3章4
ゴキン!! と鉄を無理矢理ねじ曲げたような鈍い音がした。
凄まじい怪力によって老人エルフの首の骨が粉砕され、向いてはいけない角度に首が傾いてしまっている。
もう何人目なのか数えるのも忘れるくらいに多くの命が奪われた。体が半分にちぎられた者、胸に風穴を開けられ心臓を握り潰された者、顔を踏み潰され胴体だけが残った者など、とても直視しできない亡骸が無残にも転がっている。
この地獄絵図を作った悪魔が顔に血を付着させたまま、平然とした態度で女皇陛下へと視線を向ける。
「ふむ、一通り死体は確保できたか。シティの科学者どもにはこの世界の生命がどれも魅力的な玩具に見えるらしいからな。高く売れて我々の財布も潤う」
ホプキンス。
衣類を全て高級ブランドで固め、中世のヨーロッパ人を彷彿させる男。シティ側の人間であり、フォーチュンワールドに最先端の機器を提供し、急速なシステム化を進めた張本人。
現在の美少女戦士の戦闘能力が急激かつ効率的に上昇したのも、武器をオブジェクトデバイスに変更させたのも、この世界に古来から存在した力のフォーマットを捨てさせたのも、全てホプキンスの案によるものだ。
「どうして、どうしてこんなことをするのです、ホプキンスさん!!」
自分の右腕で、高い信頼を寄せていたこともあり、女皇陛下は酷くショックを受けていた。
「どうしてこんなことを、だって?」
平然と。
「そんなの簡単な話だ」
冷酷なまでに落ち着いた態度で。
「最初から決まっていたのだよ」
悪魔は語る。
「貴様らを収穫することはな。収穫の最終段階に移行したのが今、この時だったというだけの話だ」
「……し、収穫?」
言っている意味が解らなかった。
「シティには科学の発展のためなら星の一つや二つ滅ぼしても構わない奴らがわんさかといてな。さっき我が言った通り、そいつらにとって貴様らは大金をはたいてでも手に入れたい実験用の玩具に見えるのだよ。すぐに狩って大金を手にするのも良かったのだが、それじゃあもったいないと考えた我らは、長いスパンを見越しての計画を立てた」
女皇陛下は目が眩み、思わず精神を逃避させたくなった。しかし、ホプキンスはそれを許さない。
「小手先に、貴様らに開発段階にあった機器を与え、サンプルデータを採取するための実験用モルモットとして役立ってもらった。貴様らから得たデータを多くの企業に流し、安全性を確認させ、そのおかげで様々な製品が生産可能になった。貴様らには大変感謝しているぞ」
ペロリとホプキンスは顔に付着していた赤黒い血を舐める。
「十分な戦闘データを得るため『ファントム』側にもコンタクトを取り、貴様らほどに先端な物ではないが高性能端末を与え、肉体改造を施してやった。そうやって双方のパワーバランスを調整していった結果、オブジェクトデバイスも無事大量生産に漕ぎ着けたのだ。データも十分取れたからな、貴様らに用済みになった『ファントム』を壊滅させてもらった。まあ、残党という惨めなゴミが残ってしまったが、そいつらも上手く利用し、今日に至る」
パキポキと首や肩の間接を鳴らしたホプキンスは、生き残りに狙いを定め、収穫を再開させる。
フッ、と一瞬にしてホプキンスの姿が消える。姿を再認識した時には既に女皇陛下の目と鼻の先に立っていた。
「へ、陛下、危ない!!」
アニマル系の妖精が盾になるべく、女皇陛下の前に立った。
パーン!! と風船が破裂したような音を認識した時には盾になってくれた妖精は肉片となり、辺り一面に飛び散っていた。
「おのれ、おのれ、おのれおのれおのれぇえええ————————!!!!!!」
怒りが沸点に達し、恐怖心は何処かに消え去る。怒りと憎しみだけが女皇陛下の感情を支配する。地獄の炎のように顔面が真っ赤に染まり、金髪ドリルヘアーが逆立つ。
と、そこで、
「ボス、来ましたぜぇい。何か私らに手伝うことでもありますか?」
「メアリー、その態度はボスに失礼だぞ!」
会議室のドアが蹴破られ、新たな参入者が二人現れた。黒いスーツの男と女、報告にあった侵入者だとすぐに理解する。
「ジョン、メアリー。良いタイミングで来てくれた」
状況は圧倒的にホプキンスの有利。
「三対一ですか……。良いでしょう、このフォーチュンワールドの最高権力者であり、最強の力を誇るこの私が極悪非道なあなた達のお相手をしてあげましょう。絶対に許さんぞ、テメーらぁ!!」
 




