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第十話 扉先輩と田中さん

 全ては模倣から始まる。

 ならば、模倣という工程を終えたのならば、次は創造の工程に入らなければならないだろう。


「うーん」


 唸りつつ、魔法という物を考える。

 

 突き詰めて言えば、魔法は呪文を唱える必要なんてまったくない。

 脳内で魔法の、何ていうのだろうか数式? そう、式さえ展開できていればそれでいい。

 ブラックボックスの式があって、そいつを脳内に思い浮かべれば魔法は発動する。


 であるなら、そのブラックボックスの式を解明できれば、魔法という物を真に理解することが出来るんじゃないだろうか、てとこまでは考え付くのだ。

 だけど、そこから先が難しい。


 ブラックボックスの中を弄くって、色々とやってみているが結果が中々でなかった。


 さて、何故俺がこんなに魔法という物の解明に勤しんでいるかといえば、魔法が使えるようになったことでダンジョンの攻略が大幅に進んだからだ。


 最早、敵の強さは関係ない。

 なんせ、魔法でダメージさえ通れば勝ちが確定するのだ。


 それは、必勝法2と呼ばれる物。というか、俺が名付けたもの。


 具体的に言うとこうだ。


 まず、攻略対象のフロアの入り口の扉に手をかけます。


 次に、扉を少し開けます。


 そして、扉の隙間から見えた敵に、こそっと魔法を放ちます。


 最後に、魔法を放った後、


『扉先輩、後はよろしくお願いします!』


 の声と同時に扉を閉めます。


 これを敵が全滅するまで続けます。

 どうです? 簡単でしょう?


