4章9
ホプキンスより放たれた激光は強風を生み出し、やがて天をも貫かんとする光の柱と化す。そして光の柱は太さを狭めていき、ホプキンスの姿を公にしていく。
「体に改造を施されているのは読んでいたが、何ですか、あれ? 何処ぞのアメコミヒーローですかい」
焼き焦げたように黒い肌、極限までに膨れ上がった筋肉、そして瞳の色はマグマのように赤く変色していた。背丈も二メートル以上と大きくなっており、もうホプキンスは人として扱って良いのか判断に困る存在に変貌を遂げていた。
「待たせて済まぬ。この状態は最後の切り札でな、そう易々と出せないのだよ。時間が惜しい、さっさと本命の第二ラウンドを始めよう」
英士とホプキンス、両者の瞳から放たれる闘志の稲妻がぶつかり合い、緊張感を増幅させ鼓動を高めていく。
拳を痛めつけるように握りしめた英士が先に跳び出す。
疾風を身に纏い、右拳を大きく突き出す。それに対抗してホプキンスも拳を献上するように突き出してきた。
両者の拳がぶつかり合う。
「なっ!?」
力負けして後方に弾かれたのは英士だった。疾風を纏い威力を上げていたが、その威力をもホプキンスが上回っていた。
「ふざけやがって、一体どんな改造手術受けてやがんだ!」
体を宙で回転させて壁を蹴り、もう一度ホプキンスの元へと駆け寄り、拳を腹に叩き込んだ。だがホプキンスは怯む様子も見せず、両手で英士の顔を挟み潰そうとしてきた。その攻撃を何とか態勢を低くして回避する。これでホプキンスに大きな隙ができた。英士はその隙を狙って瞬時に掌に空気を圧縮させ、それを腹へと叩き込んだ。
空気が弾け衝撃波が生じ、ホプキンスの内蔵にダメージを与えるはずなのだが、手応えが感じられない。英士が予測するに、膨れ上がった筋肉がクッション代わりとなり威力を和らげたようだ。
重量感のあるホプキンスの豪腕が振り上げられ、処刑台のギロチンの如く降り注ぐ。これを喰らえば首なんて簡単に吹っ飛ぶ。そんなことは盛り上がった筋肉を見ても明らかだ。幸いパワーアップの代償として動きが鈍くなったため、英士に追撃を加える時間が与えられた。
英士の腕から螺旋状に渦を巻いた業風が放たれ、重量感たっぷりのホプキンスを軽々しく天井まで突き上げ床へと叩き落とした。だがホプキンスはケロッとした顔で立ち上がり、英士を挑発するようにコキコキと首の間接を鳴らす。
「今のは良い攻撃だったぞ。この状態に変化していなければ今頃死んでいただろう。上位能力者というものは本当に我を楽しませてくれる。出し惜しみ無しでやった方が得策かもしれん、下手したらこの状態でもあっさりやられる」
パワーアップを遂げたとしても黒鉄英士にはまだ劣ると判断したホプキンスは、端末を取り出しモニターを広げ、『強制召喚』というアイコンをクリックした。すると煌めく粒子が出現し、集結して質量と形を得ていく。そして見覚えのある二人の人間がオブジェクト化された。
(あれは眞と愛衣が相手をしていた二人か。ま、二人に滅多打ちにされるのは目に見えていたことだけど、ご愁傷様だね)
闘い敗れた黒スーツの二人を見て、心の中で労いの意を込めて拝んだ。あの変態双子兄妹の実力を身をもって知っている英士にとっては拝まずにはいられなかった。
「何だ貴様ら、オブジェクター相手に負けたのか? まあ、今はそんなことどうでも良い。我と一つになるぞ」
ホプキンスは虫の息な状態のジョンとメアリーの襟首を掴み、肩の高さまで持ち上げた。次の瞬間、二人の体が青いデジタル表記の数字と化し、人という形を崩して巨大な拳銃型のパイルドライバーへと変化を遂げ、ホプキンスの腕に装着された。
「おい、もう改造ってレベルの話じゃねえぞ。流石は『PDRI』の残党、考えること成すこと全部がぶっ飛んでやがる!!」
「我が言うのも何だが、その意見には同感するぞ。事故で愛する家族を亡くし、自営していた弁護士事務所は破綻し、行き場を無くし人生に絶望していた我を実験道具として拾い上げたのだからな。だが、そのおかげで今こうして上位能力者の貴様と相見えているのだからな、感謝せねばならん。だからこそ貴様を殺してでも捕獲して、恩を返さねばならんのだよ!」
「だったら俺は全力で抗ってあんたを倒す。そして、自分の力の意味と向き合って、未来へ進む!!」
闘うことに戸惑いを覚えていたのではない、能力者に対する偏見の眼差しを恐れていたのでもない、自分の能力が暴走するのが恐くて臆病になっていただけ。否、それを理由に甘え浸っていたのだ。何も傷つくことのない居心地の良いぬるま湯に。
「見せてやるよ。俺の境地の力を!」
英士は携帯端末の画面から【BLACK・EYE】というアイコンを選択肢、クリックした。そしてパスワード表記が表示され、そこに【UltS1967Oct01】と打ち込んでいった。パスワードは承認され、クリスタルのように輝く黒いサングラスがオブジェクト化される。そのグラスを手に取り、「ジュワッ!!」と掛け声を発して装着した。するとグラスから黒い鉄が走るように広がっていき、英士の体全体に行き渡り、黒き鎧となった。
稲妻を連想させる黄色いライン、空間を切り裂くような二本の角、水晶のように光沢を有しながら先鋭されたボディ、まるでゲームに登場しそうな黒い鋼の鎧。
「さあ、決着の時だ。明けの明星を目にするのはどっちかな」




