第二話「魔法少女認定試験・中編」
久しぶりの更新!
この手の小説書いてると本当にわくわくしますね!
会場内は駆け込みで来た子も多く、受付の前はかなり混雑していた。いらいらして背中から火が出てたり闇のオーラ纏ってる子とかいるし、こういう風景を見て驚かないくらいには、私も魔法少女やってるんだなって思う。正確にはまだ魔法少女じゃないけれど。
「あらあら、随分とまぁ遅い登場じゃない。無魔法少女」
「……えっと、誰でしたっけ、あなた」
なんだか見覚えの全くない少女に話しかけられた私は、すっごいジト目で相手を見る。
「お、覚えてないの!? あんな衝撃的な出会いをしたと言うのに!?」
いやほんと誰? 私の知り合いにこんな情熱的な赤の似合う炎系魔法少女いないけれど。ホント、ダレダロウネ。
「あっ! その目本当は私のこと覚えてるんでしょ! 人をからかうのもいい加減にしなさいよね!」
「はいはい。それで、いきなり絡んできてなんの用? 銅名さん」
「この銅名家の一人娘が直々に話しに来てあげているのになんですかその態度! いい加減にしないと燃やしますよ!」
銅名家ねぇ。確かに歴代多くの魔法少女を輩出している家系の一つだけれど、どうしてもこのチンチクリンがそんな名門のお嬢さんに見えないのよねぇ。……あとあの縦ロール、意外と似合っててむかつく。引っ張ってみょんみょんして遊びたいわぁ。
「まぁ冷静でいられるのも今のうちです。今年の試験は得点が張り出され、順位がつけられるのですから! その時にあなたの屈辱でぐずぐずになった顔を拝めますわ! うふふふふふ」
不気味すぎる笑い声を残して銅名さんは去って行った。縦ロールみょんみょんしとけば良かった。まぁまた数時間後に会えるらしいからその時でいっか。
私は自分の髪をみょんみょん(練習しとかないとね!)させて遊びながら受付で案内された部屋に入ると、そこには数名の少女が既にいた。そっか、この子達が私と同じグループかぁ。みんなちょう暗いな!
扉近くの椅子が余っていたので、遠慮なく座らせてもらう。すると目の前にはなんだか見たような衣装を着た少女がこちらを見ていた。
「あなた、まさか無魔法少女?」
石のような無表情で話しかけてきたその少女の瞳だけやけに輝いているのが分かった。なに、私別にそういう気ないんですけど。止めてくれます私で妄想するの。ほんと迷惑。
「魔法使えないって本当?」
「いやいや、魔法使えなかったらここにいないから。私そんな恥辱で快感得るような変態じゃないから」
魔法使えないのに魔法少女試験受けるとか頭沸いてるとしか思えない。まぁでもほとんど魔法使えなかったりする子とか、覚えたての付け焼刃な魔法で挑む子とか、昨日みっちり練習してそれっぽい派手な魔法が使えたりする子とかいるだろうし。魔法使えないのに来ちゃった子とかいるんだと思う。ははっ、ブーメランちょう痛い!
