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第十六話「ロリコンのご趣味」



「さて、何から話せばいい?」

 何と言われても、なんの話ですか? と逆に質問したい気分だったが、質問に対して質問を返すと失礼かなと思い直し、ここは黙って相手の次の言葉を待つのが上策。

 が、私の目の前で優雅に食事をとるユニルお姉さまは言葉をつづけることなく、私の返事をひたすらに待っているようだった。

 トイレからリビングへと戻ると、そこには質素ながらも私のツボを的確にとらえたお料理の数々が並んでいた。なにこの人ほんとに私のこと狙ってたりするの? 大好きになったら責任とってよね!

 ということで食事中、突然そんなことを言われた私は困りながらも質問してみました。

「……とりあえず、ここ、どこ?」

 目下のところ一番の疑問はそれしかない。あとのことなんて勝手に妄想すればいいし。そういっちゃうとここのこともいくらでも妄想できるんだけどね。

 全面ガラス張りの外は、私がいつも見ていた街の景色とはずいぶんと違っていて、なんだか現実感が薄くて夢のようにふわふわした気分。

 私が住んでいる街のように規則的に並んだ建物やきれいな星空ではなく、雑然とした、それぞれが独立した生き物であるかのように呻き声をあげている街。

 こんな街、初めて見た。

「その質問は正直どこから話したらいいのかわからないですね」

 どこからって、そんなに長いの? 私自慢じゃないけど、長い話を聞くと睡魔が現れるから、最後まで聞く自信ないです。

「なら、質問変えます」

 ということで、長い長い昔話を語られる前に話題を変換。

「あなたたちは、誰なんです?」

 この街以上に疑問だったこと。触れたらきっと後戻りはできないであろうと思いながらも、それだけは妄想でも仮説でも飲み下せなかった疑問。

 だからこそ、訊いてみたかった。

「うーん、それもちょっと今の段階では何とも……」

 何から話せばいいとか言っておいて言えないこと多すぎませんかね。どうなんですかそこのところ。なんでも話すとは言ってないからって、このかわし方は卑怯だと思うの。

「簡単に言えば、あちらが正義、正道ならば、こちらは悪、邪道という感じですかね」

「包み隠さず悪というところはポイント高いですが……」

 それ言っていいことなの? 私の前でカミングアウトしていい事実なの?

「今のところはなので、どちらが正しいとは言えないんですけどね」

 とはいっても、今はこちらの分が悪いことは包み隠さないって感じか。

「けれど、今現在私たちには私たちが正しいと、正義であるという証がありますから、この戦いの終結も時間の問題です」

 へぇ、それならさっさとその戦いとやらを終わらせればいいんじゃないんですかね。それとも準備があるとか? そうだよね準備とかしておかないといろいろ大変だもんね。私も今なんで今日に限ってこんなダサいパンツ穿いてきてしまったのだろうかと後悔しているところです。

「戦況はこちらが優勢、鍵もこちらにある。あとは相手方が自棄を起こすことなく、無事に儀式を見守っていただければ、この世界も安泰なんですけどね」

 ところで、これなんの話?

 私の質問の答えって未だ出てきてない気がするんですが気のせいですかそうですか。

 なにかと戦ってるのは分かった。こっち、というかユニル達が優勢なのも理解できた。

 しかし、それがどういう戦いなのか。何をもってしてユニル達が優勢だと断言できるのか。そこらへんもっと懇切丁寧に、私にもわかるように軽くジョークを交えつつ説明してほしいんですが。

「まぁ、もっと詳しいことは、明日嫌でも分かりますよ」

「そうですか……」

 頑なに説明をしようとしないその姿勢、嫌いじゃないです。



 翌日。

 私はユニル様が貸してくれてたパジャマとお部屋、そして上質でまさに夢見心地なベッドで充実した睡眠を獲得して、朝ごはんもしっかりと頂戴してしまった私は、ユニル様と一緒に街の中心街へと来ていた。

「ここら辺は治安もいいですし、早朝から市も出ているので活気があるんですよ」

 治安がいいという言葉がでる辺り、治安が悪い場所があるってことですね。

「まだ時間もありますし、ちょっと見て回ってもいいかなと思うんですが、どうでしょう?」

「どうでしょうと言いつつも、こちらに拒否権がないのは分かっているでしょうに」

 嫌ですなんて言って、じゃあ別行動でなんて言われた日には、私は絶賛迷子になって、果てには追剥にあってしまう未来が見える。

「他に見たい場所があれば、言っていただければお連れしますよ?」

「観光地とかあるんですか?」

「いえ、特にこれといったのはないですよ。強いて挙げるのであれば、神ヶ原とかでしょうか。でもあそこは……」

 神ヶ原。聞いたことあるようなないような。

「聞いた感じこっちの市のほうが面白そうなので、こっちでいいです」

「そうですね。私も暇なときはよくこの市に来るんですが、毎回面白いものが出てて飽きませんよ」

 そう言うユニルの表情はすごく柔らかな笑顔だった。

 この笑顔のためならば、多少の不満は我慢しようってもんじゃないですか!

 てなわけでユニルお姉ちゃんと一緒に手を繋いで市デートと洒落込もうじゃないか!

 と、思ったのも束の間。市のほうから昨日の二人が歩いてくるのが見えた。

 確か、ユーリアとユスリカたそだよね?

「よぉ、おはようさん」

「……おは」

 さすがユーリア姉さん、早朝でも変わらずパリッとした雰囲気である。そして我らがユスリカたそ。今日も世界一可愛いよ!

「二人とも、おはよう」

「おはようございます」

 今すぐにでもユスリカたそに抱き着いてそのご立派な尻尾をもふもふふにふにしたいのだが、しかしここは抑えて朝のご挨拶を返したいと思います。

「それで、二人はどうしてここに?」

「私は嫌だったんだけどな。なんかユスリカが行きたいって聞かなくてな」

 そ、そんなに私に会いたかったのかい! ユスリカたそ!

「……今日は月に一度の日」

「ああ、それで」

 なにか特別な日なのかな? お赤飯とか炊いておく?

 それはそうと。ユスリカたそ、私に会いに来てくれたんじゃないんだね……。

「私にはさっぱり分からないな、あの趣味は」

「……それはユーリアの趣味が悪いだけ」

「いやいや、私の趣味以上にあれは酷いと思うぞ」

 そうだな、ロリコンの趣味なんて絶対に悪いに決まってるもんな。

 でもユーリアの趣味が分からない以上、私にはどちらの趣味がより悪いかは判断しかねます。

「でも、あれは見るだけならとても面白いわよね。みんなで行きましょうか」

 私の意見は聞くまでもなく、目的地が決まったらしい。

 まぁ、付いていくことには慣れてるんでいいんですけどね。



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