 この方法なら魔力切れを心配する必要すらない。

 魔法を使いすぎるとその場で気絶してしまうが、この方法だと存分に気絶出来るのだ。

 そして、寝れば魔力は回復するので、起きたらまた魔法を撃つ機械になるだけである。


 魔法が使えるようになってからは、食生活も変わった。

 何せ焼けるのだ。色々と焼けてしまうのである。

 オークの肉が、トロールの肉が、焼けてしまうのである。

 ジューッと焼けた肉が、こんがりと焼けたお肉が、焼けた事によって生臭くなくなった肉汁を、味わうことが出来てしまうのである。

 ま、味はほぼないんだけどね。いいんだよ、素材の味、大事だよ、素材の味。


 俺ってば、素材の違いが分かる男だからね。

 日本にいるだろうか。俺ぐらいオークとトロールの肉の味の違いが分かる男が。

 俺ぐらいになると、モンスターの肉について語れるからね。苦労の分だけ語れちゃう。語っちゃったら最後、たぶん聞いた相手がどん引きしちゃうぐらいには語れちゃう。

 でも、日本に居た時のステーキとここの肉は、どっちが美味しいなんて質問は禁止にしようと思う。

 だってさ、そんなもん聞かれても俺は真顔でこう答える。


『君は、苦労してない時に食べた食事と、死ぬほど苦労した後に食べた食事。どっちが美味しいと思う、てさ』


 ま、そんな話はさておき、つまりは魔法さえ使えてしまえば、実はこのダンジョンの攻略はヌルイのである。

 ダンジョン内は、最早、俺の時代になっていた。魔法が使えないまでを、旧次郎時代と言い換えていいほどに。


「後は、魔法の解析さえ進めば、このダンジョンの攻略は終わるんだけどな~」


 モンスターは魔法で何とかなる。

 ただし、それにはダメージが通ればという前提がある。


 では、今ぶち当たっている90層目の敵であるドラゴンに、今の俺の魔法でダメージが通るかというと通らないのだ。

 一年を通して、チクチクとダメージを与え続けてみたが、弱ってくる様子が皆無だった。

 ダメージを1ずつでも与えて、チリツモ作戦で倒そうとしたのだけどね。


 まぁ、要するに先に進む為には、威力のある魔法を作らなければならないってことだった。


 そんなこんなで、威力のある魔法を作る為に、魔法の解明に日夜勤しんでいるのだけど、今一前に進まない。

 魔法というものは脳内に描く数式を通して、発動している。

 散々考えたが、それが一番しっくり来るのは確かである。

 また、その式の中身がブラックボックスであるのは間違いないのだけど、ブラックボックス内の定数部分だと思われる部分を意識して弄ると、威力が増減するのだ。

 しかし、定数の部分を大きくすれば威力が上がるのかといえばそうではない。逆に大きくすれば威力が下がったり、ある一定を越えると魔法が暴発したりする。

 どうにも、これがよくわからない。


 そして、次にわからないのが自身の身体を通る際の魔法の変化だ。

 散々リッチ先生を見てきた結果分かったが、魔法を生成する際に魔法の源の様なものを、脳内で捏ねくり回す。

 その際に、魔力の源から魔法へと昇華する際に、身体の中の何かを通っているのがわかった。


 俺はそれを魔力フィルターと呼んでるが、どうやらそれが魔法の効率に関わっている気がする。

 色んな死霊系モンスターを相手にし、そいつの頭を除いたが、どうにもそうとしか思えない。

 死霊系モンスターの脳内に手を突っ込んで、その部分を消し飛ばしたり、半壊させたりと、実験した結果、それは得た答えだった。


 察するに、魔力フィルター自体は魔力で出来ており、自動的に自分の中に形成しているのだろう。

 ならば、自分の意思でそのフィルターを作り直せばいい。

 と、そこまでは考え付いて、色々と試したがどうにも上手くいかない。

 考え方は間違っていないと、俺自身は思っているのだけど、如何せん結果がついて来ない。


「すーはー」


 一旦、深呼吸をして脳内に新鮮な空気を送る。

 まぁ、現実の研究だってトライ&エラーの結果なのだから、ここで焦ってもしょうがないのかもしれない。

 幸いにして、時間だけはあるのだから、出来るまでひたすら繰り返せば良いだけだ。


 そうそう、ついでに現在の物理学を元に何とかならんのかとも、一度考えたことがあったのだけど、俺のスペック的にも無理があるので諦めた。

 それに、現実の物理学を発展応用なんてのは異世界では無理があるんだぜと俺の友人? いや、知人? ちがうな、赤の他人であり物理オタクである田中さんが言っていたので、ある程度は事実なのだろう。

 なんでも、現代の世界は飛行機が何で飛んでいるのかも、実は本当のところよくわかってないんだとか何とかで、別の世界に行ったら現代物理学は使い物にはならないんだとか。

 飛行機が飛ぶ理論は解明されてるが、その理論の大元であるベルヌーイの定理が通説であって正解じゃないんだとか、他にも説が色々あってニューサイ○ンティストに載ったりするらしいね。知らんけど。

 他にも、コンクリートが何故固まるのかすら、完全に説明できない現代物理学を異世界に持ち込んでどうすんのだとか、電荷とか言う手前勝手に弄繰り回した理論片手に水素原子が二つ結びついて水になるなんて、ミクロ的には破綻した理論持っていってどうすんのとか煽ってたっけか。


 まぁ、どうでもいいんだけど。


 田中さんが言うには、異世界に行ったとして、出来る事はその環境の経験則を導き出すこと。

 その経験則からトライ&エラーで近似値を弾き出せる式を作り出すこと。

 要は、現代物理学の発展方法のそのまんましかない。

 人は神が生み出したその世界の数式に、どれだけ頑張って近づけるかということを、どこの世界に行こうが人が人である以上、やり続けるしかないのだとか。


 初めて聞いたときには、よし、こいつとは関わらないようにしようと、心の中で呟いたのだけど、今になって思うと、うん、やっぱり正しかったと言うほか無い。

 だって、田中さんのことを思い出すとこんなにも疲れる。


 頭の中に、普段着であったメイド服を纏った田中さん(30歳男)の姿が思い浮かぶが、直ぐに頭を振って追い出した。


「やばい、やばい、危険が危ない」


 危ない。思わず言語崩壊しちゃうくらい危ない。

 あんなのでも生きていける現代日本の業の深さに畏敬の念を抱きつつ、考えを整理する。


 要はさ、結局のところ当たって砕けろという事だ

 いつも通り、やるだけやってみてから考えりゃ良い。


「ま、それしかないわな」


 言って、気持ちを切り替えて研究モードに入る。

 幸い時間はいくらでもある上に、トライ&エラーは最早俺の十八番と言っていい。

 だったら、後は頑張るだけだ。

 わからないことを延々と解明する作業を行うだけである。

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