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2章7

 爆弾が仕掛けられたというアナウンスを聞いて外へと避難した人には、これは爆弾が爆発した結果として起こった火事に見えている。実際には、脳の機能が著しく低下し凶暴化したオコルゾウが口から炎を放射して引き起こしたものだ。ショッピングモール内でゾウが火を吹いて暴れているなんて誰が想像できたことか。

 熱膨張に耐えきれなくなったガラスが砕け散り、凶器の雨となって群がる群衆に襲い掛かる。

 まるでここが我々のテリトリーだと主張するかのように火は広まっていき、あっという間に全フロアが炎の支配領域化する。

 ここまでの惨事に発展させてしまったことを悔やむかえで。しかも今は英士えいじに攻撃を任せている。

 巻き込んだ上、敵の排除にまで協力させてしまっている。

「(……最低ね、私)」

 非力な自分に反吐が出る。

 しかし、英士によるFBエフビーのミサイル攻撃を始め、機関銃、フォトンブラスター、レーザー光線など、所持している装備を次々とオブジェクト化させ攻撃を加えているにも関わらず、体の数カ所にかすり傷を作る程度ていどの成果しか出せていない。

「バグオオ——————ン!!!!!!」

 大きく吠えた直後、自分の目線より上でホバリングしていた英士達に向けて火炎攻撃を放ってきた。

 歯を食い縛り英士は「回避!!」と思考で命令、機体の素材として使われているFMエフエムが英士の思考を読み取る。すると目と鼻の先まで迫っていた炎をジグザグとした動きで回避した。トンボを参考にメーカーが研究に研究を重ねて実現した動き、そのメーカーの探求心のおかげで今までの攻撃を回避し続けられた。そのことを英士は心から感謝している。

 しかし、攻撃を回避できても暴走するオコルゾウを倒さなければ意味が無い。周囲全体が炎に包まれ、施設内の温度と同時に体感温度も上昇している。おまけに酸素濃度が徐々に薄まっていき、呼吸をするのが困難になっていく。

「……ごめんなさい、黒鉄くろがね君をこんなことに巻き込んでしまって。本当は『ファントム』の残党を確認するための任務だったはずなのに、こんなことになるなんて予想もしてませんでした。これは全て私の見とおしの甘さが招いた結果です。あのオコルゾウは私が倒さなきゃいけないんです!」

「さっきから何を言って……ッ!?」

 英士が振り向いた時には、既に楓はFBから飛び降りていた。空中で一度回転し左足を突き出し、落下の勢いを利用してオコルゾウへとキックをお見舞いする。だが細胞強度が爆発的に上がっている今のオコルゾウにとって、楓の攻撃は少し触れられた程度のレベルでしかなかった。

 悔しい表情を浮かべながら楓は宙で回転しながら後退して着地する。

「ダメだ楓さん、今のそいつに何をしても無駄だ!!」

「だからって、このまま何もしない訳にもいきません!!」

 この事態を招いたのは自分。

「大丈夫です。黒鉄君のおかげでオコルゾウには何カ所か傷ができています。そこを集中的に攻撃すれば……」

 だったら、この事態を収めるのも自分の責任。

「はあああああああああ!!!!!!」

 パンチやキックの連打を傷口に集中させ当てていく。結果は予想通り、全くのノーダメージだ。

「うりゃあああああああ!!!!!!」

 今度は電磁浮遊させていた《フレアソード》の柄を握り、傷口へと突き刺していく。だが空気を切り裂くような鋭い金属音は響かず、オコルゾウは全く動じていない。

「……だったら!!」 

 通常攻撃がダメなら必殺技を放てば良いだけ。

「邪悪な力を打ち砕くため、今ここに幸運の光が宿る!!」

 幾つもの光が《フレアソード》へと吸い込まれるように集まり、ホロモニターに表示されたケージが詠唱に合わせてチャージされていく。

閃光の連槍サウザントフラツシユ!!」

 技名を叫び《フレアソード》を前に突き出す。その動作に応じて槍状に構成された閃光が無数に放たれる。

「グギャオ——————ン!!!!!!」

 閃光の槍がオコルゾウの傷口へと次々に命中していく。反撃する隙も与えない。

「効いてる、効いてるウパよ楓!!」

 楓がFBから降りる前にちゃっかり英士の肩に飛び移っていたルンバ。もっとやれやれと横で騒いでいるのでやかましくてしょうがない。

「パオォオ——————ン!!!!!!」

 最もゾウらしい鳴き声を発したオコルゾウは槍状に構築された閃光の連弾を全て喰らい、ふらりと足のバランスを崩す。

「やった!」

 倒れかけたその瞬間、

「ウォオ——————ン!!!!!!」

 バチーン!! と体勢を立て直したオコルゾウからのカウンターをもろに喰らい、楓は叫ぶ暇無く後方の壁に激突した。

「がはっ!?」

 肺にあった空気が強引に口から吐き出される。一体何が起きたのか、楓の理解が追いつかない。ああ、自分は吹き飛ばされたのかと頭で理解できた時には楓の意識はもうろうとしていた。