「そう……でも特徴はすごい似てるんだけどなぁ。推定身長149センチ、小学生でも通用しそうな童顔に藍色の髪、つるつるぺったんですっとんとん」
「最後ただの悪口だよね? そうだよね?」
ふざけんな誰がつるつるぺったんすっとんとんだ。ちゃんとよく見れば微かな膨らみが二つあるわ。
「それって、誰が言ってるの?」
「えっ? 編咲さんとか、銅名さんとかそのあたりだったと思うよ」
あいつらだって対して変わらん胸のくせに。私知ってるんだから、あいつらの乳は偽物だって。
そんなことはさておき。
私がほとんど魔法を使えないのは事実。そしてそれは今年の魔法少女認定試験を無事合格できたとしても変わらない真実なのだ。今後それで私が直接困ることは少ないが、私が魔法を使えないことで間接的に困る人が出てくる。
「でもでも、本当に魔法が使えない人が合格したら、新人研修は一緒になりたくないですよねぇ」
「……」
そう。この試験に合格してもそれは書類審査が通ったようなもので、その後に行われる新人研修という名の振るいにかけられ、ランクを付けられる。新人研修で与えられる最高ランクは準三級。そこから四級、五級、六級、七級と分けられるが、しかしどんなに才能のない者でも七級が与えられるわけではない。ここで「なんでこいつ認定試験合格したの?」と疑われるレベルで魔法が使えない子は、無魔法少女という名誉ある(皮肉)称号を与えられ、二度と認定試験を受けられなくなるのだ。これは魔法少女の家系に生まれた人間にとって最大の屈辱であり、汚名なのだ。
私が銅名さんに無魔法少女と呼ばれるのは、昔銅名さんのお家に遊びに行ったときに「私まだ魔法使えないんだ」と口を滑らせてしまったことが原因だ。それ以来銅名さんは私を無魔法少女、ノーマジックガールと呼んでいる。
まぁ私はどう呼ばれようが別に気にしていないけれど。
「それでは第23組17名、試験の準備が出来ましたので移動します。試験番号順に並び、一列で付いてきてください」
部屋に入ってきた中年男性に言われ私達(相変わらず暗いなぁみんな)は探り探り列を作ると、のろのろと後についていった。
「第23組の皆様には筆記試験からとさせていただきます。回答が終わった人から魔動力および魔法力試験に移り、最後に実技能力試験となります。試験は約三時間程度で終わります。その間トイレもおしっこも行けないので、行きたい人は今のうちに行って下さいね」
トイレとおしっこは別物だろうか。いや同じだよね。言葉としては違うけれど意味自体はほとんど同じだよね。それともあれかな、大きい方と小さい方を分けて言ったのかな。まぁそうだよねおしっこはなんだか言いやすいけれどあっちはなんだかちょっと言いにくいよね。女の子だと特に。よし、そうだと思っておこう。あれ? でも言ってるの中年の男の人なんだけどなぁ。あっ、私達に配慮してくれたのか! なんだぁこの人すごく気を使える人なんだぁ! だったらトイレとおしっこは分けて言わないでほしかったなぁ! これで私が「すいませんトイレ行っていいですか?」なんて言ったらそう解釈されちゃうじゃないですかぁ!
とまぁ、すごくどうでもいいことをテンション高めで考えてないと周りのマイナスイオン(ポジティブ思考)に当てられてまともに試験を受けられそうにない。……なんでこんなにみんな暗いの?
「……あの、私おしっこ行きたいです」
手を上げたのはさっき私と話していた子だった。しかもちらちらと私を見ながら。なんだよ一緒に来てほしいのかよ嫌だよ私そういうの苦手だもん一緒に行っても個室だし意味無いでしょ。
「はいどうぞ。他に行きたい人はいませんか?」
「この子も行きたいそうなので一緒に行ってきます」
「では二人の試験は十分後とします。他の人はこのまま試験開始としますので、自分の試験番号と同じ番号が書いてある席に座ってください」
「さ、ほら早く行くよ」
「……」
私は手を引かれ試験会場を後にする。仕方ないなぁほんと。でも別にそこまで嫌がることはないかなぁとか思ってたり思ってなかったり。一緒に行く意味は分からないけれど行くこと自体は否定しないって言うか、一緒の場所に行くなら一緒に行こうって思うのは当然だし! 別に私が行きたかったけれど言い出せなかったわけじゃないから! ほんとたまたま今行きたくなっただけだから! ほんとにほんと! だめだごめん我慢できないもう漏れる! 早く行こう!
「ごめんね無理矢理連れ出しちゃって。でもこうしないと二人きりで話せないと思って」
「その話トイレの後じゃだめ? もう我慢できないんだけど」
何やら神妙な表情で話す彼女は今どうでもいい。それより早くトイレトイレ! おしっこが漏れてしまう!
