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第五話「にゃんにゃん」



 みゃーこちゃんからの拷問が気持ちよくなった間違えた終わった頃、ちょうど姉たちと母が帰ってきた。どうやらそろそろ帰ろうとしていたみゃーこちゃんはこのまま夕飯を食べていくようである。私からしたらとっとと帰ってほしいのだけれど。

 私はいそいそと服装を正すとリビングへと向かう。その後をみゃーこちゃんがてくてくとついてくる。こういう風に何もしなければ普通に可愛いのに。まぁみゃーこちゃんはいつでも可愛いけどね!

 おかえり! と元気に勢いよくリビングへと入ると、そこにはなんだかお通夜でも行ってきたかのようなテンションがた落ちのお姉さま方がいた。

「ど、どうしたの?」

 こんなテンションのお姉ちゃんたち結構珍しい。本当にどうしたのだろう。それになんだかひとり足りないような……、主にうるさい妹的な何かが足りない。

「……今日ね、早速試験の採点をしていたの。そうしたらね……そうしたら……」

 姉がぽつぽつと話し出す。どうやら昨日の試験の採点をしてきたらしい。そしてこのテンション。まさか、まさかねぇ。…………いやホント嫌な予感。

「まさか落ちたの?」

 後ろからご褒美の一言じゃなくて今この空間で一番言っちゃいけない一言を言った奴がおりますよ。くそ、調教前だったら言い返しているのに!

「いや、ちがうわ……」

 姉の代わりに母がその続きを話してくれるらしい。母よ、私はあなたのその涙が演技か本気か分からない。そして落ちていないのであれば泣かないでおくれよ。紛らわしいから。

「……受かっていたのよ」

「ぅえ?」

 ちょっとちょっとそういう大事なことしゃべっちゃっていいの? 合格発表のときとかの感動がまるでなくなるのですが。なんだか自分が受かっているのを前提に出かける自信満々の受験生みたいになるじゃない。

「ならどうしてそんなに落ち込んでいるのです?」

 今度はまともな意見が飛んでくる。そうだよね、受かっていたならもっと喜んでくれてもいいと思うの。それともあれかな、そういうプレイなのかな? やだ意識したら興奮してきちゃった!

「いやね、受かったのはすごく嬉しいの。だから今日の夕飯は超豪華なんだけれど」

 そうね、そのぱんぱんに膨れた袋を何個も持っているというのはそういうことですよね。ちなみに落ちてても自棄食いということで豪華だったと思います。ということは落ちようが受かろうがあまり関係ない。

「新人研修の同伴者が、あのくそ変態女郎なのよ」

 母上よ、少しばかり口が悪いですわよ。私には絶対言われたくないと思うけれど。いやこの母がいたからこそ私が生まれたのだから言ってもいいのか?

「あー、私もあの人苦手だな。外見はあんなにも良いのに言動が変態だし」

 おっとぉ、その特徴に私ひとりだけ心当たりあるぞぉ? どうしてだろうか、思い出したら殴りたくなってきた。

「リスティル・ディティ・ユイリア。私が昔所属してた地区の部下でね、そのときからもう変態で変態で」

 横文字は合ってたのか、あの自己紹介。それ以外はまるっきり合ってないけれど。

「でもすごく優秀だから無下にすることもできないし、すごく厄介だったのを覚えてるわ。今日久々に会ったけれど、何も変わってなかったし」

 昔からなのかあの性格。もう生まれたときからあの性格なんじゃないかと疑うわ。

「私がはじめて所属した地区で地区長しててね、何でもそつなくこなすし、仕事の割り振りとか分け隔てなく部下に優しく、かつ機会も与えていたのは素晴らしいと言う他ないんだけれど、あの変態発言だけは慣れなかったわ」

 慣れなくて良かったですねお姉さま。それと何、あの変態に付きまとわれるのは代々受け継がれた呪いなのかしら。明日あたりお払い行こうかな。

「あ、あれか。『英国才女』って言われてる人か」

 ん? なんだか後ろからすごく似合わなそうな通り名が聞こえてきたような。英国はまだいい。その次の才女って誰のこと言ってるのかな? 痴女の間違いだろ。今すぐ訂正をお願いしたい気分。さらに言えば提訴も辞さない。

