展開はお察しの通りである。

 まぁ、思い出せるだけで、そんなに頑張って斬っちゃうのっていうぐらいには斬られた。

 脳震盪を起こしている奴に、そこまでムキにならなくても良いだろうに、と思うぐらいには斬られた。

 というかね、133回目の俺に聞きたい。どうやって武器を奪うつもりだったのかと。何故にゴブリンが力の限り握っている武器を取れると思ったのかを。

 

「は~」


 思わず溜め息を吐いてしまう。

 いい案だとは思ったが、何と言うか無理な気しかしない。

 もうね、ムキムキな奴に勝つとか、もやし野郎にゃやっぱり無理なんだって。

 だいたい、負けちゃったら、その筋肉は何だったのって話になってしまうじゃないか。

 筋肉は裏切らねーわ。だって、脳筋キャラとか、大概こいつは裏切らねーって顔をしてるもんよ。

 それに、筋肉さん裏切っちゃったら、その名前を冠するヒーローなんてマンしか残らないじゃない。

 やばい、何それ、なんだか卑猥。


 筋肉、卑猥を、交互に5分ほど脳裏で繰り返し叫んだところで、ふと我に返る。

 いわゆる、賢者モードになる。


 そして、キリッとした顔で、うむ、と頷き思うわけだ。

 まぁ、どんだけ現実逃避しても、武器が無けりゃどうしようもない現実は、変わらないんだけどな、と。


 落ち込む。俺はもう駄目だと、ガクッとくる。もう、際限なく落ち込――

 

「――だーもう!」


 頬を叩いて気合を入れる。

 経験則から言って、ここで鬱になっても何も始まらない。

 どうせ、変わらない未来に飽きて、また近い内に、ポヨンポヨンしてる奴かムキムキ野郎に俺は喧嘩を売っちゃうだろう。

 であれば、今進んでやる。もう、ところん進んでやるよ。


「OK、わかった。やってやんよ! こうなりゃトライ&エラーだわ!」


 それしか方法がないなら、やってやろうじゃないか。

 あー、やってやるよ! 見せてやろうじゃないか俺の生き様を!

 鳴かぬなら死んで見せようホトトギス。文字通り俺の命を賭けよう。

 安売りで大量販売されてしまっている、俺の命を賭けようではないか!


 決意を胸に、ナイトキャップの位置をベストのポジションに位置を調節する。

 そして、深呼吸をして一拍置いた。


 覚悟は十分。ならば、後は駆けるのみ。

 目を扉に向けて、駆け出す。

 このダンジョンを攻略する為の橋頭堡を築く為に駆け出す。




 トライ&エラー 一回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着く事もなく、スライムに圧し殺される。


 トライ&エラー 二回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着くも、ここだと思ってスライディングで足払いをしたと同時に、ゴブリンの一閃。頭に斧が生えた。


 トライ&エラー 五回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着くも、驚かせようと猫騙しを放った結果、まったく意に介さなかったゴブリンは跳躍、そして、そのまま真上から振り下ろされたゴブリンのジャンプ攻撃により、一刀両断された。


 トライ&エラー 十回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着くも、くすぐってやろうとゴブリンに近づいた途端に横薙ぎの一閃を喰らい、上半身だけ弾き飛ばされて下半身にさよならを告げた。


 トライ&エラー 五十回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着くも、笑わせようと一発芸を行った結果、お気に召さなかったのか、ゴブリンに武器を持ってないほうの手で頭を捕まれ、そのまま握りつぶされた。


 トライ&エラー 百回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着くも、とりあえず漫談を一席打った結果、伝わらなかったのか、不思議そうな顔で俺に近づいてきたゴブリンが蹴り、その蹴りが俺の頭に直撃、そして俺の頭も同時に炸裂した。


 トライ&エラー 千回目。

 ゴブリンの部屋にたどり着くも、やけになって徒手空拳でゴブリンに挑み、真正面から撃破された。




 ――トライ&エラー 七千八百二十一回目。


 何時も通りの死の100階段を上がって、さあ今日も元気に死ぬかと、通称ゴブリン部屋の扉に手をかけた。

 別に特別な雰囲気は無かったし、天気も何時もどおり天井ところによりシミ、といったところだった。


 だから、扉を開けてゴブリンに走って行った時も、特段の感情はなかったし、成功するという気持ちも微塵も無かった。


 対峙するゴブリンは、相変わらずムキムキだ。これだけ長い間見てると、こいつらに関する知識もそれなりに増えた。


 実はこいつら、武器を持つ手が左手の場合は、9割方横薙ぎの攻撃になるんですとか。

 実はこいつら、股下に潜ったときに気が付いたんだけど、斧を持ってる奴は例外なくメスなんですとか。

 実はこいつら、個体に関係なく、ジャンプ攻撃をする前に頭を下げる癖があるんですとか。


「へっ?」


 だからだ。そんな知っていたはずの奴の初めての行動に、思わず声を漏らしてしまった。

 手前ではなく2列目に居る少し小柄なゴブリン。そいつが手に持っている武器を振りかぶって――


「ッ!?」


 ――俺に向かって投げた。



「ぐはッ!」


 ザシュッという音と共に、受けた衝撃で吹っ飛ばされ、そのままゴロゴロと床を転がる。

 漸く止まった頃には、気づくと扉付近まで来ていた。


「痛ぅ」


 猛烈な痛みに視界が歪む。

 そして、歪む視界の片隅にある物が見えた。

 ハッとし、目を見開き身体を見ると、刺さっている。“剣”が刺さっている。


 見た瞬間だった。それを見た瞬間に扉の中へと入っていた。

 扉を越えてモンスター達は追って来れない。それはこれまでの経験から確かな事であり、安全地帯へ逃げるという行為は俺の血肉となっていた。

 だから無意識に出来た。

 身体の中心に刺さっており、もう目は周りの光景を映さず、真っ暗になっているが、それでも無意識に出来た。


「はは……やった……」


 言って、いつもの様に激痛を感じなくなっていき、俺は通産7955回目の死を経験したのだった。

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