「……本当に行きたかったんだ。まぁトイレの後でもいいよ」
「よしなら早く行こう! で、トイレどっち?」
「こっち」
私は彼女が指差す方向へゆっくりと刺激を与えず、かつ迅速に移動する。その後を彼女は優雅な足取りでついてくる。
静かな会場の廊下には、私の慌てる足音と気持ち悪い息遣いだけが響いていた。
「それで、お話って何かな?」
トイレですっきりした私は大人の女性のような余裕を見せながら話を促す。決してさっきの慌てふためき余裕の欠片もない態度が本来の私ではないと思わせたいわけではない。いや本当に。
「私ね、この試験の数日前ある事を耳にしたの」
再び神妙な表情になる彼女は腕を組み便器に座りながら話しはじめた。……話すだけなら個室の外でよくない?
「”次の魔法少女認定試験には、特殊試験を設ける”」
トイレの個室で話すような軽い内容ではないことは理解できた。だから外で話そう。私が個室の鍵を開けようとすると彼女は私の腰を掴み、自分のひざに座らせた。なにこの状況、どっからどう見ても真剣な話をしてる体勢じゃないし、はぁはぁ言ってるし怖い。いろんな意味で襲われそう。
「特殊試験って言うのがどんな内容なのかは分からなかったけれど、一つだけ分かっていることがあるの」
「この話、このまま続けるの?」
「ランダムで選ばれた数組に、最大三名の”魔法少女候補”を入れてその試験は実施されるらしい」
どうやら私の意見は却下されたらしい。……ん? 魔法少女候補?
「でもこの試験受けてるのって魔法少女候補だけだよね? なに? 一般人が混じってるってこと?」
「そうじゃない。候補ではなく魔法少女が試験に混じり、魔法少女候補に対して何かを仕掛けるのだと推測します。実際私達の組には数年前試験を合格した人が何人か紛れ込んでいました。すんすん」
「ちょっと待って。それじゃ私達の組がその特殊試験の実施枠ってこと?」
「そう。だから普通に試験を受けるのではなく何か特別な試験を受ける可能性があるということを言いたかったのです。いい匂い」
「そっか。それじゃ何かあっても慌てず迅速に対応すればいいってことね! あとちょくちょく髪の匂い嗅ぐな気持ち悪い」
私は何とか彼女のアームロックから逃れると、個室の扉を開ける。今度は彼女も邪魔はしなかった。話はこれで終りということだろう。
「何か変わったことがあるまで普通に試験を受けて、緊急事態が起こったときはあなたと協力して解決するってことでいいのよね?」
「はい。私は五感性能鋭角化の魔法を自分にかけて辺り一辺を警戒しますので、あなたもせめて自分の周りは注意して見ていてくださいね」
顔を上気させながら言わないでほしい。誰かが見てたらなにかあったと思われるじゃない。まぁなにもなかったと言えば嘘になるが。
「それとさ、名前教えてよ。もしもの時にねぇとかちょっととか言っても反応遅れるだろうし」
「そういえば名乗るのを忘れていましたね。私の名前は言塚琴葉です。気軽にことちゃんって呼んでくれないと反応しません」
「ことちゃん呼びは固定なのか、いいけどさ」
反応しないって言われたらそう呼ぶしかないだろう。というか自分で愛称呼び推奨する人はじめて見た。
「そうそう、私の名前は」
「知ってるので大丈夫です。あーちゃん」
「おいおい。いきなり愛称で呼ぶなよ友達だと思うだろ」
「えっ、私達もう親友じゃないの?」
「会って間もない子を親友だと言えることちゃんはちょっとおかしい子だね」
会話だけ聞いてると親友っぽいが、こんな子と親友になりたくない。身の危険を感じる。色んな意味で。
「じゃ、私先戻るね」
「はい、あーちゃん」
だからその顔やめろほんと。




