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第九話 魔法

 初めは、リッチ先生の言葉を理解しようとした。


 魔法といえば、詠唱だろうと。詠唱さえ知ってしまえば、もしかしたら道が開けるのかもしれないと思ったからだ。

 訳のわからない言葉に、聞きなれない発音。

 他所の言語とか英語ですら四苦八苦の俺が、リッチ先生の言葉を理解しようとするいうのは至難の技だった。

 しかも、もうちょっと大きな声で喋ってくださいお願いしますとか、ごめん、そこもっとゆっくり等の注文をつけても、リッチ先生ったら全無視だからたまらない。


 とりあえず、仕方が無いので言ってる言葉を聞き取ろうと頑張った。

 恥ずかしがり屋さんなのかなんなのか、ボソボソと呟くように詠唱するので、顔をリッチ先生の顔面に限りなく近づけて頑張った。


 もちろん、最後の最後まで、間近で聞かないといけないので、何度も何度も死んだのは言うまでも無い。


 リッチ先生は、地に水に火に風と多彩な魔法を使用するので、その死亡内容は多岐に渡る。

 生き埋めになったり、風で飛んだり、切り刻まれたりなんて、めったに出来ない経験も、この時初めてすることが出来た。

 その中でも、地面の上で溺死するなんて、貴重な経験を積ませてくれたのには、感謝の念を禁じえない。

 人間ってあんなに苦しく死ねるんだねって、俺は一つ賢くなったのだから。

 絶対に、その内この感謝を返したいと思う。

 気持ちじゃないよ? 物理的な何かでね。



 そして、累計死亡回数にして15036回目、俺は一つの結論を出した。


「やっぱり、間違いない。こう聞こえるわ」


 地の魔法を放つ場合は、


『ゲ、ガルギ、グザジスコガアイエ、スジエガリリイアストカイガ、リエストカイア』


 水の魔法を放つ場合は


『ゲ、ガルギ、グザジスコガアイエ、アガジスリカグソコシアリマ、リエストカイア』


 火の魔法を放つ場合は、


『ゲ、ガルギ、グザジスコガアイエ、ザジガリスケルマニスアリケ、リエストカイア』


 風の魔法を放つ場合は、


『ゲ、ガルギ、グザジスコガアイエ、コヘルミガザシケリエルザア、リエストカイア』


 間違いなくそう言っていた。



 次に、魔法を使うには、どうすればいいのか試した。

 リッチ先生の言葉を繰り返しただけでは、何も起きなかったのだ。

 単純に唱えるだけでは駄目。

 リッチ先生のイントネーションを真似して、唱えても駄目。

 リッチ先生の物まねをしつつ、詠唱しても駄目。


 駄目駄目尽くしで、どうしようもなかった俺は、リッチ先生のいやらしいスケスケの身体を弄る事にした。

 そのいやらしい身体のどこに、魔法的な何かが入ってるの? おいちゃんに教えてみ? と、身体を弄る事にしたのだ。



 そして、累計死亡回数47191回目、色々とリッチ先生に試してる最中にあることに気づく。


 スケスケのリッチ先生の頭部分に、顔を突っ込んで中を見てみたいた時のことだ。

 イメージからか、てっきり心臓部分で魔法というのは生成されていると思っていた。

 しかし、それは大きな間違いだったらしい。


 リッチ先生の魔法の唱え始め、魔法の詠唱の共通部分である『ゲ、ガルギ、グザジスコガアイエ』の部分で、グルグルとした光の渦が、リッチ先生の頭の中で出来上がっていくのが見て取れたのだ。



 それからは、頻繁にリッチ先生の頭に俺の顔を突っ込んで見まくった。

 感情が無い様に思えたリッチ先生が、段々と逃げ惑うようになるくらいには見まくった。

 あんなに悠然と魔法を唱えていたリッチ先生が、早口で唱える様になるぐらいには見まくった。


 見まくる過程で、理解していく。

 実際に触れることで、理解していく。

 魔法というものが何であるのかを、理解していく。


 リッチ先生の頭の中で出来上がっていく、グルグルとした光の渦を見て、直に触れて、魔法というものに近づいていった。


 触れれば壊れる。そんな魔法の素に出会ったのはそれから暫くしてからの話。

 脳内で生成されるメカニズムに触れて、魔法の素を自分で生成できるに至ったのは、それよりずっと後の話。



 そして、試行錯誤を続けること幾星霜。


 俺はコレまでの試行錯誤を、プロジェクト次郎と名づけようと思う。

 語れば掛かった人生の分だけ時間が掛かる。つまりは、人の一生では語りきれまい。

 であるから、過程は誰にも語ることが出来ない。語って、苦労を分かつことも出来ない。


 だから、結果だけを語ろう。

 結論だけを雄弁に語ろう。


 あいつ幸せになったらしいぜ、おう、よかったなと、そんなどこにでもある、小さな共感が得られたならば儲けもんだ。

 さあ、俺の幸せ話を聞くといい。




 目の前で、リッチ先生が燃えている。

 為す術もなかった、以前の俺の様に燃え上がっている。


 そして、止めとばかりに、手のひらの上に出来た、特大の火の玉をリッチ先生へと放った。


 口角が上がる。必然的に上がってしまう。


 そして、感情の思うまま、


「ふははははは! どうだ見たか! 我は魔法使い、伊藤次郎なり!!」


 燃え尽きて、今にも消えてしまいそうなリッチ先生に向けて、そう宣言した。





 累計死亡回数241511回目。

 俺は、魔法が使えるようになった。


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