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第十三話「新人研修・6」


 私たちの予想とは裏腹にその戦闘は一瞬で決着がついてしまった。

 今現在の最大火力をもって初撃で止めを刺そうと仕掛けた銅名だったが、しかし相手は魔法も能力スキルも使用せずにそれを片腕で弾くと、すかさず距離を詰めて腹部に一撃。無駄のない鮮やかな一撃だった。

 無残にも崩れ落ちていく銅名。纏っていた炎も徐々に小さくなっていき、灰だけが辺り一面を舞っている。

「魔法が使えればなんとかってところだと思うけれど、まぁ半端な魔法ではユーリアには効かないから、それでも結果は変わらなかったかしらね」

「……ユーリアの完全物理攻撃は、ホント冗談クラス」

 あの綺麗なお姉さんはユーリアというらしい、名前通りユリなのかしらん。あ、いや別に他意はないですけれど。

「さてと、ではその保持者とやらをこちらに渡してもらおうか」

 銅名を倒したユーリアは、攻撃を弾いた腕を振り払いながらこちらに向かってくる。

「やばいわね」

「はい、さっきよりも数倍やばいです」

 私と宮古ちゃんはそう言いながらもきっちりと対策を講じる。

「陶器ちゃん、予備に張っていた物理防壁を解除して二十秒・・・だけ時間稼いで」

「え?」

「早く!」

 宮古ちゃんは陶器ちゃんに指示を出すと、周辺の木々を集めれるだけ集めて即席の壁を作り出す。智菜も状況を理解して目印をその場に作成した段階で陶器もようやく理解できたのか、全体力をもって防壁形成をする。ここまでおよそ一秒もかかっていないのだから、この場にいる魔法少女は名家揃いだと実感する。

 それでも、そんな私たちの努力も空しく、何もなかったかのようにそれらの壁という壁を薙ぎ払っていく。

 稼げた時間はたったの三秒。

 しかし三秒だ。

 あとの十七秒は、私が稼ぐしかない。

「それで、あなたは何を見せてくれるんだ?」

 私は正面から相対する形で立ちふさがる。

 実のところ、いや実のところなんて言わなくても私に策などなにもない。

 けれどこの状況下で私があーちゃんを救えば必ずやあーちゃんは私に求婚してくるに違いない。いや婚姻届なら私が常備しているのでこの場を離脱したら早速二人仲良く書こうそうしよう。新居は少し狭い部屋にして、どこにいてもあーちゃんを感じられるほうが私はいいと思うの。でもでも、あーちゃんが広くて綺麗で穏やかな環境がいいって言うなら、私はそれでもいいのよん。

 とか何とか余計なことを考えていると、ユーリアは目にも見えない速度で私の目の前まで迫って来た。どうせ迫ってきてくれるならあーちゃんが良かった。

 とっさに両腕で防御の体制を取るが、その上から容赦のない鉄拳が私を襲う。

 衝撃なんて生易しいものじゃない。

 十トントラックと衝突したかのような圧倒的な重量、今まで経験したことのない絶対的なまでの暴力に、私の細腕が耐えられるはずもなく、さながら木の枝のように粉砕されてしまった。

 打ち上げられるような形になった私を徹底的に潰すためか、ユーリアは右腕を大きく振りかぶる。あんなものをまともに食らってしまえば、どれだけ不死性の加護を受けられる結界内だとしても、タダでは済まない。

 ああ、私終わったな。

 そう思って目を閉じる。

「まだ終わらせるには早いわよ」

 即死必至の攻撃が今まさに私を直撃しようというその瞬間、私の前にはなぜだか知らないけれど、というか事情など全く知りたくは無いけれど、パンツ一丁のお姉さんが立っていた。

「遅れてごめんなさい。パンツ穿くのに手間取ってしまって」

「その前にどうして全裸なんですか。いや説明しなくていいです絶対ろくでもない理由だと思うので」

 宮古が呆れたような表情で会話していることから、どうやら宮古たちの監視係なのだろうが、どうしてこんなにも突出した変態性を帯びているのだろうか。流石の私もちょっと引くわ。

「あなた達は早く放心状態のあーちゃんを連れてこの場から離脱しなさい。後は私たちが何とかしておくから」

 見れば変態を含めた監視係三人が既に臨戦態勢を取っていた。

「リスティル、最近前線で見ないと思っていたら、こんな場所で遊んでたんだな」

「私もあなた達相手に暴れていれば許される立場ではないですからね」

 どうやらこの変態監視役は敵とお知り合いらしい。よくよく見るとあの敵さんみんな耳が猫耳っぽかったりうさ耳っぽかったりと、とてもファンシーである。

「前線の精鋭が護衛・・しないといけない新人って、一体全体どんな子だろうな」

 護衛? 監視でも監督でもなく、護衛? だめだ、私の足りない頭じゃ何がどうなっているのかさっぱり分からない。

 それに、見た目はあれだが実力で言うなら一級だろう監視役たちが、それこそ殺気立って守る新人って、一体誰のことだ?

「分かっているのにその態度はいただけませんねぇ」

「こちらとそれを連れて帰らないと怒られるんでね、全力でいかせてもらうぞ」

 私がぼうっと思考をめぐらせている間に、相対する二人は魔法でも能力スキルでもない、純粋な物理攻撃を互いにぶつける。

 初撃。

 二人の拳が衝突するまさにその瞬間、衝撃波にも似た振動が空気を揺らし、地面が二人を中心に丸く抉れるように窪んだ。

 ただ拳を当てただけで、これである。この人たち本当に同じ人間なのか疑わしい。というかこれ本当に魔法使ってないんだよね?

