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4章11

 疾風が巻き起こり、無数の針が空を裂く。

 英士えいじとホプキンスとの闘いは最終局面を迎えていた。

 ホプキンスの両腕に装着された巨大なパイルドライバーの銃口から巨木に等しい太さの針が射出され、英士の体に大きな風穴を開けようと鋭い矛先を向けて飛んでくる。

 英士は刀状に形態変化させた風の剣で応戦し、襲い掛かる太い針を真っ二つに斬って無効化させていく。それでもパイルドライバーからは引っ切り無しに針の大群が射出されていく。もう一本の腕からも風の剣を生み出し、剣舞の(ごと)く降り掛かる大量の針を斬り(さば)き、弾いていく。

 針の雨が止むと、背中からトルネードのように渦を巻く翼を生やし、飛翔してホプキンスへと攻め込む。その最中にも針の大群が襲い掛かってくる。それが鬱陶うつとうしく感じた英士は体をドリルのように回転させ、針を弾いていき、ホプキンスへと突っ込んだ。その攻撃を片方のパイルドライバーで防ぐが、回転の勢いに耐えきれなくなり、ヒビが広がっていき粉々に砕けた。

「おのれがぁ!!」

 もう片方のパイルドライバーを振り上げ、スタン状態に陥った英士へと振り下ろす。だが動きが鈍く、英士が次のモーションに移る時間を与えてしまい、攻撃を回避されてしまう。

「うらぁあああああ!!!!!!」

 英士はホプキンスの腕を掴み、背中の翼を使ってグルグルと体を回転させ勢いをつけ、遙か彼方へと投げ飛ばした。勢い良く投げ飛ばされたホプキンスは数メートル先の壁へ激突し、勢いが止まらずに隣の部屋の壁をも突き破った。


「凄い! 本当にあれが黒鉄くろがね君なんですか?」

 辿り着いてすぐに見た凄まじい闘いに、かえでは口を開けて唖然としていた。

「ええ、上位能力者である英士が辿り着いた境地の力、ブラックメタルヒーロー。FMエフエムでできた漆黒の鎧がパワーやスピード、五感なんかも格段にアップさせる英士のとっておき。だけどね……」

 説明の最中に愛衣は頭の中で苦い記憶を思い出し、顔をうつむいてしまう。そんな愛衣の肩に優しく手を置いたしんが話を引き継ぐ。

「境地の力を手にしたまでは良かったんだが……、その力をコントロールできずに暴走してしまった過去があってね。そんなことがあってね、《BLACKブラツクEYEアイ》というサングラスに能力を封じ込めて安定的に使えるようにしたんだ。けど暴走した時のことがトラウマになって、英士は今日この日まであの境地の力を自分の中に封印していたんだ」

「でも、今英士はその力を使って闘っている。これも楓ちゃんのおかげよ」

「え、私……ですか?」

「そう。『ユートピア』でのボロボロになっても必死に闘う楓ちゃんの姿を見てから、英士は少しずつ自分の過去と向き合うようになったの。ちょっと悔しいけど、英士の心を動かしてくれて本当にありがとう」

「はい♪」 

 愛衣に感謝されたことがとても嬉しかったのか、楓から満面の笑みがこぼれた。


「……なあ、幻栄げんえい

「何だ、堂里どうり?」

「子供ってのは、俺達親が見てない間に随分と成長するものなんだな」

「ふん、知れたことを。とうにあの子達は世界を動かす風になったんだ。ただ俺達は若い奴らの邪魔をせず、支える立場にシフトしたってことだ」

 嬉しさと寂しさ、中年オヤジ二人はその両方を受け止めて子供達の成長を喜んだ。同時に、いつか来る巣立ちの日が近いことも実感していた。


 壁に空いた大きな穴からボロ雑巾のように汚れたホプキンスが、巨大なパイルドライバーを重たそうに引きずりながら出て来た。表情にはもう余裕が見られず、ただ目の前の標的である黒鉄英士を倒すことしか頭にない。

 パワーアップを遂げた代償に、スピードと自発的に能力を発動することができなくなった。それを補うためのパイルドライバーだったのだが、残っていたもう片方のドライバーにもヒビが入り、ポロポロと破片が落ちて悲鳴を上げている。

「クソ、何故だ!? パワーアップを遂げれば上位能力者に勝てるのではなかったのか!!」

「あんた馬鹿だろ? そんな筋肉が膨れ上がった状態をパワーアップとは言わねえよ。一時の力の上昇だけでスピードを殺すし、肉体に多大な負荷を掛かけてしまう。むしろバージョンダウンって言った方が妥当なんじゃねえのか」

 ホプキンスが状態を変化させた時点で勝敗は決まっていたのかもしれない。そのまま何もせず攻撃を回避し続けていれば、勝手に相手が自爆して勝っていたかもしれない。それでも英士が闘い続けたのは、新しい道を自分で切り開きたかったからだ。

「おのれ、おのれぇえええ!! モルモットの分際が正義面しやがって……」

「正義? 違うな、これは単なる俺の自己満足だ」

 両者同時に駆け出す。

 ホプキンスは限界を迎えているパイルドライバーから太い針を出して、英士へと突き出す。

 英士は風の剣を振りかざし、横一線に薙ぎ払うようにホプキンスへと斬り掛かる。

「俺はただ、俺のことを想ってくれる大切な人達と平和な日常を歩んでいきたいだけなんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 両者共に交差し、この闘いに終止符が打たれた。

 当然のことながら、最後まで立っていたのは英士だった。


 黒き鋼鉄の鎧を解き《BLACK・EYE》へと戻してそれをデータ粒子化させると、英士は一息吐いてから勝負に敗れて倒れ込んでいるホプキンスへと視線を向けた。

「ぬっ、ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?!?」

 これも肉体改造の副作用なのか、絶叫するホプキンスの体から蒸気のように煙が沸き立ち、ムキムキの筋肉で腫れ上がっていた肉体は急激にしぼみ、骨の形がくっきりと見えるまでにガリガリのミイラ状態にまで痩せてしまった。

「ま、まだ我は……終われん。貴様を……捕らえて……辿り……着くのだ、『楽園エデン』へ。そ……して、もう……一度……愛……するか、家族……に……あ」

 全てを言い終える前にホプキンスは力尽きた。そして、塩を掛けられたナメクジのようにドロドロと溶け、骨も残さずに消滅してしまった。

 これで『PDRI』へと繋がる重要な手がかりは無くなり、頼みの綱は切れた。

 ただ、ホプキンスの倒れていたところには一枚の写真が残されていた。それは幸せそうに満面の笑みを浮かべる親子三人の家族写真だった。

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