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3章3

 燃え盛るフォーチュンワールドの宮殿。

 人口的な光など皆無なこの世界の夜は普段なら混沌の闇で包まれ、星々の光によって灯されるのだが、宮殿より放たれる紅蓮の輝きが闇を照らし星空を覆い隠している。

 幾度いくどとなく鼓膜を揺さぶる爆発音が轟き、宮殿のあちこちが破壊されていく。時には悲鳴さえも聞こえてくる。

「悲鳴!? また誰かやられたわ」

「大丈夫よ! 私達二人の『絆の力』があれば、侵入者なんて恐くないよ」

 白と黒のバトルドレスの美少女戦士二人がお互いの手を取り合い、絆の強さを確かめていた。半年足らずのキャリアではあるが、それでも『ファントム』との最終決戦に参加した経験のある二人である。主に前戦部隊のバックアップが担当だったが、優秀な美少女戦士の卵として女皇陛下からもお墨付きをもらっている。

「だったら、恐くない侵入者さん本人にテメーらの言う『絆の力』を見せてくれよ」

「「ッ!?」」

 いつの間にか二人の後に侵入者の黒いスーツを着た女が立っていた。

 瞬時に反応した二人は素早く後退し、一定の距離を取る。

「黒いスーツにライフルを武装した女……」

「こいつね、こんな馬鹿げたことをしでかした侵入者ってのは!」

 殺気全開でそれぞれの武器を構えた美少女戦士二人は、アイコンタクトを取り、黒い美少女戦士の方から侵入者の女へと突っ込んでいった。

 単調な攻撃だと侵入者の女は鼻で笑い、突っ込んできた美少女戦士を武器も使わず軍隊仕込みの近接格闘術でねじ伏せた。

 だが、

「バーカ、あたしは囮だよ」

 女は軽く舌打ちをし、後ろを振り返った。

 白き美少女戦士がワンド型のオブジェクトデバイスを構え、その先端を光り輝かせていた。

 侵入者の女は必殺技を繰り出そうとしているのだと瞬時に理解する。

「喰らいなさい、ワンダーフラッシュ!!」

 先端のクリスタルから虹色の神々しい光が放たれ、侵入者の女の目を眩ませた。

「よっしゃあ! 必勝パターンだぜぃ☆」

 黒い方の美少女戦士は相手の目が眩んだおかげで捕まれていた腕が解放され、その隙に距離を取ってパートナーと合流する。

「幸運より生まれし美しき光が!!」

「悪しき思想を虚無へと導く!!」

 黒き光と白き光が二人に宿り、全身を輝かせる。この光の正体はスペルゲン粒子。何処にでも存在する無限大なエネルギーが無色から各々のイメージカラーへと変色していく。

 二人はオブジェクトデバイスの先端を重ねた。

「「虚無への浄化ゼロプリフイケーシヨン!!」」

 強大なエネルギーの塊が放たれ、侵入者の悪しき心を喰らい尽くそうと白と黒のスパークが一直線に飛んでいく。

 人を吞み込むには充分過ぎる大きさの光弾が高速で迫る。今から避けようにも目が眩んで避けきれない。そんな状況にも関わらず、女は目を瞑りながらも不敵な笑みを浮かべていた。

 光弾は女を完全に呑み込み、強烈でありながらも神々しい輝きを放った後に飛散した。

 しかし、それだけの現象しか起こらなかった。

 必殺技を喰らい悪しき心を浄化されたはずの侵入者の女が、今も邪悪なオーラを漂わせ立っている。

「……ありゃ? 必勝パターンだったのに……」

「見て、私達のオブジェクトデバイスが!」

 すぐ横のホロモニターに目をやると【SYSTEM ALERT】の文字がでっかく表示されていた。

「こんな時に限って……。威力演算システムに何か不備でもあったの!?」

「ちょ、私に当たらないでよ。今システムにエラーが無いか二人分調べるから、あなたは上手く相手の気を引きつけておいて」

「がってん承知の助☆」

 そう言って囮役を引き受けた黒き美少女戦士は、地面を力強く蹴って相手に跳び込んでいこうとした、のだが。

「て、げぶ!?」

 跳躍の力が足らずにバランスを崩し、間抜けにも転んで顔面を地面に打ちつけてしまった。

「もー、こんな時に何ふざけてるのよ!?」

「いちちちー、んなこと言われたって……」

 立ち直り、もう一度地面を蹴って相手に向かって突撃を試みる。が、またも間抜けに転んでしまう。流石におかしいと感じた白き美少女戦士は、足をバネにして全力で縦に跳んでみた。変身した状態で跳べば最低でも五メートルは跳躍できる。だが、今はその半分の高さにさえ遠く及ばない。

 これが異変だと確信した美少女戦士の二人は、モニターに指を当てて何処にシステムエラーが発生しているのか調べようとする。しかしブザー音が鳴るだけで一切操作ができない。

