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第六話「魔法列島」


 冷静に考えればあんなものただ痛いだけなのに、どうしてそのときの私はどこか嬉しそうだったのか、今はもうわからなくなってしまった。いやもう今後一切理解はしなくていいかもしれない。変態の知り合いは変態であるが、私は普通でありたい。いや魔法使える時点であんまり普通じゃないけれど。

「あら今日も良い天気」

 窓から見える空は晴天そのもの。雲がひとつも見当たらない。晴れやかで輝かしい青。私軽く引きこもりでお外あんまりでないから関係ないけれど。

「さてはてさて、この子が起きる前にベッドから抜け出さないと」

 隣で寝ている我が親友、みゃーこちゃんを起こさないようにそーっとゆっくりじんわり動く。やばいこの体勢私が襲ってるみたいじゃない。昨日こういう体勢で下はあったが、上になったのは初めてである。こんな経験親友でしたくなかったわ。

「そーっと、そっとそっと。よし、完璧」

 どうにかみゃーこちゃんを起こさないように抜け出せた。嫌な汗が出てしまったぜ。

 それから音を立てずに部屋を出ると、洗面所で諸々済ませてリビングへと向かう。どうやらまだ誰も起きていないらしい。あっいやお父さんが起きてた。新聞をこれでもかと思うくらい思いっきり広げて見ている。その体勢で読むのって意外と疲れない? とりあえず挨拶しよう。

「おはようお父さん」

「…………」

「お父さん、おはよう」

「…………」

 父上殿、可愛い可愛い娘が挨拶をしているのだから反応してもいいと思うのだけれど。いや自分で可愛いって言っちゃう様な変な子だけれど、あなたの娘様ですよ? もう少し反応してくれないと私拗ねちゃう。でもまぁ、お父さんが無反応なのはいつものことだから今更なにも思わないけれど。

 私はお父さんが座るソファの端にちょこんと腰掛けると、テレビの電源をつける。この時間はニュースくらいしかやっていないが、いくらかこの気まずい雰囲気は和らぐだろう。

「……」

「……」

「…………」

「…………」

 なんだよこの地獄空間。まるで終わりきった夫婦の朝みたいじゃないか。何か話そうぜ、何か。昨日の夢の話でもいいし、アダルティな話題でもついていく自信ありますよ。私は夜激しいのです! とか聞いてないかそうか。いやしかしお腹すいた。お母さんまだ起きないのかな。

「仕方ない、自分で作るか」

 ないなら自分で作るしかない。私は短い間お世話になったソファから離れると、ダイニング奥にあるキッチンへと向かう。そこでふと思い、お父さんへ向き直る。一応聞いておかなければ。

「お父さんも何か食べる? まぁあんまり美味しくないと思うけど」

「…………」

 お父上よ、頷くだけでなく何か言ってほしかった。折角お話の機会を設けたというのに。私の気遣いが水の泡風呂。

「よし、今日はお父さんもいるし、特製バーニングライスファイターセットを作ろう!」

 名前だけではどんな料理かさっぱりわからないかもしれないが、安心してほしい、私も実は何言ってるかわかってない。さらに言えばほとんど勢いでしゃべりましたごめんなさい。

 まぁ困ったときは腸袋に肉突っ込んだあれやら鶏から生まれる楕円形の白いあれとかを焼いておけばいいさ。あとは丸まった緑のシャキシャキ野郎とか汁が目に染みるあいつやらをサラダボウル! にまとめてぽーいして、しょっぱい茶色のやつを沸騰したお水ちゃんに溶かし入れて、その中にゆらゆら優柔不断の増える例の海草と私の大好きな葱さん! を投入。最後にあったかふわふわ柔らかい炭水化物をお椀によそって出来上がりだぜ!

「お父さんできたよ。テーブルに置いとくからね」

「…………」

 随分ゆったりと動くと思ったら、お父さん新聞見ながら移動してるのね。危ないよもう、ちゃんと前見ないとお先真っ暗だぞ。とかほんとどうでもいいこと考える。

「それじゃ、いただきます」

「……いただきます」

 おっ、本日はじめて言葉を発しましたなお父さん。しかし悲しいかな、私に向けられた言葉ではない。お父さんってホントお母さん以外の人と話さないから、お仕事ちゃんとできてるか不安になります。

 それからは互いに無言で食事をお口に運んでは噛み砕いて胃に収める作業に没頭する。むしゃむしゃぱくぱくごっくんこ。がりがりごりごりごっくんこ。はぁ、今日も平和に朝が過ぎていきますのぉ。


