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プロローグ3



「さて、我が妹よ。早速魔法の練習をしましょう」

 私とお姉ちゃんは運動着に着替えて、家の裏にあるお庭に出ていた。

「でも転移魔法なんて本当に簡単に出来るの?」

 私はまだ疑っていた。

 それはお姉ちゃんや智菜は簡単に出来ると思うけれど、魔法が使えるようになってから大分経つのに、未だ浮遊魔法しか使えないような駄目駄目魔法少女の私には、到底扱えるような魔法ではない気がする。

「さっきから言ってるでしょ。出来るって。少しはお姉ちゃんを信用して欲しいものね」

 腕を組んで、侵害です。という態度を取るお姉ちゃん。

「だって、転移魔法は三級の魔法でしょ。六級の浮遊魔法しか使えない私が、いきなり使えるなんて思えないよ」

「七級から二級までの等級なんて、ほとんど差異はないんだよ。最も重要なのは心さ」

「こころ?」

「そう、心だ。魔法はそれを扱う人間の心に大きく左右される。不安や戸惑いなどの負の感情が大きいときは魔法が上手く出なかったり、中途半端な魔法が発動したりする。逆に喜びや自信なんかの正の感情が大きいと魔法が素早く発動できたり、通常よりも精度や性能がいい魔法が発動する」

 お姉ちゃんはそう言うと、自分の手の平に空気中の水分を集める。やがてそれは野球ボールほどの大きさになって、そのまま凍結する。

「魔法っていうのは、心持ち次第でいくらでもなんとかなるのさ。確かに才能なんかも大きく関わってくると思うけど、基本的に才能がないから出来ない魔法なんてないんだよ。どの魔法もちゃんと練習すれば使えるようになる」

 お姉ちゃんは氷の玉を私の手に乗せる。すると氷の玉は一瞬で水になって空気に返って行く。私は維持魔法が使えないから、氷の玉を維持することが出来ない。

「だから、才能がないからとか、向いてないとか、とりあえず忘れてさ、とにかく出来るって思っておけばいいってこと」

 笑顔で、疑いもなくそう言うお姉ちゃん。

 私が私を信じてないのに、それでもお姉ちゃんは私を信じてる。やっぱりすごいな、お姉ちゃんは。

「……分かった。頑張ってみるよ。私。それで駄目だったとしても、後悔はしない」

 私はお姉ちゃんに笑顔を返す。

 なんだか、今ならどんな魔法も使えそうな気がする。






「……私って、やっぱり、才能、ない」

 私は体育座りでいじけながら言い放つ。

 一時間前まではどんな魔法もぱっと発動できる! なんて根拠のない自信がみなぎっていたのに、時間が経過するとともにそんな自信はなくなっていった。

 ああ、私はやっぱり駄目な魔法少女です。

 いや、ろくに魔法も使えないんじゃ、ただの女の子か。

「あんたは難しく考えすぎなんだと思うよ。原理を理解して、魔法が発動するイメージを自分の中ではっきり持っておくことが重要なんだ。あんたはそれ以外により綺麗にとか、より早くとか、より正確にとか考えてるから魔法公式が重くなっちゃって、結局オーバーヒートして発動しなくなるんだよ」

「そんなこと言われても……」

「最初は簡潔に適当にでいいの。それ以外は出来るようになってから考えなさい」

「……うん」

 私は立ち上がり、何度目か分からない魔法発動の言葉を呟く。


「Invocation・Magic・Transfer」


 初めて使う魔法は発動公式を言わないといけないのって、どうにかならないかな。これって、結構恥ずかしいんだよね。

 いけないいけない。集中しなきゃ。

 意識を手に集中させ、お姉ちゃんが持っている私の今日の朝ごはん(なんで朝ごはん?)を自分の手に転移させる。

 とにかく今は転移させるだけ。形とかどうでもいい。とりあえず転移させる。

 手の平が次第に暖かくなってきて、私を中心に風が起こる。

「よしよし。いい感じだよ」

 お姉ちゃんの声が遠くに聞こえる。

 手の平には少しずつ何かが集まる感覚がある。私は意識を一層集中させる。

 大丈夫、私は、出来る。

 そして視界が一瞬光に包まれ、やがてその光は一点に集約する。

 しばらく沈黙の時間が続いたけれど、お姉ちゃんがその沈黙を破る。

「……えっと、うん。そうだね。せい、こう、だね」

 お姉ちゃんはなんだか歯切れの悪い言い方をする。なんだかこういうお姉ちゃんは珍しい。お姉ちゃんはいつでも自信に満ちていて、何をしてもかっこいいのに、今はなんだかそういう面影がない。