「腕は鈍ってないようだな」

「こちら側も別に遊びほうけているわけではないからね。それに、やっとこの状況を打開しうる手を見つけたのだから、気合も入りますよ」

 二撃、三撃と繰り出しては地形を変えていく二人。その後ろの監視役二人と未だ空中で静観を貫いていた二人の侵入者の間では一ミリも動くことを許さない緊迫状態が保たれていた。等間隔で襲ってくるまともに立っていることもできない振動にも動じることはない。

 本当に、この人たちは生きている次元が違いすぎる。

「遅れてごめんなさい! 準備完了です!」

 私が目の前の超人戦闘に目を奪われている間にも、智菜はちゃんと脱出用の飛躍ジャンプ地点ポイントを形成していた。

 きっかり二十秒で終わらす辺り、真面目な性格をしている。

「早くこんな場所から逃げるわよ」

 宮古は目印にあーちゃんと陶器、そして何時の間に回収していたのか銅名を入れる。最後に私が入って後は智菜の能力スキルが発動するのを待つのみである。

「行きますよぉ、ちゃんと私に掴まってくださいね」

 智菜もこれだけの人数を一気に飛ばすのは初めてなのか、意識を極限まで集中させている。

「逃がすとでも思っているのかしら?」

 しかし、能力スキルが発動するというまさにその瞬間、あの三人組が現れたときのように頭上の空が割れ、中から出てきた手によってあーちゃんだけが中に引きずり込まれる。

「ちょっとま――」

 気付いたときには既に遅く、私たちは飛躍を開始してしまっていた。



 真っ暗な空間に、ふわふわと漂っている感覚だった。

 目を閉じているから視界が暗いのか、空間自体が暗いのか分からなかったが、ここがもう幽閉島ではないということだけは分かった。

 どこに行くでもなく、どこを目指すわけでもなく、ただただ雲のように流れるままに身を任せる私の手を冷たい鎖が拘束する。

「……申し訳ございません。今しばらくそのままでお待ちを」

 どこからか声が聞こえた。

 聞き覚えのあるような、懐かしいような声。というわけではなかった。

 むしろ聞きなれない、機械的な声色。

 しかし、どっかで聞いたことあると思うんだけれど、思い出せない。

「……ユニル、ユーリア。到着まであと三十秒」

「分かったわ。耐ショック用シールドの展開、始めます」

「速度緩和始める」

 呟くように小さな声に反応する二つの声も、つい最近聞いたような気がしないでもない。

 この空間では、どうやら思考すらふわふわと宙に浮いたようになってしまうらしい。

 それから間もおかずに視界が若干だけれど明るくなる。視界が暗かったのは私が目を閉じているからだったようだ。

 それから数秒もしない内に地面へと叩きつけられたような衝撃と、獰猛な獣が雄たけびを上げるかのような強烈な機械音が耳を襲う。

「さぁ、着きましたよ。選択者様」

 その声は私の手を取ると、短く何かを唱えると、私の周りを覆っていた浮遊感が霧散して一気に現実へと戻される。

 いや、現実に戻されてもなお、そこは私の知る現実ではなかった。

「……どこ、ここ」

 例えるのならスクラップ工場だろうか。

 山々に囲まれた大きな平地に、所狭しとガラクタのような建物が建っていて、どこからともなく煙や炎が舞い上がっている。その中でも中央と、恐らくは東西南北と思しき方角に一等高いビルのようなものが建っている。

「どうですか? 私たちの町は」

 町? これが?

 私の目にはどうやってもこの産業廃棄物の山が町には見えない。

「まぁ、詳しいお話は後でゆっくりとしましょう」

 それよりも何よりも、この状況って私、まさか誘拐されてない?

「…………少しだけ騒がしい場所だけれど、我慢してね」

 少しどころか、すごく騒がしいですけれど。

「てか、またすごい場所に落ちたもんだな。町が見渡せるなんて」

「そうね。でも太陽もまだ傾き始めたばかりだし、陽が落ちるころには到着できるわよ」

 あの日の記憶を思い出して気を失ってしまい、意識が戻ったかと思ったら暗闇空間。視界が開けたと思ったら今度はこの珍妙な風景である。意味不明なことに対する耐性は結構あると思っていたのだが、流石にこれは意味わかんない。

 そもそも、この人たちの格好からしてちょっと異質だ。

「……ん? 何か私の顔についてます?」

 私はちょうど近くにいたちっちゃな女の子を見る。可愛い。もふもふしたい。

「ううん。なんでもない」

 顔というか、側頭部というか。言ってしまえば人の耳あたり。

 あれは、俗に言う獣耳というものなのだろうか。

 確かに魔法列島では時たま見かけたような気もしないでもないけれど、あれは完全に偽者だったし。

 うーん、触って確認してみたい。

 よくよく見れば、なんとしっぽも生えてるではないか。あれ、でもあっちの二人には生えてない。しっぽは飾りか?

「……よだれ、垂れてますし……ちょっと離れてください近いです」

 気付けば私は見た目幼女のおしりを近距離で見ていた。傍から見れば完全に不審者、変質者ではないか。これは由々しき事態である。

 私は決して変態ではない。

 ただちょっと小さな子が好きなだけだ。

「お二人とも、早く行かないと真っ暗の中森を抜けることになりますよ。あそこの森は暗くなると魔法の光でもほとんど目の前しか照らせないほど暗いので危険極まりないのですから」

「私はそれだけは勘弁だ」

「……私も、嫌」

 その森とやらがどれだけ恐ろしいのかは分からないけれど、少なくとも私よりもこの場所に詳しいであろう三人が危険だと言うのならば、それは相当に危険なんだろう。

 状況は依然として把握できなくて、何がどうなったのかの説明さえされてはいないが、とにもかくにも今はこの三人についていくしか無さそうである。

 はぁ、はやく家に帰ってお風呂入りたい。



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