「どうなってんの、うんともすんとも反応しない!?」

「あたしも同じ状態。これってひょっとして……」

 二人は顔を見合わせ、ゴクリと息を呑み込んだ。

「二人の『絆の力』ってのはもう終わりかにゃー? だったら謝る、大いに期待した私が間違っていたと」

 侵入者の女の声に気づいた時にはもう遅かった。

 女は二人の腹の溝に拳をめり込ませ、肺の空気を強制的に吐き出させた。怯んだ隙を狙って黒き美少女戦士を蹴り飛ばし、白き美少女戦士には踵落としを喰らわせた。

 地面にはいつくばった白き美少女戦士の腹や顔面に次々と蹴りを入れていく。その一発一発がコンクリートを打ち砕くほどの重い攻撃だ。攻撃を喰らう度に肺から空気が強引に押し出され、粘り気のある赤黒い血が吐き出される。

 通常ならオブジェクトデバイスの加護により、この程度ていどの攻撃なら大したダメージを受けないのだが、今はデバイスの加護が受けられずにダメージを負ってしまっている。

 侵入者の女は白き美少女戦士を思う存分痛めつけると、彼女の右腕を掴んだ。

 ボキリ! と木の枝が折れたような音がした。最初はその音だけが聞こえた。それから違和感を覚え、ふとその部分を見てみると、右手首が力なく垂れ下がっていた。自分の右腕がへし折られたことをようやく認識した瞬間、熱を帯びた急激な激痛が白き美少女戦士を襲う。

 痛い痛い痛い痛い。

 熱い熱い熱い熱い。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?!?」

 侵入者の女は毒々しい笑顔を浮かべたまま、悲鳴を上げる少女のもう片方の腕を躊躇ためらいも無く、ゴキゴキ! バキバキ! とねじ曲げ、へし折った。

「——ッ!!!?!?」

 あまりの痛覚に口から泡を吹いた白き美少女戦士の体は、死ぬ寸前の虫の(ごと)くピクピクと痙攣(けいれん)していた。

「あ、ああ、ああああ!?」

 あまりにも日常とかけ離れた残酷な光景に、黒き美少女戦士は言葉を失い足がすくんでしまう。

「おい、そこの黒いの!」

 侵入者の女がホルスターからハンドガンを抜き取り、泡を吹いている白き美少女戦士の髪を乱暴に掴んでこめかみにハンドガンを押し当てた。

「こいつの命が惜しいか? それとも、こいつの命を見捨てて私らの仲間になるか?」

 ガチガチと口が震える。

 パートナーを助けたくとも、足が、手が、全身が震え、体が言うことを聞かない。恐怖心と混乱が重なり、黒き美少女戦士の呼吸が荒々しくなる。

 パンパンパンッ!!!!!! 

 黒き美少女戦士の足元へと弾丸を数発撃ち込み、最後通告のように答えを催促さいそくさせる。

「次は無いわよ。仲間を助けヒロイックな死を選ぶか、はたまたこんな奴見捨てて私らの仲間に加わるか、どっちか決めなさい」

「うん、んぐ、んんんん……!!」

 白き美少女戦士は激痛を味わいながらも意識を取り戻し、必死に全身を動かして何かを伝えようとしていた。

「この白い奴の最後になるかもしれない言葉だ、耳の穴かっぽじってちゃ~んと聞いてやれよ!!」

 白き美少女戦士は決死の覚悟で一言、こう叫んだ。

「逃げて!!」

 黒き美少女戦士は自身の力の無さを憎み、いつか敵を討つことを誓い、心苦しくもパートナーに背を向けて走り出した。

「私が用意した選択肢は二つだ、無いはずの三つ目は許すか。ジョン、殺れ!」

『了解した』

 銃弾が放たれた。

 サップレッサーにより音がき消される。

 鉛玉は音も立てずに黒き美少女戦士の額を貫いた。パートナーとの半年間の思い出を振り返る暇さえも与えずに。

「最後まで友情ごっことか、寒ぶ過ぎんだろーが!! あんたも黒い奴の所へさっさとおき」

 侵入者の女は何の躊躇ちゆうちよも無く、パン!! と白き美少女戦士のこめかみを撃ち抜いた。

そしてハンドガンをホルスターに収めたところで、ジョンからの通信が入る。

『その二人の死体もちゃんと回収しておけ、メアリー』

「はいはい、どうせ死体を操る研究をしてやがる変態どもの所に送るんだろ? つーかさあ、バラバラになったゴミも拾わされてマジふざけろ! キモいし、汚いし、臭いしよー!!」

『これもボスに与えられたミッションの一つだ、我慢しろ。それに回収したバラバラ遺体も肉体再生医療に利用される。再生薬の開発に成功すれば、真っ先に我々の手に届くという手筈てはずになっているはずだ。これも将来の投資だと思って、今は耐えろ』

「わーたよ、そう思うことにしとく。まあ、もう随分狩ったし、十分だろうよ。んじゃあ、こいつらの死体を回収し終えたら一度ボスと合流しとかない?」

『その意見については自分も同意する』

 二人の美少女戦士の死体を回収し終えたメアリーは、一度ジョンと合流してボスの待つ宮殿の会議室を目指すことにした。

 途中何人かの美少女戦士達に奇襲を掛けられたが、二人とも害虫を駆除くじよするような感覚でライフルをぶっ放し、身元が分からなくなるほどに蜂の巣にしてやった。

 回収すべき死体が増えてしまいメアリーは軽く舌打ちをしたが、渋々死体の回収を行った。回収した全ての死体をデータ粒子化させ、無事ミッションを遂行させた。

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