「……まぁいいわ。それよりも! 今日はぱーっとお祝いしましょうか!! あっ、宮古ちゃんも食べていくわよね?」

「はい、もちろん頂いてきます」

 迷いなく答えるあたりさすがみゃーこちゃんだわ。けれど何つまらないこと聞いてるの? みたいな態度はちょっといただけない。

「じゃあお母さんたち夕飯の支度するから、もう少し待っててね」

「はーい」

「それじゃ、あーちゃんの部屋で続きでもしよっか?」

「……」

 清々しいほどの下衆笑顔で言われたら断れないじゃないですか。本当にもうみゃーこちゃんったら私のとこ好きすぎでしょ。はっ! これが巷で話題の恋というものなの!?

「早くしなさいあーちゃん。時間がもったいないでしょ」

 はは、あれはただ単に調教楽しんでるだけだな。恋でも愛でもなくてペットと遊んでる感覚に近いかもしれない。私の心の奥底に眠る猫魂が反応しちゃう! とか無理矢理テンションあげないとやってられない状態。

「……もう、仕方ないなぁ」

 とか言いながら自分も意外と楽しんでいることに軽く絶望。



 私が文字通りにゃんにゃんしている間にできた夕飯はそれはそれは豪華なものだった。というかなに、外国のパーティでもこんなに豪華な食事とかないでしょと思うくらい品数が多い。しかし大半の料理名分からんし、なにあれ、肉のタワーみたいなのあるんだけど。どこの料理だよ。

「さてさて、料理が冷めないうちに食べちゃいましょうか」

 母上殿がそう言うと各自好きな席に座る。

「あれ? まだ真紀帰ってきてないの?」

 お姉ちゃんが手を使わずに料理をお皿に盛る。だから行儀悪いからやめなさいっての。お母さんも何膳もの箸を自在に操ってお皿に盛りだす。いやいやいや、箸使えば良いとかじゃないから。どうして良識派が私しかいないの。みゃーこちゃんに至ってはもう両手でチキン頬張ってるし、気にしてる私が馬鹿みたい。それはまだいい。誰か私の問いに答えておくれよ。無視とか一番傷つくんだからね!

「ねぇ、まだ真紀帰って――」

 私がもう一度言おうとしたその瞬間、後方からまばゆいばかりの光が放たれる。慣れって怖いね、いきなり近くで超高等魔法使用されても動じないとかホント怖い。

「お呼びですかお姉さま!!」

「呼んでねぇよ。貴様の名前なんて一度も呼んだことねぇよ」

「照れなくてもいいんですよお姉さま! 私のお姉さまセンサーは外れることがないんですから」

 だから最初から疑問符ついてなかったのか。相変わらずの変態ぶりである。と、ここで私はあることに気付く。真紀とみゃーこちゃんって仲悪くなかったっけ?

「で、どうしてお姉さまの隣にこいつが座ってるのですか? そこは私の特等席なんですけれど」

「あらごめんなさい、そうとは知らず座ってしまいました。でもペットの世話はご主人様たる私の役目ですから、常に近くがいいと思いまして」

「お、お姉さまが、ペット?」

 おおう、怖いぞ妹よ。そんなに怖い顔私般若くらいしか知らない。もうちょっと私に語彙力があれば妹のこの気味悪い表情を伝えられるのに!

「あらそうよ? 知らなかった? この子ね、私の可愛い可愛い飼い猫なの」

「可愛いには全面同意ですが、ペットに関しては反論させてもらいます! お姉さまはペットではなく、この世の全ての可愛いを詰めたお人形さんなのです!!」

「んなわけねぇだろ。私は動く着せ替え人形じゃねぇんだぞ」

 どこぞのなにちゃん人形だよそれ。私あんなに目くりくりじゃないし、髪も薄くない。それともあれか、暗に薄毛を指摘されてるのかな。

「それより、あなたもさっさと座って食べたらどう? この調子だとすぐになくなってしまうわよ」

「おいあんたら食いすぎだ! 少しはこっちの分を残しといてよ!」

 気付いたときには既にテーブル上にはほとんど料理がなくなっていた。本当に驚異的なスピードで食べるなこの人たち。まぁそれくらい今日は体力を消耗したんだろう。魔法使用には結構な体力を消耗するし、それに関しては私も承知しているが、いやはや、今日はどんな魔法使ったのだろう。こんなに食事が進むほど多くの魔法を使ったのだろうか。それとも単にお腹すいてたのだろうか。どっちにしろ残しとけよ。

「夕飯はもう食べてきたの。だからいらない。だから今日はお姉さまがお肉をいやらしく頬張るところを眺めて楽しむことにするわ」

「いやらしく食事する人を私は見たことがない」

 正確には何度かあるが、あれは棒状のものを食べているとき限定だ。今この場に棒状の食べ物は存在していない。ゆえに私がいやらしく食事するシーンは見せることができないのだ!

