2章2
黒鉄英士は混乱していた。
『システム起動、変身対象者を美汝楓と確認。付近の端末に強制アクセス開始……アクセス完了。変身シークエンスオールグリーン!』
英士は意味が解からなかった。
「変身!!」
そして、英士は目を疑った。
「闇を包み込む優しき光。美少女戦士プリティーフォーチュン、フォーチュンフレア☆」
ピンクを基調としたドレス、ミニスカートの下に膝小僧まで丈があるスパッツ。日曜朝に放映している子供向け番組に出てくる魔法少女や美少女戦士みたいなものだった。更に、楓の背後で星の煌めきやハートマークが飛び交うマッピング映像が流れていた。恐らくは変身シーンを再現しているのだろう。
楓の変身した姿が英士の視界に入った瞬間、ザワザワッ! と得体の知れない何かが全身を走り鳥肌が立ち変な汗が流れ始めた。
「……恥ずかしくないの?」
この一言が楓の心にグサッ!! と突き刺さる。
「そ、そこは触れないのが暗黙の了解というものでしょ。私だって結構恥ずかしいんですから!!」
一応羞恥の心があるのは自覚している楓。だがそんな羞恥など抱いていたら到底美少女戦士なんて勤めてはいられない。とうの昔に羞恥は捨てたはずだったが、英士の放った言葉の矢が再びその感情が蘇ってしまった。
「それにしても……」
最初は清純なるお嬢様だと思っていたらまさかの厨二病レイヤー、だがよくよく楓の姿を見てみると透き通った白い肌がバトルドレスになってより露出している。英士が知っている限りでは、アニメの魔法少女や美少女戦士のコスチュームは全体的に露出度が高めだ。そんな二次元のキャラ達が三次元に降臨したとなると、脳細胞がピンク色な思春期男子にとってはたまらない存在だろう。
「エロ可愛い」
という感想を述べる者も必然的にいるだろう。
「や、やらしい目で見ないで下さい!! もうお願いですからこのコスチュームについて何も触れないで!!」
楓の言う通りに触れないことにして、
「ってか、堂々と人前で変身して良いの? おまけにここ、監視カメラの視界範囲にガッチリ入ってるよ」
ユビキタス社会が確立された現在、変身ヒーローがいたとしても正体がすぐバレてしまう。特にこのフェザーシティでは街や施設などに目に見えないサイズのナノデバイスが無数に漂っている。そのおかげで公共の場でも瞬時にホロモニターが開き、何かを検索したりできるのだが。つまり、街中に監視の目が行き届いていると言っても過言ではないのだ。
「それなら大丈夫です。この変身アプリを起動した瞬間、アプリが周囲の端末や監視システムにハッキングを掛けてくれるんです。今頃はダミー映像が監視モニターに流れていることでしょう。あ、それから、私のこの姿を写真に撮ってSNSにアップしようとしても無駄ですよ。黒鉄君の端末にも当然ハッキングが掛かっていて使える通信アプリが制限されてますから」
「……完全に違法ツールじゃん!」
それから二人は数分間あーだこーだと言い争った。
英士と楓が言い合いになっている間、キウムは自分が空気扱いになっていることに不服を抱きワナワナと体を震わせ冷静さを失いかけていた。そんな時、ハッと電球マークが頭に浮かぶ。
(確か……黒いスーツの二人組に渡されたメタルプレートがあったはずじゃわい。これならきっと……)
ゴソゴソとポッケを漁ってメタルプレートを取り出す。
その間も英士と楓の二人は「青少年健全育成法に引っ掛かるんじゃ?」と再び衣装について触れ、「これは無形文化遺産並のフォーマルな衣装なんです!!」とまるで裸が描かれた絵画をアートとして見る人とイヤらしい目でしか見れない人の対決みたいに言い争っていた。
「イヒャヒャヒャヒャー! お前達見るがよい、これでワシを空気扱いになんてしてられんぞぉおおお——————!!!!!!」
言い争っていた二人がキウムの声につられて見てみると、印籠を見せつけて跪かせる時代劇のようにメタルプレートを掲げていた。
「そ、そのプレートは……!!」
「何だ? 自作の俳句でも自慢したくなったのか」
注意深く見るとプレートに何やら虹色に輝く回路が刻み込まれている。
「聞いて驚け見て驚けぇ-、これぞ我が組織『ファントム』の主力戦闘員じゃ。出でよ、オコルゾウォオ——————!!!!!!」
ピカーン! とプレートがいきなり光り出す。するとプレートから青色の数字や記号が無数に出現し、それらが一カ所に集結していく。
「これってマトリックス……。ってことは、何かをオブジェクト化してんのか!?」
マトリックスが段々と形を構成していき質量を得る。そして再び眩い光りを放った。
「オコルゾウォオオオ————————!!!!!!」
光が止み、視界に入ってきたのは体調三メートルはある牙の生えたゾウだった。