「まぁ、なんだ。これからもっと精度を上げればいいのさ。今は転移魔法が成功したことを喜ぼう」

 私はおそるおそる自分の手を見る。

「え……あ」

 私は言葉を失う。

 確かにお姉ちゃんの手の中にはおいしそうな朝ごはんがあったのに、今私の手の中にあるのは、青紫色の気味の悪いスライムだった。

 どろどろと、指のあいだから地面に落ちるそれは鳥肌ものの気持ち悪さだった。

「うわーー! なにこれなにこれ!! 私変化魔法なんて使ってないのに! なんでこんな風になるのさー!」

 私は飛び跳ねるようにして手に付いたスライムを払う。

「ごめんごめん。転移魔法の練習には、生物とか食べ物は避けるようにと言われてたっけ」

 本当に悪いと思ってるのか分からない言い方だった。

 私はお姉ちゃんを睨みつけながら言う。

「どういうことよお姉ちゃん! なんでただの転移魔法なのにこんなことになるのさ!」

「いや、さ。それがね。転移魔法の原理は遠くにある物質を原子単位に分解して任意の場所で再構築するというものなんだ。けれどその再構築の際に原型通りになるかは、発動させた人間の魔法精度で異なるんだ。つまりは、転移のみに意識を集中させると、今回のような事態が起こる可能性があるってこと」

「じゃあ、今のスライムは……」

「うん。朝ごはんが全て混ざってゲル状に進化してしまったのだろう」

「これって、成功したって、言っていいのかな?」

「いいんじゃない。転移魔法にしろ、変化魔法にしろ、魔法に違いはないし、発動させたことに変わりはないんだから」

 お姉ちゃんは軽く言い放って軽快に笑う。対する私は未だ自分が生成したスライムが指にねっとりと付いているのが耐えられなくて、しきりに腕をばたばたとさせる。

「さて、あとひとつ魔法を覚えなくちゃな」

 パンパンと手を叩きながら、お姉ちゃんはスライムになった私の朝ごはんを足元に集める。それは次第に元の姿を取り戻し、ついにはさっきまでお姉ちゃんが持っていたおいしそうな朝ごはんに戻る。

 元の姿に戻った朝ごはんを、お姉ちゃんは私に差し出して言う。

「続きは、ご飯食べてからにしよう」

 食欲は、全然わかなかった。






「じゃあ、もうひとつの魔法は、この私が教えてあげますよお姉様!」

 やっと起きてきた妹と一緒に朝ごはん(妹が食べてるのはさっき私がスライムにしたもの)を食べているときに朝の魔法練習の話をすると、妹は勢いよく立ち上がって手を上げて私の指導役に立候補する。お行儀悪い。

「別にいいけど、ちゃんと教えてあげるんだよ。二人きりになったからって、襲うなよ?」

「なんで私を見ながら言うのよ!」

「お姉様も、私のことそういう風に思ってくださっていたんですね」

 目を輝かせながらこちらを見る妹。

「だから、そんな風に見てないし思ってない!」

「まったく、お姉様は相変わらずツンデレですね」

「腕を絡ませるな! 暑いでしょ!」

 振りほどこうとするが、中々離れない。固定魔法でも使ってるんじゃないのか、これ。

「じゃあ、早くご飯食べていちゃいちゃしましょう、お姉様」

「ああもう、どうでもいいや」

 私は抵抗するのを、諦めた。

「私は、燐姉さんみたいに優しくないですからね。お姉様」



次回ついに魔法少女認定試験です。

ひとつは浮遊魔法、ふたつめは転移魔法、最後は一体どんな魔法になるのか。

楽しみですね。

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