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2章10

《Physical Development & Research Institution》、通称『PDRI』と呼ばれた超能力開発研究機関。

 十年前までシティに存在していたその施設はかつて世界トップの能力開発技術を有していた。シティでも一際目立つ存在だった。

 その施設で能力開発を受けることに憧れ、何千何万という子供達が教養塾感覚でかよっていた。中には、自分の子を能力者にさせたいがためにわざわざ日本に留学させてその施設に通わせる外国人の親もいた。

 能力開発を受けるため月何十万という多額の料金が発生し、一般の家庭では手の出しようが無い遠い領域だった。例外として、身寄りの無い児童養護施設出身の子供や、両親のどちらかが不在の家庭環境の子、経済的に厳しい家庭の子には無償で通う権利が与えられていた。そのため施設に通う子供に社会的格差がはっきり表れていたという。

 能力開発の報酬として経済的に貧しい環境の子供に限定的に多額の謝礼金が支払われていた。裕福の家庭サイドの人間からしてみればそのことが気に食わなかったらしく、度々もめ事を起こしていた。それでも大きな惨事には発展しなかった。その件に関して(```````)はだが。


 とある少年がいた。

 少年は親の顔も名前すら知らない孤児院育ちの子だった。それでも同じ境遇の子達や施設の人々に支えられ、少年は幸せに育った。

 その少年が六歳になった頃、孤児院の経営が急に苦しくなった。このままでは施設が潰れてみんなと離ればなれになると危機感を覚えた子供達は、たまたまテレビで放映していたCMを観て『PDRI』が能力開発を受けたい人材を募集していることを知った。無料で開発を受けられる上に高額の報酬金が寄付される。こんな美味しい話は他に無いと考えた子供達は『PDRI』に通うことを決意し、施設の大人達に相談を持ち掛けた。

 だが大人達はそんな美味しい話には何か裏があるからとかたくなに拒否した。

 それでも子供達は「自分達が能力開発を受ければこの施設にお金が入る。お金が入ればこの施設も潰れずにみんなと離れなくて済む。自分達は今まで大切に育ててくれた恩を返したいんだ」と力説を繰り返した。

日に日に施設の経営が困難になっていく中で大人達は、渋々子供達を『PDRI』に通わせることを許可した。

 これが子供の甘い考えだったと思い知らされることになるとは知らずに。 


 通常、超能力を開花させるための手段として用いられるのがFMエフエムを液状にしたものだ。それに様々な薬品を混ぜ込んだサイケデリック色のプールに子供達を浸らせる。そうすることで普段三~五%程度ていどの機能しか使用していない脳を活性化させ、潜在的な能力を目覚めさせ脳のスペックを格段に上昇させる。

 スペックの上がった脳は特殊な脳波を発し高速演算を可能にする。脳波によって自然界に漂う素粒子に化学変化をもたらし、様々な現象を起こす。対して高速演算は引き起こす現象の効果範囲や威力を決定する重要な役割を果たす。

 自然に敬意を込めて科学者達は日本が古来から明治期まで使っていた呼び方を採用し、この能力のフォーマットを『ジネン』と名付けた。 

 とある少年もその『ジネン』の力を覚醒し、努力を重ね能力値を順調に伸ばしていった。

 能力値が上がるごとに比例して報酬金も上がっていく。それによりその少年が暮らす孤児院に毎月高額なお金が寄付された。一時は経営難に陥ったものの高額な寄付金のおかげで経営を立て直し、継続させることに成功した。

 これで施設も潰れずみんなともバラバラにならないで済む。少年はこの物語がハッピーエンドで終わると信じていた。

 だが、現実とは残酷にも物語の続きを常に要求してくるものだ。


 とある少年が『PDRI』に通い始めて数ヶ月が経った頃、能力開発のメニューが突如として過酷で異様なものへと変化した。

 有無も言わせず子供にヘッドギアを装着させ、他の子供から得た能力データを無理矢理脳にインストールさせたり、能力者の肉片の一部を他の能力者に移植させたりした。これらは全て多重能力者デュアルスキルや高位の能力者を生産するための実験だった。

 他にも酷い実験はある。

 薬品投与のレベルを規定値以上に引き上げることで人体に及ぶ影響のデータを採取する実験。それに耐えきれず脳をパンクさせる者や全身を破裂させて命を落とす子供が多く出た。

 それでも『PDRI』の科学者達は子供達を使った人体実験をデータが欲しいがために繰り返し続けた。彼らの目には子供達は単なる実験用のモルモットにしか映っていなく、頭は完全に狂っていた。