「楓さーん!!」

「楓!!」

 英士とルンバの呼び掛けにも体が言うことを聞かず、とても立てる状態じゃない。

「おいおい、これってマジでヤバイんじゃねえのか?」

「そんなの当たり前ウパ、マジでヤバイんだウパよ!!」

 ズシーンズシーン!! と重たい足音を響かせオコルゾウは楓の元へとゆっくりと近づいていく。

「させっかよー!!」

 既に装備されていたミサイルを一発放ちオコルゾウの気をこっちに引かせようとする。だが、ミサイルが命中してもこちらをチラリと振り向くだけで、そのまま気を失いかけている楓の元へと接近していく。

 振り向いた時のオコルゾウの目は「止められるものなら今すぐにでも止めてみろ」と挑発しているように見えた。

「あ、ああ、ああああ……」

 上手く言葉が出てこなかった。今すぐ側にある命が自分の目の前で奪われようとしている。

 色々と攻撃を試みたが、全くの無意味だった。

「何か、何かないウパか、楓を救える手段はもう無いウパか!?」

 英士は口を閉ざす。それはもう楓を救える手段が無いからという理由ではない。手段は残っている。だが、それを家族以外の前で披露することに対しためらいを感じているのだ。披露してしまえば馬鹿げているけど温かい平和な日常が崩れてしまう可能性がある。

「はあ、はあ……」

 過去に味わった冷たい視線と心無い言葉が脳裏に蘇り、胸を締め付ける。

「はあはあ、はあ、はあ……」

 閉じ込めていた嫌な記憶が呼吸を荒くする。その間にもオコルゾウは楓の元へと距離を詰めていく。

「楓もお前もしっかりするウパ!!」

 ルンバの怒鳴り声で英士は正気を取り戻す。

 気づけばオコルゾウはもう楓のすぐ目の前に立っていた。

 一瞬、オコルゾウがニヤリとした表情を浮かべたように見えた。それから、

「グゥルウォオオ——————ン!!!!!!」

 一度大きく吠え、長い鼻をムチのように何度も何度も楓に打ちつける。簡単には止めを刺さず、今までやられた分を返すべくゆっくりたっぷりと料理をしたいようだ。

「ぐるごほばほごばっ!!!!!?」

 失いかけていた楓の意識が痛覚によって強制的に戻される。だが全身に釘を打ち込まれたような痛みが体を支配し、関節一つ動かすことすらできない。

 そんな状態の楓をオコルゾウは鼻で体を巻き付け、ゆっくりと持ち上げる。ピクピクとしている彼女をじっくりと観察してから頭上へと放り投げ、足をバネにして跳び上がり頭突き攻撃で床へと叩き落とした。

「うぐごはっ!!!!!?」

 今度は口から内蔵が吐き出されるほどの痛みが楓を襲う。ここで意識がダウンしてくれればこれ以上の痛みを感じる必要も無かっただ、逆に意識がはっきりとしてしまった。

 その後、何度も何度も鼻のムチ攻撃を喰らわされた楓。彼女の苦痛の叫びが嫌でも英士の耳に入ってくる。今すぐにでも自分の力を使えさえすれば、楓を苦しみから救い出せるかもしれない。しかし過去に味わったトラウマが英士の心にブレーキを掛ける。

「……すよ」

「ッ!?」

 あれほどのダメージを負い、目も当てられないくらいに全身をボロボロにされて尚、楓は立ち上がる。

「私なら大丈夫ですよ、黒鉄君」

 まだ楓の目は死んでいない。むしろ更に闘志が湧いた輝きを放っている。

 そんな楓の存在が目障りに感じたオコルゾウは、止めを刺すべく体内に埋め込まれた原子炉で炎を生成し始める。

「このオコルゾウは必ず私が倒す!!」

 楓のその姿に心を打たれた英士は、今まで心にブレーキを掛けていたかせをやけくそな気持ちでぶち壊した。

「えーい、もうどーにでもなりやがれ!!」

 ボードを蹴って飛び降り、ちょうど盾となる形で楓の前に着地した。

「く、黒鉄君、どうして!?」

 その直後、オコルゾウが勢い良く熱線を放った。一瞬にして炎は大蛇が獲物を口にするように英士と楓が立っている場所を吞み込んだ。

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