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第十話「新人研修・3」



 ぽわぽわとした温度のせいか、私は夕飯の支度が終わると少しだけ眠ってしまった。

 一時間くらいだろうか、とっくに太陽は姿を消して、きらきらお星様が空を支配し、まんまるお月様は夜空に空いた穴のように見えた。

 後方の戦闘は未だ続いているようだった。

 散発的ではあるが、戦闘音が聞こえてくる。

 あのみゃーこちゃんがみっともなく殴り合いをしているわけはないので、おそらく能力スキルを駆使しての戦闘になっているだろう。

 森の読者、森林乙女、樹木連鎖と数多くの通り名を持つみゃーこちゃんの能力スキルはその名前があらわすように戦闘特化の能力スキルというわけではない。

 しかし純粋に戦闘特化ではないというだけであって、使いようによっては非常に厄介な能力スキルである。

 対して相手、友仲智菜の能力スキルは確か、跳躍、いや重力だっけ? とにかく特定のものを指定の位置に飛ばすことができるものだったと記憶している。なにそれやばくない。

 正確には指定飛躍ピンポイントフライ。今思い出した。

 マークを付けた場所にならばどこにでも跳躍可能な能力スキルだ。まぁお世辞にも戦闘向きとはいえない。ならば何か別の戦闘向きの能力スキルを持っているのかもしれない。というか持っていないとさすがに素手でみゃーこちゃんとここまでの長期戦を行えるとは思えないのよねぇ。

 後方からまた一際大きな音が聞こえてきた。

 それからほどなくしてみゃーこちゃんが帰ってくる。どうやら先ほどの音はとどめの一撃だったらしい。

「……参ったわ。まさか本気で素手で立ち向かってくるとは思いませんでしたから、すこし戸惑ってしまいました」

 この状況下でみゃーこちゃんに格闘戦を挑むとは、一周回って尊敬しますわ。

「でも、結構時間かかってなかった?」

「なんだかんだであの子、友仲智菜でしたっけ? 戦闘慣れしてましてね。隠匿スニークが特に素晴らしくて、森林での戦闘にも関わらずあぶり出すのに苦労しましたわ」

 なるほど能力スキルうんぬんというよりも本体の戦闘力が高かったというわけか。

「でも、この調子なら相当やばい能力スキルでない限り負けることはない気がするね」

「そうとも言い切れませんわ」

 いつにもまして思いつめた様子のみゃーこちゃん。なんだそんな顔もできるのか。

「今回はたまたま二人とも戦闘特化能力バトルスキルでなかっただけで、あの一里丘と銅名が無能力ノースキルなわけないですからね。苦戦は必死です」

 一里丘陶器のほうは分からないが、縦ロール銅名の能力スキルなら聞いたことがある。

 残炎リスクブレイズ。周辺一体を焼き尽くすことができる非常に強力な能力スキルだ。銅名家は代々この能力スキルを受け継いでいるらしい。

「この能力スキルって何が厄介って、体力がある限り発動し続けることができるってところよね」

 そう、能力スキルは魔法と違い、魔力を消費しない代わりに、体力を消費する。能力スキル保持者ホルダーの基礎体力次第ではほぼ無限に近い回数を放つことも可能である。しかし、判明している能力スキルの約九割が支援、移動、感知、防御といった非戦闘能力ノンコンバットスキルだ。だからみゃーこちゃんの森林支配、森林操作は意外と戦闘向きの能力スキルといってもいいかもしれない。

「そういえば、あーちゃんの能力スキルはどんなものなの?」

「あー、えっとー」

 そういえばそんな話を船の中でしたような。

 まぁ、無能力ノースキルというわけではないが、役に立つかと言われれば判断に迷う。そんな微妙な能力スキルである。

「で、どんなものなの?」

 実に程よい威圧的な態度で聞いてくるみゃーこちゃん。これはもう言い逃れができないですね。

「……水鉄砲アクアシューター、です」

「…………ああ、あれね」

 水分を圧縮して放つことができる能力スキルと言えば中々強そうだと思われるが、実際はシャワー程度の威力しかないので、どうにも使いどころが分からない能力スキルである。マジで私使えないやつだな。

「まぁ、けん制くらいにはなるでしょう」

 みゃーこちゃんに気を使われるなんて、相当役立たずだと思われているのかしらん。

「あのー、ちょっとよろしいでしょうかー?」

 と、私がひそやかに役立たず認定されているときに、またまた後方から誰かが、というかさっきまでみゃーこちゃんと戦ってた友仲智菜が声をかけてきた。

「なんですか。もう勝負はついたはずですが」

「いやー、なんて言いますか、私たちご飯の準備とか全然考えてなくてですね、もしよろしければ夕飯を譲ってはいただけないかと思いまして」

 戦闘前の強気発言をしていた人と同じ人とは全く思えないくらい下からの発言をかましてくる。物理的にも下から発言している。なんだかお手本のように見事な土下座である。普段からやりなれてないとああも綺麗な土下座は無理だろう。……普段からやることなんてないはずだけれど、まぁ深くは考えまい。

