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第二十二話「本当の世界」



 私死亡の可能性が濃厚になってきた昨今ですが、私は今日も絶好調で生きておりますのでご心配なく。

 とは言え、このままここにいれば死は免れないということで、どうしようかと考えながらユスリカちゃんと楽しくお茶を飲んでいたりするわけで。

 しかし、私に絶命宣言したユスリカちゃんは何かをしてくるわけでも無く、飲み物にも毒物は入っていないわけで、いまいち何をしたいのかが分かりづらい子です。

「……ねぇあーちゃん、もう一時間近くこうして向かい合ってお茶してるけれど、どういう感じ?」

「どういう感じも何も、別に命の危機が迫っているって感じもしないし、紅茶もケーキも美味しいし、不満は今のところないかな」

「……本当に楽天的な性格なんだね、あーちゃんって」

 本当に自分でもそう思います。ついさっき死の宣告を受けたのにも関わらず、その宣告をした相手と優雅にお茶をしているんだから、本当に楽天的と言わざるを得ない。

 というか、ただの馬鹿じゃない? 私。

「……まぁ、表ではあーちゃんのお仲間が必死になって戦ってるんだし、あーちゃんはそれが来るのを待っているだけでもいいんじゃない」

「そうなの? あっ、確かにさっき言ってたね」

 なんか私の知っている変態達が、私を取り戻しに来てるって。

「……ここで素直にあーちゃんを向こうに返してもいいけれど、私たち的にはもう少し見せておきたいものがあるから、もうちょっとだけ我慢してって感じ」

「私に見せたいものかぁ、ユスリカちゃん秘蔵のお宝写真とか?」

 それは見てみたいものです。特に尻尾の付け根とか。

「……気持ち悪い目で私を見ないで欲しいです」

 き、気持ち悪いとは……こうして面と向かって言われるのは初めだだが、ちょっと興奮しちゃうね!

「で、今は私に見せたい秘蔵写真を準備してるから、ここで待機ってわけね」

「……早くしてくれないかなぁ、二人とも」

 そんなに私と二人きりは嫌ですか? そうですか。




 そんなこんなで三十分後。

「…………やっとですか」

「ん? なにか言った? ユスリカちゃん」

 いきなり席から立ったユスリカちゃんに、私は言葉を投げかけるが、しかしユスリカちゃんは端末のようなものを操作しているようで、返事をしてくれない。

 二人きりの空間で無視をされるときついし空気がどんよりしちゃうので勘弁してくれませんかね。

「……準備が出来ましたよ、あーちゃん」

「準備? お宝写真の?」

「……それ以上その単語を言ったら口を縫い合わせますので」

 やめてよ! 想像しちゃったじゃない!

 まぁ、そういう事を言われたので、私は黙ってユスリカちゃんの後を付いて行くことにした。べ、別にユスリカちゃんが怖いわけじゃないし! ただここは空気を読んで黙ってるだけだし!

 ユスリカちゃんの後を付いて行くこと約五分。私はなんだかカッコいい指令室みたいな場所へと来ていた。気分は艦長である。

「ここに私に見せたいものがあるの?」

「……はい、これですよ」

 指令室みたいな場所のどでかい画面にそれは映し出された。

「…………これは?」

 さっきまでびっくりするほど緩かった私の気持ちが、一気に冷たくなっていくのを感じた。

「……これが、世界の現実ですよ、あーちゃん」

 そこに映っていたのは、燃え盛る大地に、枯れ果てた海。荒廃した街と、昼間なのに黒く染まった空。どれもこれもこの世とは思えないほどの、まさに地獄絵図だった。

「……うそだ」

 私の生きている世界はもっと綺麗で、私の暮らしていた世界はずっと澄んだ空をしていて、私の見てきた世界は希望が広がっていた。

 なのに……、なのに……。

 今私の目の前に広がる本当の世界は、現実は、非情なまでに残酷だった。

「……あなたたちは”候補”として”保護”され、”鳥かご”の中で一生を過ごす、言わば選民。そして私たちのように”鳥かご”に”保護”されずに、外の世界を放浪するしかない人間はこうした世界を生き延びるために助け合って、こうして身を寄せ合って街のようなものを各地に作り上げてきたのよ」

「じゃあ、あなたたちが私たちを敵対視するのって」

「……敵対視というよりも、”世界を取り戻す”ために、私たちは戦っているんですけれどね」

「世界を取り戻す?」

 誰に? 何のために?

「……そうです。”世界を、もう一度人の元へと取り戻す”ため。”再び、世界を神から人の手へと取り戻す”ために、私たちは戦っているのです」

 世界を、神から、人へと取り戻す。

 なんだか別次元の世界の話のように現実感がない。何もかもが一夜の夢のようで、ふわふわとした浮遊感に襲われている。

「いやいや分からん。世界を取り戻すって、どうしてそんな事をする必要があるの? 戦う理由が曖昧だよ」

「……戦う理由ですか。簡単ですよ。それは――」

 ユスリカちゃんが何かを言おうとしたその時、地震のように辺り一面が揺れ、私は転倒し後頭部を強く打ってしまった。

「……あらら、どうやらここがばれてしまったようですね」

「お迎えが来たって事!? やだ私変態の所には帰りたくない!!」

「……本当にあーちゃんはどちら側なんですかね」

 私は変態が少ない側に回りたいです。

 というか、後頭部打ってしまったからか、なんだか意識が薄れていく。

 次に目覚める時は、果たしてどこの変態の前なんでしょうか。



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