 危険な実験で出た死体はまた更なる実験にリサイクル感覚で使用された。死によって開花する能力はあるのか、死んだ者の能力を死んだ状態で引き出すことが可能か、死体を機械に繋げて能力を発生させられないか、など。死人にさえ配慮しない非人道的な実験が平然として行われていた。

 とある少年も危険な実験を幾度いくどとなく受けさせられ、その度に辛い苦痛を伴った。実験を拒否すれば孤児院に寄付されるお金を全額カットされる上に院の大人達にも危害を加えると脅され、嫌々実験に付き合うしかなかった。時には何時間もぶっ通しで能力者同士の戦闘を強いられ、時には演算速度を更に高速化させるために脳内をイジくられた。

 皮肉にも、辛い実験を受ける度に彼の能力値は大きく上昇していった。


 死者が出ている事実を知らずに『PDRI』に通い続ける子供達。実は施設を出る際、機密漏洩の防止対策という名目で子供達に記憶操作を施され、違法な実験を受けた部分の記憶を一時的に封じ込められていたため、子供達が家で実験の内容を話すことなく情報は完全に隠ぺいされていた。

 だが『PDRI』に勤めていたとある清掃委員の勇気ある告発により、事実が世間一般に広まることになった。

 危険で非人道的な実験が頻繁に行われていた事実はもちろん、実験により多くの子供達が犠牲になった事実も公にされた。その犠牲になった子の約九割が身寄りの無い児童養護施設出身の子供達だと判明し、メディアはそのニュースを大々的に取り上げた。

 結果『PDRI』は解体され、施設に通っていた子供達は保護されて洗脳術も無事解除された。残念ながら施設の最高責任者などのトップは誰一人として捕まらず、俗に言う下っ端の人間のみがお縄となった。

 事件後、捜査が進んでいく中で様々な事実が判明していった。

 施設に巨額な国の税金が投資され、死んでも使い物にならない遺体を秘密裏に燃して始末していたことが判明した。

 不祥事を起こしたのが世界トップの『PDRI』だったので世界にとてつもない衝撃を与え、日本の超能力開発のあり方が世界から大きく問われた。

 だが不思議なことに、荒れ狂うように大騒ぎしていた世界中のメディアが一ヶ月もしない内に沈静化していった。何か裏社会の力が働いたのかもしれないと述べたテレビコメンテーターがいたが、その者は数日後に謎の疾走を遂げている。

 世界のメディアは沈静化したが、日本のメディアは正当路線を脱線させた報道をしていき、それを加熱させていった。最初の内はメディアも被害者側の味方だったが、次第に報道の力を牙に変えて被害者に襲い掛かってきたのだ。

 特にメディアが噛み付いたのが、富裕層から巻き上げた金の一部が無償で通っていた貧困層の家庭に送られていた部分だ。意外にもこの件に関して一番怒りの声を上げたのが金を巻き上げられた富裕層ではなく、中間層だった。

 自分達は金が払えず子供を通わせたくても通わせられなかったのに、貧困層の子供達なんて無償な上に多額の報酬が貰えていたことに嫉妬を抱いたのだ。嫉妬と怒りが混じり合いその感情がやがて牙となり、超能力者——特に無償で通っていた子供達——を社会的差別の対称に仕立てていった。

 超能力者というだけで訳も無くイジメを受け、道を歩いていて理由も無く突然殴れ、街中で拉致されて海外の研究機関に売られたりと、第二の地獄が待ち受けていた。更に差別という牙は超能力者に留まらず、超能力者の親族にまでその矛先が向けられていった。

 当然とある少年もその差別の対称になり、世間から冷たい視線で見られ多くのイジメを受けた。

 暮らしていた孤児院が理由も詳しく聞かされずに潰され、仲間達とバラバラになった。 

 自分達を大切に育ててくれた施設に恩を返すため、仲間達と別れないため『PDRI』に通い始めたのに、施設は潰され、離れたくなかった仲間達とは結局離ればなれになる始末。最悪にも『PDRI』の事件で仲間の一人に死者が出ていた。

 黒鉄英士くろがねえいじという少年は深い悲しみを味わい、絶望を思い知らされたのだ。


 事件後、社会的差別に耐えきれずに自ら命を絶つ超能力者やその親族が続出し、社会問題にまで発展した。

 そんな悲惨な出来事が起きてから十年経った現在、当時と比べて超能力者を差別視する者は減ったが、未だに超能力者を異様な目で見る者や弾圧する団体があるのが悲しい現状だ。

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