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第二十話「枕が変わると」



 事態が動き出したのは、私がユスリカちゃんのお部屋で呑気にティータイムと洒落込んでいた時のことだった。

 天井(におそらく付いていたのだろう)のスピーカーから警報が鳴り響き、私は一瞬何が起こったのか理解できずに固まってしまう。

 私と共に優雅に紅茶を飲んでいたユスリカは、その警報にぴくりと少しだけ反応を見せたが、しかしあまり気にすることなく目の前に置かれたケーキへと手を伸ばしていた。

 ほんのわずか、数秒鳴っただけの警報だったし、機械トラブルの類かなと思っていた私は、何気なくユスリカへと質問を投げかける。

「……何今の警報」

「……ただの侵入者。気にすることない」

「いや侵入者だったらもっと慌ててもいいと思うのは私だけ?」

「……いつものこと。日に二、三回はある」

 そんなに侵入されてるのね、ここ。

「で、その侵入者って、どこからの侵入者?」

「……さぁ。大体は向こう側の人たちだけれど、今日のは多分あなたのお友達じゃない?」

 お友達? 私にそんなのいたっけ? 友達じゃなくて変態の知り合いなら腐ってしまうほどいっぱいいるけれど。

「……考え方の違いって、埋められないのよね」

「いきなり何を言いだすのかと思えば、本当に意味が分からない発言だったのでホント何言ってるのって言っておきますね」

 私のキャラも迷走と固有振動でブレているけれど、この子もこの子でちょっと立ち位置っていうか、キャラが安定しないよね。いえーい、似た者同士だ! ということで尻尾をもふもふさせてもらいますね。あ、だめですかそうですか。

「……あなたもあなたで鈍感なのか、はたまた肝が据わっているのか分からないし」

「そうですね。私たまにずれているっていうか、むしろ世界が私と焦点合わせようとしてくれないっていうか」

「……はぁ。こんなのを奪い合っているっていうんだから、世の中何が起こるか分からない」

 私を奪い合う理由がそもそも私に開示されていないっていうのが問題だと思いますが。まぁ私ってほら、めっちゃ可愛いじゃない? それに将来も有望。なんなら私の可愛さで世界が戦争起こすレベル。ただ欠点を強いてあげるのであれば魔法適性が低くて胸が無いってところかな。誰がまな板だよ!!

 ふぅ、一人でボケて一人でツッコむという不毛地帯にも似たことをやらかしてしまったぜ。

「で、私のお友達が侵入って? どうしてそんなことするの?」

「………………」

 変態に追っかけられるほど恐ろしいものなんて、この世には存在していないのだよ。それに比べてここの暮らしは天国、楽園と言わざるを得ないくらい快適だ。確かにちょっとホームなシックになったときもあったけれど、やっぱり変態がいない暮らしってストレスフリーでいいと思うの。

 朝ベッドに侵入されない。朝から妹のパンツ選びをしないで済む。学校に行かなくていいし、知り合いの変態に調教されずに済む。一緒にトイレの個室に入られる心配もないし、お風呂もゆっくり入れる。私に対する馴れ馴れしさはここの人たちと変わらないけれど、それ以上に丁重に扱われている感じがする。なにこれマジで楽園じゃない?

「……あなた、それ本当に言っているの?」

「本音も本音。心の底から嘘偽りなく発言しましたが、なにか?」

「……あーちゃんって、本当におめでたい頭をしている」

 誕生日の日以外におめでたいとかって言われるの初めてだなぁ。ってそういう意味じゃないですよね。それくらい私知ってるんだから。

「いや、本当になんで私の友達、もとい変態の知り合いたちが、私のために侵入なんて……」

 ん? 状況的にはあってるのか? というか私ってなんでここに……。

「そうだ! 私連れ去られてここにいるんじゃん!!」

「…………あーちゃんがそこに至ることが出来て、私感激」

「そりゃめでたい脳みそとか言われるよね! 連れ去られた人間がそれをすっかり忘れて、私のために動いてくれている友達たちを異常扱いしたらね!! そりゃめでたい頭だわ!!」

 やばいよ、ここの暮らしが意外と快適過ぎて本当に忘れてたわ。っていうか一晩でこれだけ重要なことを忘れられる私って、真正のおバカさんなのかも。これはくるっくるみょんみょんもバカにできないな。

「……それで、あーちゃんはどうするの?」

「どうするのって言われてもね……というか、さっきから私のこと愛称で呼んでるけれど、それは私とお友達になりたいってことでいいの? 私とお友達になったら毎日七回は必ず尻尾をもふもふさせてもらうよ?」

「それは勘弁なので友達にはなりたくないです」

「そこだけ言葉の前に三点リーダーが付かないあたり、本当に嫌なんだね……」

 なんだよ、私がもふもふしている時はあんだけ恍惚とした表情を浮かべるくせに。あれか、最近流行りのツンデレか? 流行っているか知らないけれど。

「とりあえず、会いに来てくれたのなら、私もそれに応えないとね」

 私はそう言って席から立つと、同時にユスリカも席から立ちあがる。もちろん食べかけのケーキを持って。

「……そう言われて私たちが「はいそうですか。行ってらっしゃい」なんて言うと?」

「そこまでバカではない……と思いたい」

 もちろん、ユスリカ達が私を連れ去ったのには理由があるからだろうから、私が簡単にあちら側へと帰されるなんて思っていない。

 でも、それでも。

「それでも私は帰るよ」

 だって。

「私、枕が変わると熟睡できないんだもん!!」

「…………帰りたい理由が陳腐過ぎて私びっくり」

 これは人によっては死活問題だし! 陳腐じゃないし!!

「ということで、力づくでも帰らせてもらうよ! ユスリカちゃん!」

「……だから、帰さないって」

 こうして私ははじめてユスリカ達と本格的に対立したのだった。

 …………敵地のど真ん中でそんなことしたらあっという間に捕まっておしまいじゃない? ということにこの発言後に気付くあたり、私ってやばいくらい頭悪いかも。

 ほんと、どうしよう。



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