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第十一話「新人研修・4」



「ひとまずとして、相手の出方を見るのは得策ではなくなりましたわね」

 なんだかんだで初日からひとつ班を返り討ちにした(私がしたわけではないけれど)私たちは二日目、早朝から作戦会議を開いていた。といってもみゃーこちゃんの頭が回転してないからたいした話もできていないけれど。

「あー、ちょっとちっこ」

「言い方かわいいなおい」

 とまぁ、こんな感じに話が進みそうになるとトイレやら二度寝やらを繰り返すのである。その姿がかわいいからって許している私にも責任はあるかもしれないが。

 しかし、この状況も中々どうして危険である。

 私たちの拠点は一応みゃーこちゃんの森林操作で島にいる生物からは見えていない。けれど、相手も同じ魔法少女ならば、この地点の樹木密集率が異常だということに気付くはずだ。実際昨日も拠点を設置してすぐにことちゃんに見つかっている。

 なら、それならば、あの縦ロールに見つかるのも時間の問題だ。恐らく昨日接触がなかったのは自陣の設営と索敵範囲の関係だろう。今日か、今日でなくても明日には必ずこの場所は発見される。みゃーこちゃんは昨日自陣の周りに罠を張って、生物をちまちまと狩っていればいいと言っていたが、どうにもそれは得策とは言いがたい。

 先見フォーサイト

 その能力スキルが言葉以上に強力だとしたら、私たちが先手を打たないと勝ちの目はほとんどなくなるわけだ。

「それほど強力なのでしたら、能動的発動型能力アクティブスキルなのは明白ですが、一体どれほどの範囲で能力展開が可能かが気になりますわね」

「おっ、やっといつものみゃーこちゃんになったね」

「人を寝覚めの悪い人みたいに言わないでください。私はいつでもこうです」

「おいおい、冗談はよしてくださいなお嬢様。あんた結構寝覚め悪いよ」

「私に盾突くとはいい度胸ですわね。そんなにお仕置きされたいのかしら」

 うん。この感じはもう大丈夫だろう。

「で、私たちはこれからどうするの?」

 ちなみにことちゃんとともちゃんは私が起きる前に出発したらしい。ことちゃんは出発前に「お口にちゅーは起きているときに」とか言ってほっぺにちゅーしたらしい。ことちゃん、許すまじ。

「これからまた移動ですわ。はぁ、せっかく拠点も罠も張ったっていうのに、それをわずか一日足らずで破棄しなければいけなくなるなんて、とんだ誤算ですわ」

「……それって、また私が重い荷物を何時間も運ばないといけないってことですか?」

「そうですけれど、なにか?」

「いえなんでもないです」

 やっとのことでここまで来たというのに、また移動しなければいけないなんて。と、思わないと言えば嘘になるが、こうなることはなんとなく予想できたので、あまり悲観的にはならないで済んだ。

「出発の前に銅名のペアである一里丘陶器の能力スキルについて話しておきましょうか」

 まぁ、移動しながらでもいいんですけれどね。

「移動しながらですと、私がしゃべれなくなるかもしれないので」

 そうでしたね。

「一里丘家は身体強化や近接魔法を得意とする家系なだけあって、その能力スキルも脳筋だったわ」

「脳筋って」

 由緒ある家系の能力スキルを脳筋と言ってのけるとは、みゃーこちゃんも大胆ですなぁ。

「それで、その能力スキルって?」

「はい。専守ディフェンスと地形変化です」

専守ディフェンスって、相当上位の能力スキルじゃない」

「いいや、話によれば完璧な防壁が作れるわけではなく、単純な物理防壁を形成できるだけだそうよ。私が注視するのはむしろ地形変化ね」

「みゃーこちゃんの森林操作みたいに、拠点が隠されていているのと罠が張られている可能性があるってことだね」

「あら、あーちゃんにしては冴えているわね。そう、拠点の隠匿と罠の設置、それくらいなら誰もが思いつくわ。けれどきっと、あの一里丘陶器ならそれ以外の策を思いついていてもおかしくはないわ」

 うん? 今の話し方からすると、みゃーこちゃんと一里丘さんはお知り合いなのかな?

「知り合いというか、腐れ縁というか……」

 珍しく言いよどむみぁーこちゃん。これはきっと私のような主従関係ではないな。私もそんな関係ではないと声を大にして言い切りたいが。

 まぁ、みゃーこちゃんの家もまだ百年ちょっとしか歴史がないし、それなりに歴史がある家との付き合いもあるのだろう。私との関係もそういう感じだし。

 私自身はそういうのお姉ちゃんがやってたりするから、あんまり魔法少女のお友達いないんだけれどね。

「そのことについて今は置いておきましょう」

 ほほう。これはみゃーこちゃんのつかれたくない急所だな。覚えておこう。

「実のところ罠のほうは私の能力スキルで相手に気付かれずに何とかできますが、地形が変化している場所に干渉すれば相手に気付かれてしまいます。私たちの居場所が特定されれば銅名の先見フォーサイト、この場合は特定地点を見通し、能力スキルを無効化されてしまうとしましょう、それを使用されてしまえばおしまいです」

 なるほど。つまり私たち(主に働くのはみゃーこちゃんだが)は相手の罠をかいくぐりながら、しかし相手の拠点に干渉しないように、できる限り相手に近づいて不意打ちの一発で決める。それがあのペアには最も有効な一手。