「今日は学校行きますよほらさっさと制服に着替えて。あと五分で支度しないと私が脱がします」

「いやそれ私のセリフだし、みゃーこちゃんさっさと着替えないと遅刻する」

「私に命令しないで。お腹にブラインドタッチするわよ」

「ごめん、言ってる意味がわからない」

「あーちゃんあーちゃん、お姉ちゃんボンバーしてるよほら。整えて」

「いい歳して妹に髪の毛整えてもらおうとするんじゃありません。自分でやりなさい」

「えー、じゃあこのままでいいや」

「いっそ丸坊主にするかこの女郎」

 私は寝癖がひどいお姉ちゃんと寝起きが酷いみゃーこちゃんの相手をさせられてしまった。平和だった朝も、こうして見事に終りを迎え、混沌渦巻く修羅場と化す。

「お姉さま! 今日の私の下着は何色がいいと思いますか?」

「どうでもいい。いっそ穿かなくていいんじゃない」

「分かりました! 今日はもう何も穿きません!」

「いや穿きなさい。ほらこれ」

 これに加えて妹のお世話とか私めっちゃお仕事できる人みたい! と思いっきり妹の顔面にパンツ投げつける。ただの布だと思えないくらいのスピードで額にヒットした。よし! 今日は三十点か、中々だな。

「あらあら、お父さん、お弁当忘れてますよ?」

「ああ、済まない。ありがとう」

「残さず食べてくださいね。もし残すことがあれば、その時は命を洗い流してあげますから」

 笑顔でとんでもないこと言ってるねお母さん。なんだか相当病んでる人に見えてきた。

「よし! 準備できたから学校行こうみゃーこちゃん。お姉ちゃんも髪の毛梳き終わったから早く準備して行くんだよ」

「お姉さまお姉さま、私は?」

「知らんがな」

 私はみゃーこちゃんの分のカバンも持ちながら、玄関を勢いよく開ける。そういやお父さん音もなく出かけて行ったな。忍者かあの人は。私は忍者ではないので、普通に大声で声をかける。出掛けるときに声かけないとちょっと落ち着かないんだよね。

「いってきまーす!」

「はい、いってらっしゃーい」


 それはそれはどうしようもないくらいほどに回避できた出来事だったかもしれない。しかしそれは起きてしまい、私は今人生最大の危機を迎えているといっても過言ではない。

「さぁ見つけたわよ。私のロリ貧乳ちゃん!」

「お姉さま! 私をおいてかないでください!」

 前門の変態、後門も変態である。もしかしたら私の隣にいるみゃーこちゃんも変態かも知れない。そして私も変態の仲間入り。いやいや、考えただけで恐ろしいですわ。

「あれっ? これはこれは私の大親友のまきりんではないですか! おはようございます」

「うわ、何でリスティがここにいるのですか。今はあなたに構ってる暇はないんです」

「そう言わずに頭なでなでさせてよぉ。いつもみたいに私に揉み揉みさせてよぉ」

「やめてください! お姉さまの前でそんなことしたら変態だと思われてしまいます!」

 もう手遅れです。ていうかまだ変態だと思われてないと思ってたのか。頭お花畑というより向日葵とかが育ちすぎて目の前見えてないだろ。

「ん? その子まきりんのお姉ちゃんなの? どうりで可愛いと思ったわ! よし! お姉さんが今からみっちり揉みこんでおっきくしてあげるわ!」

「どこのことを言ったのかな? 回答によっては私はあなたを殴り飛ばさないといけないのだけれど」

「ふふっ、もちろん潜在的に宿ってるその魔力のことよ」

 これははめられたぜ! てっきり胸部装甲のこと言ってるのかと早とちりしちまった。いかんいかん、人を疑ってかかるのは良くないよね!

「まぁ、そのぷっくりとしたお胸のことも言ってるのだけれどね」

「はは、だと思ったぜ変態バニー痴女め」

 前言全面撤回。変態はすべてを疑ってかからないと痛い目みるな。飼い猫に腕だけでなく頚動脈噛み千切られた気分。砂糖菓子のごとく甘ったるい考えは唐辛子に変更するべきだな。

「と、言うことで、香乃こうの宮古みやこ天分あまわけ亜莉栖ありす両名はたった今から新人研修に参加を強制します」

「うん?」

「へっ?」

 みゃーこちゃんどうしてという表情と声を出す中、私は久しぶりに自分のフルネームを呼ばれたなぁってどうでもいいことを考えてしまった。どっかメルヘンなお国へ迷い込みそうな名前だよね。まぁ実際変態の国には迷い込んでいる気がしないでもない。

「本年度の研修地は、なんと『ウィザードランド』です!」

「そこ普通に魔法列島って言って良くない?」

 と、冷静に突っ込めるくらいには、しっかり驚いてしまった。

 さてはて、これからどうなるやら。



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