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3章1

 フォーチュンワールド。

 酸素濃度や重力、星の面積もが地球と同じ世界。だが地球と相違する部分として、人の手が加えられていない森、何処を見ても純白のように透きとおった清流、汚染物など流れてこない宝石のように輝いている海など、手つかずの大自然がこの星を覆っている。妖精、エルフ、ドワーフ、インプ、ゴブリンなど、空想上の生物達がこの世界の住人として実在している。

 この世界の文明というものは乏しく、発展した都市があったとしてもRPGに登場する中世ヨーロッパをベースにした街並みだ。

 しかし、この世界に一カ所だけ現代の科学技術を有する場所がある。

 この世界で最高の権力を持つ女皇陛下が住まう宮殿。

 インドのタージ・マハルに似せた屋根、ギリシャのパルテノン神殿のような巨大な柱、その他にも何処かで見た覚えがある神殿やら遺跡やらが合わさった造りをしている。そんな外観をしているのにも関わらず、建物の中には最新式の超高性能端末が完備されている。

 この宮殿の端末の全ては地球で製造された物で、そのほとんどがフェザーシティ制である。『ADIC』という企業ロゴが入った映像機器があったり、超有名な企業のロゴが入った機材もちらほら見られる。

 この世界に地球の先端テクノロジーが導入されるようになったのはここ数十年の話である。それまでこの世界の文明は地球の歴史で例えるなら、産業革命以前のレベルでしかなかった。

 数十年前、シティのとある研究所で転送装置の実験を行っていた際、装置の誤作動である世界とシティとが繋がってしまった。その偶発的に繋がった世界こそフォーチュンワールドだった。

 その後、秘密裏にシティ側の人間とフォーチュンワールドの住人とで交流を重ねられた。シティ側はお家芸である最新テクノロジーを惜しまず提供し、端末操作をマスターさせるために住人に向けての特別講座が何度も開かれた。

 対して、フォーチュンワールド側は美少女戦士という戦士育成システムをシティへと提供した。


「皆さん宜しいですか? それではこれより会議及び報告会を開きたいと思います」

 見た者の心を惑わす美貌、力強さを表す金髪ドリルヘアー、絶対的権力を示すに相応しい豪華な宝石の数々。完璧なる美貌を持ち合わせ星空のように輝くドレスを身に纏ったこの者こそ、フォーチュンワールドの女皇陛下である。

「まず皆さんにお知らせしなければならないことがあります。これを見て下さい」

 フォーチュンワールドにおける権力者達——エルフなどの人型やアニマル系の妖精がメイン——の前にホロウモニターが各々表示される。その内容は『ファントム』の残党についてまとめられた報告書だった。

「先ほど送られてきた美汝楓びじよんかえでの報告書です。——『ファントム』の残党を確認。その数は不明。少なくとも二人以上は存在する模様——だそうです。ですが、この報告書にはそれ以外に重大な事柄が書かれています!」

 一同の視線が目の前に表示されたホロモニターに釘付けになる。厳重なセキュリティを誇る宮殿のサーバーを潜り抜け『ファントム』に偽情報を流されていたという事実に、一同が動揺の表情を浮かべていた。 ただ一人、動揺もせず暢気に紅茶をすすって喉を潤している男を除いて。

 その男は高級ブランド物の衣服で身を固め、オシャレなハットと髭が相まって中世ヨーロッパの貴族を連想させる。

「ホプキンスさん、この一大事に貴方あなたという人は……。何故そんな暢気にお茶を飲んでいられるのですか?」

 丁寧に音も立てずにティーカップを受け皿に置いたホプキンスは、鼻からため息を吐き女皇陛下を始めとする権力者達を呆れた顔で見回した。

「この報告書に書かれた事態を招いたのはむしろ貴様らの方だと、何故気づかん?」

 会議場に一瞬の沈黙が流れる。

 バン!! と権力者の一人である老人エルフが強く机を叩いて立ち上がり、感情に任せて怒鳴り声を上げる。だが女皇陛下がその老人エルフを静止させ、ホプキンスに話を続けるように促す。

 ホプキンスは先ほどの老人エルフを鼻で笑い、話を再開させた。

「地球の最先端のサーバーを有していたとしても、サーバーに厳重なセキュリティが掛かっていたとしても、ホストサーバーには常に人の監視の目を光らせておかねばならぬ。だが貴様らときたら、先端技術だと高をくくり監視の目を全て機械に一任させていた。つまりだ、『ファントム』が宮殿サーバーのセキュリティを突破し偽情報を流出させてしまったのは、科学万能と思い込んだ貴様らの愚かな思想が招いた結果だ」

「な、何をー!」

 数人が怒りの声を上げるが、図星を突かれたために返す言葉が無かった。正直なところ、機械に頼りきりでホストサーバーのチェックを怠ったことは否めない。誰もが宮殿サーバーのセキュリティを無敵の存在だと信じていた。それに『ファントム』側にセキュリティを突破する技術など皆無だと高をくくっていたのも事実だ。

「ですが……」

 苦しい言い訳になるのは承知の上で、女皇陛下が一同を代表して意見を述べる。

「このサーバーならクラックを受ける心配も要らないと言って私達に薦めてきたのは、他でも無いホプキンスさん、貴方ですよ。シティ側の人間の中で私達と交流が一番深いホプキンスさんの言葉を信じ、機械に全て任せたのです。確かに、機械に任せっきりだったのは我々の反省すべき点ですが……」

「ふん、馬鹿馬鹿しい。全ての美少女戦士の任務スケジュールを一括コントロールしているホストサーバーがクラックを受けた可能性があるというのに、貴様らはただ下らぬ言い訳を垂れることしかできんのか? 他にもホストサーバーには、各美少女戦士の戦闘データやスキル、その子のプライベート情報までもあるのだぞ。そんなことに貴様ら誰一人危機感を抱かないとは……、この報告書を送った者の方が貴様らより百倍賢いわ!」

 権力者一同の表情が青ざめる。

 やっと事の重大さに気づいたのかとホプキンスは大きなため息を吐いた。そんな時、ピピッ! とホプキンスのスティック型携帯端末が電子音を発した。部下からのメールを受信したアラーム音だ。メールには『準備完了』とだけ書かれていた。そして、メールを確信し終えたホプキンスはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「だが、そんな頭の足りぬ貴様らで助かった。この宮殿に『ファントム』のスパイが紛れ込んでいると誰一人として考えなかったのだからな。おかげで非常にやりやすかった」

「ホプキンスさん、貴方さっきから何を言って……?」

 女皇陛下が疑問を口にした直後だった。

 突如、鼓膜を突き破るほどの強烈な爆裂音が宮殿内から鳴り響いた。その音に遅れて一秒後に大きな震動が伝わり、全員の足元をふらつかせた。

『緊急事態です!! 何者かがこの宮殿に侵入、建物の一部を爆発物で破壊した模様。尚、目撃証言によると、侵入者は黒いスーツの男と女の二人、複数のライフルを所持しているとのことです』

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