 でもなぁ。

「それができないから、私たちは移動する必要があるのでしょう。あとこちらの位置を悟られないように相手の索敵時間に移動するのもそのためですわ」

 そうなのか。

 というか移動するのは分かる。あのペアを私のやりかたでは攻略できないのも分かる。けれどそれ以外は何一つ分からない。いったいどうやってみゃーこちゃんがあのペアを攻略するのかの説明をまるでされていないのだ。当のみゃーこちゃんは説明しなくても分かるでしょ的な雰囲気だが、話さないと分からないこともあるということも知っていてほしかった。他人と自分が同じ思考回路していると思わないでほしいものです。私には相手を苛め倒して快感を得るような性癖はない。断じてない。かわいいものは徹底的に愛でるのが私の信条である。

「それで、私たちはこれからどこに移動するの?」

 作戦の説明はほとんどなかったが、目的地を訊くことくらいはしてもいい気がする。ただただ歩くよりかはちゃんとした終りがあるという事実だけで私は頑張れるのだ。

 だが、その質問はやっぱりしなければよかったと思うくらいには、意外な場所だった。

「私たちが今日向かう場所は、中央監視塔ですわよ」

「……おわぁお」

 移動距離が案外短いことと、そこに行ったら確実にあの変態に絡まれるという最悪な現実に、私はへんてこりんな返事しかできなかった。


 それからというもの、私は昨日あれだけ苦労して(言うほど苦労していないが)作り上げた快適な生活空間を見事にカバンひとつに収納したのはいいが、移動はお昼すぎらしいので、それまで暇を持て余すという結果になってしまった。

 そして、暇と時間を誰よりも愛する森林乙女もといみゃーこちゃんは、これを好機とばかりに私を再調教する魂胆らしい。

「またずれていますよ。これくらいできないと本当にあーちゃんは役立たずで終わるのですから、もっとしっかりしてほしいわ」

「はぁ、はぁ、はぁ、分かってるけど、これ、意外と難しい……」

「あーちゃんは私よりも少しだけ射撃能力が高いのですから、この役を任せるのです。ですから、私の求める最低基準は満たしてほしいです」

「そう言われてもぉ、これ、なんの意味があるの?」

「あれ、言ってなかったかしら」

 言われて無いな。むしろ情報がなさ過ぎて練習に身が入らないと言い訳しておこう。

「まぁ、順応性が高いあーちゃんのことだから、そのときがくればちゃんと理解してくれるわよね」

 あれ、ここで作戦の説明をしてくれる流れじゃないの? 情報の秘匿性高すぎないですかね。

 というわけで、私はみゃーこちゃんと調教改め特訓をしていた。

 どうしてもみゃーこちゃんの作戦には私の水鉄砲アクアシューターが必要らしい。そしてその水鉄砲アクアシューターをとある場所に正確に確実に命中させるために、こうして特訓しているのだ。

「では、時間の許す限り特訓しましょうか」


 お昼過ぎ。

 特訓を終え、ご飯をたらふく食べた後、私たちは太陽きらめく森の中を鬱々と歩いていた。

 道中よくよく耳を澄ましていると、近くを生物が通っている音が聞こえてきた。なるほどみゃーこちゃんの能力スキルがなければ私たちはこれらの生物と連続で、しかも生身同然で戦わなければいけないのだ。みゃーこちゃん様さまですな。

 しかし、しかしだ。

 こうもあっさりと生物が騙されるのかと疑問にも思うわけであって、普通ならば自分の領地シマが誰かに荒らされているということに気付かないはずがない。

 そういった私の考えを、先を歩くみゃーこちゃんに訊いてみた。

「この島に生息している生物は基本的に偽物レプリカですので、そういう心配はないです」

 つまり、人工物であるこの島の生物はそういった縄張り意識が欠如している。ただ目の前に現れた獲物を狩るという機能しか内蔵インプットされていないという。この島の生物が人工的に造られていたとは驚きである。

「元々は罪人を幽閉するため、近年では魔法少女の育成のために危険生物の贋作フォージェリを造り、狩りをさせています。あーちゃんのお姉さんだか妹さんだかに聞いた「一級魔法少女が中隊で挑んでやっと倒せる」なんていうのは、戦闘経験の乏しい、未だ結界の中の世界しか見たことのない未熟な魔法少女のことを言っているのだと思いますわ」

 ん? 結界の中の世界?

「まだあーちゃんの知ることではないです」

 そう言われてしまえば黙らざるを得ない。

 そんなこんな無駄思考やら無駄話やらをしているうちに、ここ、中央監視塔についてしまった。

 みゃーこちゃんも私と会話していたので、移動ではさして疲れなかったらしい。

 そして私たちは、立ち止まる。

「来たわね」

 中央監視塔。八角形の土台から複雑に絡み合った柱の先には三角形の監視室がかろうじで見える。避雷針を含めればおおよそ四百メートルの高さの建物だ。その監視塔の横にはこれまた大きく頑丈な鉄門がある。おそらくこの先がリスティルが言っていた危険区域に繋がる地下施設への入り口があるのだろう。

 そんなことはどうでもいい。

 そんなことよりも、今は目の前の相手のことを考えなければ。

「どうして、と思った? 簡単よ。あなた達のほうに言塚琴葉と友仲智菜が向かうのは分かりきっていたことですし、あなた達ならばその二人を退け、私たちの能力スキルを聞き出すことも予想できました。ならば、私たちの能力スキルを知ったあなた達が、次どのような行動を取るかを予想するのは容易いですよ」

 まるで全てを分かったかのような口ぶりで、まるで何もかもが想定内だといわんばかりの態度で、縦ロールこと銅名美希は立っていた。

「さて、見事に罠にかかったかわいそうなあなた達を、どういたぶってあげようかしら」

 ちいさい胸して大きな態度だ。なんて言ったら、事態を悪化させかねないので心に留めておいた。



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