3章5
『あ、あのね、私……英士君がすす、好き❤』
「うへぇへぇひぇ~、俺もミコりんが大好きだよぉ~❤」
『今度の夏休みなんだけど、ふ、二人だけで何処か遊びに行かない!?』
「もちのろぉ~ん。ミコりんのためなら火の中水の中、宇宙空間にだって一緒に行くよ!」
『わぁー、夕日が綺麗だよ』
「夕日に照らされるミコりんの方が綺麗だよ☆」
『私達付き合い始めてもう一ヶ月が経つんだね』
「そ、そりゃあ、ミコりん以外は攻略対称に外して、最大速で余計な話飛ばしてるからね。一ヶ月はあっという間だよ」
『だからね、大好きな英士君に……私の全てをあげる❤』
画面の向こう側にいる彼女、大宮美恋が薄暗い部屋で服を脱ぎ捨て、下着姿となる。
「なななな、なぁー!?」
【美恋の下着を脱がしますか? YES/NO】という想像もしなかった選択肢が表示される。
「これって……」
不安を抱きつつ英士は視線を【YES】へと運び、アイクリックした。すると、大宮美恋のブラのホックをギャルゲー主人公が外し始めた。しかもそのシーンがアニメーションで描かれている。
「いや、待て待て待て待てぇーい!!」
一度ゴーグル型の端末を外して状況を整理する。
お風呂に上がっても胸のモヤモヤ感が晴れず、気分転換に新作のギャルゲーでもやろうとゲームアプリを検索して見つけたのがこのゲームだった。レビューには『ヒロインと付き合い始めて一ヶ月で驚きの展開が』や『純粋なギャルゲーだと思ったらマジ騙された(笑)』と書かれていた。おすすめ度を表す星が五つ中四つとなかなかの高評価だったのでダウンロードしてみた。
ダウンロードしたそのゲームデータをゴーグル型のハードに移し、ちょっとした期待感を抱きながらゲームに臨んだ。
ベタにパッケージヒロインの大宮美恋を攻略対象に選んだ。主人公に勝手に惚れて寄って来る他のヒロインは無視し、余計な話も最大速で飛ばし、大宮美恋の好感度だけを順調に上げていき今に至る。
「ミコりんが、ミコりんが、イケナイ子になっちゃたぁ!!」
これ以上は観てはいけないと思いつつも、再びゴーグルを掛けて続きを観てしまう。
ちょうど主人公が大宮美恋のブラを外し終え、純白のぱんつを脱がしているシーンだった。生まれたままの姿となった大宮美恋は頬を赤く染めつつ、可愛らしく微笑んでいた。
「ぶひゃあ————❤」
あまりの可愛さに思わず胸がキュン! とトキメいた馬鹿は、漫画の如く鼻から血をジェット噴射させた。更にそんな馬鹿の精神を崩壊させるのを狙ってか、【大宮美恋に何をしますか? ①おっぱいを揉む/②キスをして激しく抱擁し合う/③心を獣にして押し倒す】という選択肢が表れる。
気持ち悪い声を出して表情を緩めながら迷わず英士は①を選択、しようとしたその時、
「同じオスとして見ててもキモイぞ」
「ッ!?」
眞でも愛衣でもない、第三者の声が聞こえてきた。
英士は素早くゴーグルを外し、声のした窓の方へと視線を向ける。いつの間にか閉めていたはずの窓が開けてあり、夜風に吹かれカーテンが靡いていた。そして、そこには全身がピンク色のヒトではない生き物が立っていた。
「る、ルンバ!? 何でここに、つーか、さっき聞こえた声って……」
先ほど聞こえた声はドスのきいた中年のおっさんの声だった。だが目の前にいるのは可愛らしいルックスのルンバだ。何処を見渡してもおっさんなんて存在しない。
しかしルンバをよく見てみると、パッチリとしたお目々が酷く鋭く、表情もやさぐれていて厳つい。
「悪かったな、おっさんの声で」
パチクリと英士は何回も瞬きをする。
思考停止状態の英士を見て、ルンバは大きくため息を吐いて苛立った表情で語り出した。
「昼間テメーが見た俺は、癒し系キャラを演じてた仮の姿の俺だ。んで、今の姿が本来のルンバなのさ。仮の時は語尾に『ウパ』を付けなきゃなんねーからな、結構面倒なんだ。今は随分と楽だぜ。まあ、仮を演じることで良い特権もあんだけどな」