「あなた達に夕飯を分けて、私たちに一体どんな得があるというの?」

 圧倒的優位性を前面に押し出したみゃーこちゃんの発言。私だったら無条件であげちゃうところをこの子は見返り求めましたよ。まぁ私の考えが甘いだけかもしれないが。

「もうひとつの班、一里丘・銅名ペアの能力スキルと交換でどうでしょう」

 今の段階で言えば縦ロールの能力スキルは判明しているので、一里丘陶器の能力スキルと交換ということになる。うーん、あんまりうま味がないような。

「ところであーちゃん、銅名美希の能力スキルがひとつだけだと思ってますか? あの子、この二、三年で能力スキルを新たに三つほど会得してますよ」

 縦ロールは伊達じゃなかったか。

 というか合計四つも能力スキルを持っている魔法少女なんてそうそういないだろう。能力スキル自体は魔力を使用しないが、その保持数は魔法力、魔動力の絶対値で決定するとされている。まぁ、相性などもあり、能力スキルを持たない魔法少女もいるが、そちらは少数派だろう。

 多くて三つだが、私が聞いた中で一番多かったのが七つだった。だから縦ロールの四つは相当すごいと言える。胸は偽物だけれど。

 それよりも、みんな私のこと愛称で呼びすぎじゃない? 初対面であーちゃんなんて言われてたら私、めっちゃ仲良しなんだと勘違いしちゃうからね。

「あれ? ところでことちゃんは?」

「琴葉の能力スキル隠匿ハイド索敵サーチング・エネミーですから、見張りとして森の中に置いてきました」

 あの子そんなに優秀な能力スキル持ってたのか。あんなに変態な子が隠匿と索敵なんてストーカーにならないだろうか。私、心配です。

「それで、その銅名のお嬢さんは一体どんな能力スキルを持っているのかしら?」

「はい。銅名家伝統の残炎リスクブレイズは知っての通りですが、その他にも炎剣ソードブレイズ隠匿ハイド。そしてこれが一番恐ろしいのですが、先見フォーサイトという能力スキルはご存知でしょうか?」

 炎剣ソードブレイズとはまた物騒な能力スキルだ。剣状の炎を最大四本まで生成できるというなんともチートな能力スキルなんて、もうほとんど魔法使ってるのと変わらないよね。

 隠匿ハイドは言うまでもなくストーカー御用達能力スキルのひとつである。まぁ怖い。

 そして私も聞いたことがない先見フォーサイトという能力スキル。まぁ名前からも大体想像はつくが、そんなに恐ろしい能力スキルなのか。

「恐ろしいというよりも、あれほどうざったい能力スキルもそうそうないですよ」

「どういう能力スキルなのかしら」

「まぁ言ってしまえば遠視ハイプロピアの上位互換ですね。しかしうざったいのが、指定した相手の能力スキルを一時的に消滅させることができるんですよ」

 それが本当ならば、絶対に敵に回したくない能力スキルだ。魔法が使えるのならば大した痛手ではないけれど、能力スキルが他班への対抗手段の今、なんとしてもみゃーこちゃんの森林操作は守らなければ。

「ならその銅名のお嬢さまに見つかりさえしなければいいのよね」

 とっても簡単そうに言うが、相手は一キロ以上先を見ることができて、なおかつ隠れることも得意ということを分かっているだろうか。いや、分かってこの態度なのか。決してできないやれないを言わないみゃーこちゃんだからこそ、私はみゃーこちゃんが大好きなのだ。

「この私が森の中で負けると思っていますの? もしそんなこと思っているのでしたら、あーちゃんには再度調教が必要ですね」

「ごめんなさい思ってません許してくださいなんでもしますから」

 私は全力で許しを乞う。もう二度とあの調教は経験したくない。

「まぁ、難しいお話はご飯食べてからにしましょうか」

 なるほどお嬢さんはお腹がすいたらしい。私もなんだかんだで半日以上何も食べてないことに気付く。

「そうですな。私ももう薄暗い中ひとりで来もしない誰かさんを待つなんて耐えられませんよ」

「なんでだろう。隠匿ハイドを使われてもことちゃんの気配だけは分かるわ」

「愛の力ですね」

「ちげぇよ。怖気のほうだよ」

 変態にしか愛されないってもはや能力スキルと言ってもいいのかもしれない。嫌だなそんな能力スキル

「あのー、大変言いにくいことなのですが」

 と、まだ下手にでることを忘れていないともちゃん(勝手に愛称呼びである)が発言する。

「なにかしら」

「一里丘・銅名ペアを倒すまで私たち手を組みませんか?」

「いいわよ。というかそのつもりで加減していたのだけれど」

 やべぇよみゃーこちゃん。相手が全力で向かってくる中、この後奴隷にして使役しようと手加減してたとか恐ろしいを通り越して悪魔の所業である。

「それじゃ、明日はあなたたち島の反対側まで索敵お願いね」

 幽閉島は小さな島だが、半径でも約二十キロはある。反対側の索敵なんて一日でできるものかもあやしい。

「大丈夫。私には愛の力があるから」

 ことちゃんの心配はしていない。

「うーん。移動自体は能力スキルがあるので大変ではないですが……」

 ともちゃん! あなたはここで休んでてもいいんだよ。と、なぜか私はともちゃんを贔屓するのである。仕方ないよね、可愛いものは可愛いんだもん。

「あと、あーちゃんも明日は馬車馬の如く働いてもらいますから、覚悟しておきなさい」

 無事本日も死亡宣言を受けた私は、これ以上何も考えまいとひたすらに四人分のご飯を用意するのであった。



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