プロローグ2
目覚めは最悪だった。
魔法が使えること以外はいたって普通の女の子だと思っている私に対して、私の妹は何を求めているのか。まぁ、見れば分かるが。
「おーい、朝だよー。起きなさーい」
私はぐっすり眠っている妹を揺すって起こそうとする。けれど中々起きてくれない。
「ねーいい加減暑いから離れてよ」
「あと、あと五分だけ……」
「もう起きないと学校遅刻するよ」
「むにゃむにゃ、お姉様のおっぱい柔らかい」
「どこ触ってるのよ!!」
私はすかさず妹から離れる。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。
「あー、私のオアシスがー」
「うるさい! 胸ならお姉ちゃんの方が大きいでしょ! そっち行きなさいよ!」
「分かってないなーお姉様は。おっぱいは大きければ良いわけじゃないんですよ。形やサイズ、触ったときの感触、おっぱいを構成する要素全てが完璧ではないと、それはいいおっぱいとは言えないのですよ。燐姉のは確かに大きいけれど、何かが違うのです。それに比べてお姉様のは私のこの小さな手にぴったりフィットするのです!」
「どうでもいいわ!」
「それにほら、私巨乳より貧乳のほうが好きですし」
「本当にどうでもいいよ!」
「でも困ったことに私、最近おっぱいが成長してきているんですよね」
と言って自分の胸を触る妹。それは見ただけで私のより大きいことが分かった。
「どうせ私は小さいですよ!」
私は胸を隠すように腕を組むと、足早に部屋を出る。
「ああー、待ってお姉様ー」
まったく、朝から不愉快だ。
「で、妹よ。魔法試験で披露する魔法はもう決まってるのかい?」
お姉ちゃんは私より一足先に朝食を食べていた。寝癖ひどい。
「お姉ちゃん、そのまま出かけないでね。ちゃんと髪の毛整えてから行ってね」
「分かってるよ、いつものことさ」
お姉ちゃんは手で髪をとく仕草だけする。本当に分かってるのか怪しい。
お姉ちゃんの寝癖は一旦置いといて、今考えないといけない問題は、明日に迫った魔法少女認定試験で披露する魔法だ。
「……魔法、今日で二つも覚えなくちゃいけないの。どうすればいいと思う?」
お姉ちゃんは少しの間考えると、真面目な口調で語る。
「あんた今浮遊魔法しか使えないんだよね。だったら同じ系統をひたすら修行すればいいんでない」
私の家の系統は水の属性を持つ魔法を得意としているけれど、なぜか私が初めに覚えたのは浮遊魔法なので、私はお姉ちゃんの言う通り自分が覚えられるであろう浮遊魔法を片っ端から試していくつもりだった。
「私は自分を浮遊させることは出来るのに、物を浮遊させることが出来ないの。でも、浮遊の対象を自分から物に変えればいいだけだから、まずはその辺りから試していくつもり」
「それって同じ魔法だとカウントされるんじゃない?」
「……まぁ、見方によっては、そうだよね」
私は落胆する。
確かに対象を自分から物に変えているだけで、魔法自体は同じだとは思う。着眼点は良かったけれど、それを違う魔法かと問われれば、肯定は難しい。
「浮遊より、それに近い移動魔法か、それか転移魔法かな」
「転移魔法なんて、そんなの無理だよ」
私は魔法力の絶対量なら一級クラスだけど、魔動力は平均的。浮遊は魔法力があれば発動できるけれど、転移は魔動力に自信がないと扱えない魔法だ。
「大丈夫だよ。転移魔法なんて浮遊魔法に毛が生えたくらい単純な魔法なんだから」
「それはお姉ちゃんが尋常じゃない量の魔動力を保持してるから言えるんじゃない。私なんて魔動力二百ちょっとしかないんだよ。簡単に扱えるわけないじゃない」
「それは一キロ先の重機を一瞬で転移させるって言ったら難しいけど、そこからここまでの短い距離なら簡単だよ。それにいざとなったら魔動力は魔法力で補えるじゃない」
「そうだけど、でも……」
私が転移魔法を覚えるのに躊躇していると、お姉ちゃんは仕方ないとでも言うようにため息をついてから、笑顔で私を見やる。
「大丈夫。完璧に扱えるようになるまで、私がしっかり指導してあげるから」
私にとって、それは悪魔の笑みだった。
「さて、特訓するよ」
だいぶ遅れてしまって申し訳ないです。
まだあまり魔法は出てきていないですが、次回、次々回あたりは魔法少女認定試験もあって魔法盛りだくさんの予定です。