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第十九話 秘められた力

 目の前には、薄暗くだだっ広い大広間。

 そして、デフォルメされたカエルの模様が入った緑のパジャマとナイトキャップ装備の俺がいた。


「おし、生き返った。んじゃ“解析”」


 若干ドキドキしながら、自分に解析を掛ける。

 すぐさま、透明なウインドウが浮かび上がってきた。



 名前:伊藤次郎

レベル:1

 称号:ダンジョン攻略者

 職業:元学生

 性別:男

 年齢:20

 種族:人間

 状態:良好


生命力:10/10

精神力:10/10

  力:F

 体力:F

 知能:B

 魔力:F

 敏捷:F

 技能:A

 魅力:D

  運:C

 特殊:-


スキル

剣技LV0(8)

隠密LV0(3)

魔法探求者(ユニーク)

根幹魔法(ユニーク)

魔力根源操作(ユニーク)

モンスター食材化LV0(9)

全系統魔法LV-

魅了(ロリ)耐性LV0(8)



 よし、完治している。

 病気が完全に治ったことに、安堵の溜め息を吐いた。


 これで、日本に帰った時にお天道様の元をちゃんと歩ける。

 ランドセル見るたびに心がときめくとか、そんな日常が回避されたことを、ここに宣言しよう。


 しかし、初めて初期値を見たが、悲惨の一言だなこれ。

 良くこんなんで生きていけてたもんだ、俺。

 いや、だからこそよく死んでいたのか。そりゃ、スライムにだって勝てませんわ。

 ま、魔法が使える為、もうこのダンジョンに敵わない敵は居ないので、ステータスに拘る意味はないのだけど。


「さてと、んじゃやろうか」


 まずは、何から始めようか。

 とりあえずは、バリディアガスに報告する事から始めようか。

 やっぱり、俺はロリコンじゃないってさ。





 100階層目に声が響いていた。


「くっ、お主という奴は! 自分の才を否定してどうする! それは己の否定に他ならないんだぞ!」


 舌足らずな声で一生懸命に主張するバリディアガス。

 生き返ったぞー、と報告しに来た時の涙目が、嘘の様な剣幕振りである。


 正直な話、バリディアガスに復活の報告をした際に、病気がぶり返したらどうしようかと思っていたのだけど、それは杞憂に終わった。

 確かに、可愛らしいとは思うが、あの病的なまでの衝動は起きない。


 病原菌を根元から断ち切ったといって良いだろう。

 流石は、ダンジョンさんだぜ。俺を元に戻す事なんて造作もない。


 しかし、才能? 何それ? そんなもの俺にはありませんよ?

 そんなものがあれば、こんなに苦労しなかった。

 そんなものがあれば、紅眼先生だって正面から撃破出来たはずである。


「もうそれ聞き飽きたから、世の中才能が開花しないよう一生懸命な人もいるんですよ?」


 鼻を穿りながら、どうでも良いという風に、俺はバリディアガスにそう返す。


「馬鹿な! 何だそれは! 己が才を否定するなど、聞いたことが無いぞ!?」


 バリディアガスが、大きな目をまん丸にして、驚愕を露にした。


「それは先祖代々伝わる才であり、親の才を見れば、子はその才の開花に恐怖せざるを得ない」


 小さな身体を前のめりにして聞くバリディアガスに、そう言ってやる。

 それは、呪われた才覚であり、誰もが開花を恐れる才能である。

 特に、祖父からその才能を引き継ぎやすいとも言われているとか。

 その家系に着々と脈づく呪われた才覚。

 誰もが才覚の開花を倦厭し、忌避し、もし、開花すれば己の才覚と血を恨むしかない。


「ごくりっ」


 俺の真剣な様子に当てられたように、バリディアガスが生唾を飲み込むのが見えた。


「その才を人は忌み嫌ってこう呼ぶ“ハゲ”、と」


 若干、遠い目をしてバリディアガスに言う。

 なぜならば、俺の親父も祖父もハゲていたからである。

 いつかは開花するのだろう。俺の血に宿る才能の目が。


 だが、俺は抗って見せると、その才能を否定してみせると、決意している。

 才能だけで、世の中は決まらない。決まってたまるものか。


 俺はこの世界の理に対して一石を投じるだろう。

 そう、その呪われた才覚を否定する事によって。


「そうか、その様な物があるのか……。恐ろしいものなのか? その、“ハゲ”というのは」


 バリディアガスが、小さな手を顎に当てて考え込むようにして、そう聞いてきた。


「ああ、恐ろしい。口に出すのも憚られるので詳細は言えないが、本当に恐ろしい」


 親父を例にすると、なんせそれだけで、ふさふさの奴がテレビに出るたびに、俺も昔はあったな~、と遠い目をしてこの世を達観してしまうのだから。

 俺はその度に、怖くて聞きたくても聞けない。

 親父、あなたは毛根と共に、いったい何を失ったんだい、と。


「そうか……。その、よかったら教えて欲しい。私にその才能はあるのだろうか?」


 おずおずと、バリディアガスが上目遣いに聞いてくる。


「いや、無いよ」


 手を横に振って否定の意を表しつつ、バリディガスに対して即答する。

 だってね、バリディアガスは骸骨じゃん? 毛根とかそもそも無いじゃん?

 仮に今の姿だとしても、女の人はなり難い上に、魔法で変身しているだけなのだから無意味な話だ。


「そ、そうか。それはよかった。それじゃあ、お主はどうなんだ?」


 ホッと胸をなでおろした後、俺にそう聞くバリディアガスさん。


「ありますけどそれが何か?」


 対して、相手には無表情に見えるようにして、バリディアガスに言い放つ。


「ッ――そうか、それは本当にすまなかった。お前に対して、“潜在開放”を使うのは金輪際止めよう」


 バリディアガスが申し訳なさそうに謝った後、キリッとした表情で俺に向かって宣言する。

 何その“潜在開放”、て。俺に使ったあの黒い魔法の事だろうか。

 言葉からして潜在能力の開放?

 いやいや、俺にロリコンの潜在能力とかないから。

 それに、あの時俺は禿げなかった。

 つまりは、潜在能力の開放ではないのだろう。


 じゃあ、“潜在開放”とは何なのか。

 …………よし、考えないようにしよう。

 そもそも、ハゲが俺の潜在能力ではないのではないかとか、そんな事を考え始めたところで俺は考えるのを止めた。

 思考停止こそが、庶民が己を守る手段なのだよ。


「ああ、そうしてくれると助かる」


 全ての疑問を飲み込んで、バリディアガスへと俺は言うのだった。

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