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第十四話「加護の外」



 森の中をひたすら歩く作業は慣れているのでいいんですが、どうにも居心地の悪さを感じてしまう。

 なんだか自分がめっちゃ場違いなところにいる気分。わかるかな、この感じ。なんというかさ、女の子なのに「はい男子はこっちねー」とか言われちゃったときに反論できずに男子更衣室まで連行されたときの感じに似てる。胸の有無で男女区別すんじゃねぇよ! って思いますた。

「あと少しで町に着くから、もうちょっと頑張れ」

 そんな慰めの言葉をもらっても、私にはその町とやらが一体全体どんなところで、安全なのか魔法が使えるのかとかいろいろ不安が付きまとうのよ。

 乙女の悩みは尽きることがないのです。

「……うざったい」

「え? 何がです?」

「……あんたが、うざったい」

 うざったいって言われたって、こんな暗い森の中で誰一人知人がいない私が頼れるのなんて、もうかわいいケモ耳幼女だけじゃない。というわけで私は必要以上にこの尻尾も獣耳も生えてる女の子に抱き着いている。

「まぁまぁいいじゃないですか、ユスリカ。それだけ懐かれているということです」

「……違う気がする」

 なんだいなんだい、別に貞操の危機ってわけじゃないのに。そんなに嫌かな、私に抱き着かれるの。

「そんなに嫌か?」

「……だって、こいつばばぁだし」

「まだ中学生だよ! ぴっちぴちの中学生だよ!」

「……小学五年生以上はみんなばばぁ」

 こいつ真性のロリコンじゃねぇか。私でさえボーダーラインは中学生だぞ。

 と、ユスリカと呼ばれた幼女(見た目は小三くらい)は私に抱き上げられながらも、あまり抵抗はしてこない。口ではああ言っているけれど、本心は「きゃ~! こんなに可愛い子に抱かれて私幸せ~!」とか思ってるに違いない。

「あー、天分だっけか? ユスリカのことおろしてやってくれないか。こんなに無表情だけど、これでもすごい怒ってるんだ」

「…………そうだったのか」

 そうだよね。普通に考えてこんなちんちくりんのぺったんこな女にねちねちと触られたら、誰だって激怒も激怒、大激怒でぷんすかぷんぷんって気分だよね。調子乗ってすみませんでした!

「…………あと五歳若ければいけたのに」

 五歳も若くなったら私年齢一けたになっちゃうんですが……まぁそれがいいんだもんね。

 そんなこんながありつつも、私たちはその後もちょこちょことだが話をしつつ、ついに森を抜けて産業廃棄物が散乱する”町”へと辿り着くことだできた。

 町明かりが見えたと同時に日が沈むのが見えた。やばかったな、あともうちょっと遅かったら森の中で迷子になるところだったよ。まぁ私の人生は迷子そのものだし、世の中には零時にだって迷子になる人もいるくらいだから、迷子になるくらいどうってことないけどね。

「今日はみんな疲れているだろうから、込み入った話は後日ということでいいな?」

 お姉さん系美少女こと、ユリじゃなかったユーリア(合ってるよね?)が私に向かってそう言ってきたが、ここで私が「いえ、疲れてないんで今から話してもらっても構いませんか?」とか舐めたこと言ったら言ったで怒られちゃうんでそ? 選択権のない選択は選択肢として成立しないのでぜひとも命令形の言葉で言ってください。じゃないと色々気を使っちゃうでしょうが。

「いいですよ。で、私は今日どこにお泊りすれば?」

 あそこの軽自動車らしきスクラップの中? それともあの大型の冷蔵庫の中とか?

「そうね、どうしようかしら?」

「どうもこうも、私には子守りなんぞできない」

「……幼女以外は養わない主義」

 この二人……ほんと我が強いっていうか、マイペースだよね。

「しょうがない、私が引き取るわ」

 三人のうち二人が頑として譲らないのはいつものことなのか、ユニル(だったよね?)はため息交じりにそう言った。

 この人も苦労してるんだろうな。私と一緒だ。変態の中に常識を持った人が混じると悲劇しか生まないって分かってるのに、どうして人は変態に吸い寄せられてしまうかしら。

「ま、私としてはこの子も十分ストライクゾーンだから、満更ではないのですが」

 この人も変態だったー!

 自分で言っちゃうのも悲しいが、こんな同年代でもお胸の発達が遅延してる私が、多少外れているとはいえストライクゾーンに入ってしまっているというのはいかがなものか。

「……ユニル趣味悪い」

 人の価値観をどうこう言う気はないが、お前が言っていいことじゃないぞ。ロリコン。

「分かっていませんね、ユスリカは。このくらいがいいんじゃないですか」

 そうだよね、このくらいのほうが可愛い盛りでいいよね! いやぁ嬉しいな同じ価値観を持った人がこの場にいて。

「私も理解できんな。ユニルには壁を愛でる趣味でもあるのか?」

 この人喧嘩売ってますね。しかもたたき売り状態。今の発言で全国のぺったんこさんを敵に回したぞ。

「いやいや、これでも触ると結構ムニムニして気持ちいいんですよ。ユーリアも試してみます?」

 だよねだよね。いやほんと良いこと言うなぁユニルちゃんは。まじ私のおっぱいおすすめ。小さいからって侮るなよ!

「……おなか減った」

「そうだな。これの面倒はユニルが看てくれるってことだから、私たちはご飯でも食べに行くか」

 これ扱いはやめて。ほんとに自分が洗濯板かなんかだと勘違いしちゃうから。

「……そうする。あとは任せたユニル」

「また明日な」

 そう言い残して、ユーリアとユスリカは町のほうへと消えていった。

 しかしあの二人が並んで歩いてると親子みたいに見えるな。もしかすると本当に親子なのかもしれない。それでいうと、残されたユニルちゃんもまたあの二人と血縁関係があるのかも。覚えてたらいつか訊いてみよっと。

「それじゃ、私たちも行きますか」

「はい! どこへでも!」

 私は容姿を褒められた(と思っている)こともあってか、すっかりしっかりとユニルちゃんに懐いていた。

 もちろん、突如襲撃されて連れ去らわれたことは忘れていないが、ここでそれを嘆いたり悲しんだり、ましてや抵抗するなんてことをしても、帰り道がわからない以上どうしようもない。

 こういう時は焦らず冷静に。自分が置かれている状況を把握してから、脱出の手段を練るが吉だと、お姉ちゃんに教わった。

 これを教わったときはちんぷんかんぷんだったが、お姉ちゃんはこういう事態を予期していたのかもしれない。敵わないなぁお姉ちゃんには。

 ついでに言うと妹からも「私の名を呼べばいつでもどこでも瞬時にお姉さまの下へと駆けつけるので、四六時中私の名前を呼んでくださいね!」と言われたことがある。この場で試してみたかったが、本当に来てもそれはそれで話がややこしくなるので、止めておく。それにあれが来ても私、困ります。

「で、どこ行くんです?」

 あの屋根もない壁もボロボロの小屋? それとも半分つぶれたコンテナ?

「ああ、私の家だよ」

 と言ってユニルが指したのは、なんとスクラップ置き場の中央にある、めっちゃ高いビルのてっぺんだった。

「……まじですか」

 もしかしたらこの人、すごくお偉い人なのかもしれないと、そのときはじめて思った。



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