「……良い特権?」
おっさん声のルンバが未だに信じられず、軽く頭の中がパニック状態に陥いっている。だがそもそも、妖精という存在が未知なる生命体なので、未知の生物に未知が重なっただけだ。
「色々あんだけど、パートナーとなった美少女戦士の子と一緒にお風呂に入れることが一番の特権だな。ちなみに、俺はオスだ☆」
「な、何ですとぉー!?」
パートナーとなった美少女戦士ということは、当然そこには美汝楓も含まれてくる。それを理解した英士を見て、ルンバはにんまりと憎たらしい顔で笑った。
「いやー、楓なんて俺が今まで見てきた奴の中ではトップクラスだったぜ☆」
「な、何て羨ま……じゃなくて、ひ、卑劣な!!」
羨ましさ九割、怒り一割の感情が込み上げてくる。
「そう怒るな。俺達オスの妖精はテメーら人間の男と違って、色々と大変なんだ」
「何を贅沢なことを?」
ルンバは胡座をかいて床に座り込んだ。
「フォーチュンワールドではな、ある重大な問題を抱えてるんだ。それというのが、妖精のオスが妖精のメスに興味を示さなくなってきているという問題なんよ」
知るかそんな問題というのが英士の正直な感想である。
「特に人間の女に興味持っちまった奴なんて性処理方法が貧しくなってな、その解消法として人型タイプのピクシーに注目と需要が集まったんだ。ピクシーはサイズが小さくエルフのように力も強くない。おまけにほぼ真っ裸だから、おかず観賞用として適してたんだ。だがな、乱獲されて数が激減しちまい、今では絶滅危惧種の扱いだ。だから妖精のオス達はその代用を求めた」
「……はあ、代用ですか?」
メルヘンチックな世界のイメージがどんどんと崩れていく。この先を聞いて良いのかどうか、英士は戸惑いを覚える。
「この地球には素晴らしい代物があってな、それをシティ側の奴に頼んで輸出してもらってんだ。それがさっき言った代用だ。主にAVやダッチワイフ……」
「いやー、それ以上聞きたくねえー!!」
これ以上聞くと後悔しか待っていないと判断した英士は、両手で耳を塞いだ。それでも完璧には遮断できなかった。
「それから、妖精の中には稀に人間に変身できる能力を持つ奴がいるんだ。そいつらの中にはその能力でイケメンに変身して、パートナーの女とニャンニャンしちまった奴も多々いる」
「パンドラ感半端ねえ!!」
英士は多大なショックを受けた。
「つーか、何しに来たんだよ。わざわざそんな話をするためにここに来たんじゃないんだろ?」
「おお、そうだったそうだった、本題を忘れていた」
コホン、とルンバは一度咳をして、
「黒鉄英士、テメーに少し話したいことがあってな」
「話したいこと?」
二人の表情が強ばる。
「テメーも疑問に思っていたはずだ。美少女戦士を罠にはめるにしても、何故『ファントム』が面識の無いテメーをターゲットにしたのか。そして瀕死状態だったオコルゾウを蘇生させ、暴走状態にさせた第三者の存在。俺にはこれが一本の線で繋がってんじゃねえかと睨んでんだが、テメーはどうなんだ?」
ルンバの問いに英士は少し間を開け、コクリと静かに首を縦に振った。
「そっか、なら心配ねえ。テメーが力だけじゃなく頭も賢い奴で良かったよ」
ルンバは満足した顔で立ち上がり、窓際へとジャンプで飛び移った。
「近い内またテメーと楓は再開するだろう。そん時、何かあったらテメーが楓の命を守ってくれ、昼間の時のようにな」
そう言い残してルンバは窓から飛び降り去っていった。
「それから、俺がオスだってことは他言無用で頼むぞ。バラしたら、テメーのさっきのキモイ姿を撮ったムービーを動画サイトにアップすっぞ!」
「なぬー!?」
情報漏洩を阻止しようと慌てて窓の外を見たが、既にルンバの姿は無かった。