「はいこれ」

「早速フラグを回収してしまった私ってすごくないですか。すごくないですかそうですか」

 お姉ちゃんがそっと目の前に出してくれた棒状の何か(フランクフルト的なもの)を食べないと先へは進めないということか。まったく、いやな試練だぜ!(こういうノリには乗りますはい)

「はい、あーんして」

 みゃーこちゃん完全に楽しんでらっしゃる。すっごい楽しそう。向こうとしては餌付けしてる気分なんだろう。やだ家族の前でプレイとか興奮しねぇよ、ちょっと油断するとすぐ気持ちよくなりそうだからみゃーこちゃんの調教って恐ろしいわ。

「それは私の役目です! さぁその肉の棒を渡しなさい!」

 おいその呼び方やめろ卑猥だ。

「嫌です」

 そう言ってみゃーこちゃんは棒状の何かをぺろぺろ舐めだす。汚いからやめなさい。

「ほら、私の唾液がたっぷり付いたこれ、舐めなさい」

 仕方ない! こんなにお願いされちゃあやらないわけにはいかないね!(意外とこういうのは嫌いではありませんはい)

「だめ! 私の棒を舐めてください!」

 この二つの棒に迫られる経験って、どれだけの人があるのだろう。今日は貴重な体験がたくさんできて、私すごく嬉しいな!(既に思考回路がエンスト状態)

「そ、それじゃ、ふたつともいっぺんに……」

 私がその大きな棒を二つ、小さなお口に咥えようとするが、何か別のものを突っ込まれてしまった。よく見ると前に座る母殿がこちらに手を伸ばしていて、手にはきりたんぽを持っていた。何故きりたんぽ。そこはフランクフルト的肉の棒で統一しましょうぜ。

「ふふふ、はじめては、お母さんって決まってるのよ、二人とも」

 そうなんですか、私は初耳ですが。

「そうだね、突っ込まれたのはお母さんがはじめてかな」

 そうなのですかお姉さま。まぁお姉ちゃんが言うのならそうなのだろう。やはりこの世の心理は全て母の愛というわけということですかな。何言ってるのでしょうかね私。

「はい、おふざけはここまでにして、早く残り食べちゃってね。ちゃっちゃとテーブル片付けたいの」

「はいごめんなさい」

 素直に謝ると、私は残されたフランクフルト(なんかべとべとする)を食べる。

 ああ、今日はなんだか色々あったなぁ。すごく幸せな一日を過ごした気分。まぁ気分なだけで、実際半日近くはみゃーこちゃんの即奴隷ゲット! 実践的調教講座! だったけれど。

「そうだ宮古ちゃん。今日泊まっていくわよね?」

「はいもちろん。朝まであーちゃんとお話したいです」

 母上よ。どうして娘を死地へと送るのだろう。みゃーこちゃんが泊まればきっと朝方まで物理的なお話が行われる。そこに妹も参戦してそれはそれは酒池肉林と化し、混沌を極めるはず。そしてラスボスことお姉さま登場! キャットファイトが各地で勃発! ご近所迷惑になってお母さんに怒られるまで想像できた。

 まぁ、楽しければどうでもいっか。

「ねぇ、見ました? 私の棒から先に食べましたよ」

「いやいやいや、私の肉の棒から食べましたし! 何言ってるんですか宮古さんは」

「目が悪いんですねあなた。明らかに私の唾液まみれから食べました」

「絶対私のべとべとお肉から食べましたよ!」

 延々と続く言い争いをよそに片づけを始めるお母さんとお姉ちゃんは、さすがに順応早すぎだと思うの。

 それにしても、フランクフルトまずかったなぁ。



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