第九話「新人研修・2」
新人研修で訪れた魔法列島のひとつ、幽閉島。
そこには一級魔法少女が中隊を組んでやっと倒せるような、強力な生物が生息していると言われている。
しかし実際にはただ暑くて森林しかない、無人島である。
「あっつい。あーちゃんどうにかして」
「荷物持たされた挙句急勾配の道を意図的に選択されている私の現状からさらに無理難題を言いますかこのお嬢様は」
区切ることなく最後まで言い切り、私は肩で息をする。つらいわこの人の付き人。
「だっていつもなら重い荷物は魔法でどうにかしてたから、私お箸以上に重いものなんて持ったことないのよね」
「魔法に頼り切った生活してるなんてだめだよみゃーこちゃん」
「駆動音がうるさい運搬機ね。もうちょっと静かにできないかしら」
「これから四日間一緒に過ごす相棒を運搬機呼ばわりですよこの令嬢。わかったよもう何も言わないよ」
魔法が使えない以上、森林支配という常時発動型能力と森林操作という能動的発動型能力だけが頼りなのだ。しかしその能力は体力を激しく消耗するらしく、荷物はおろか、今は自分の身体を動かすのも辛いのだと思う。まぁそれを口実に私をいじめたいだけだと思うけれど。
「まぁでも、能力が使用不可だったらさすがに詰んでいましたけれどね」
「というか常時発動型能力を使用するなってほうが無理だと思うけれどね」
能力発動を制限する魔法はあるらしいが、それを四日間も発動するにはさすがに超級魔法少女クラスを呼ばないといけなくなる。たかが新人研修にそんな大掛かりな魔法は使用しないはずだ。
というか、そんな魔法を発動されたら困るのはむしろ監視役のほうだろうし。
「暑いのはこの際我慢するとして、視られているという感覚は我慢ならないわね」
指定区域の全てを視る事ができる能力、千里眼。おそらく監視役の誰かの能動的発動型能力だろう。
いや待て、こんな変態性の高い能力、まさかとは思うがリスティルではないだろうな。
「千里眼。別名”悪魔”とも呼ばれるその能力は、実に驚異的であり、魔法少女殺しでもあります」
「区域内の全て、ということは魔法発動前の原子の動きすら視通すことが出来るということだからね。能力というかチートですわチート」
まぁ今のところその能力を使用できる魔法少女がほとんどいないし、その能力を拝めたのはいい経験だけれどね。
しかし、それはそうと結構歩いた気がするが、まだ島の中心部には到着しないのか。すごく小さな島だと思っていたが、徒歩で移動となると相当広く感じる。
そんなことを思っていると、みゃーこちゃんは見越していたかのように私に告げる。
「もうそろそろ目的地ですわ」
木々で覆われた視界が徐々にひらけてきた。
森林の中に直径十メートルほどぽっかり穴が開いている。恐らくみゃーこちゃんの森林操作で作り出した私たちの拠点地だろう。
「ではあーちゃんはテントの準備と夕飯の支度、お風呂の準備と着替えの準備もお願いね」
まぁ確かにみゃーこちゃんが罠作りに専念できるように、その他のことは全て私がやるべきだろうけれども、その態度はいただけない。張りのあるおっぱいを強調するようにふんぞり返るのは私への挑戦だと思うの。ほら、私ってぺったんこだし。とか勝手に自分で思って軽く落ち込む。ふん、まだ成長途中なだけだし!
私はさっそくテントを張るべく骨組みを組み立てる。今のテントは組み立てほんとラクよね。ほとんど広げるだけで設置が完了しちゃうもん。これが現代の最新技術か、はっ! まさか現代ではよりスマートなものが求められているのだろうか! それなら私のこのスマートボディは意外と需要があるのか!?
「気持ち悪いこと考えてないでさっさと終わらせなさいな」
思考を読む能力も持ってるんじゃないですかね。それならしゃべらずに会話できるからラクなんだけどな。
「会話というのは自分の思いや考えをのべるだけではなく、相手との信頼関係を築いたり、語調によって心情などを察するためのものよ。ラクだからといってその行動を省いてしまったら、私たちもう別れるしかないわね。はい、ここに名前と捺印お願いね」
「えっ、私たちって結婚してたの?」
「ええ。私があなたを調教してたときに、どさくさに紛れて」
記憶がない。いやきっと嫌な記憶だったから脳が勝手に消去したんだ。
私はみゃーこちゃんから離婚届を受け取ると、名前を書きなぐる。捺印はないので勘弁してほしい。というか本当に提出するわけじゃないからそこまでする必要はないはず。
「そうね、婚姻届を出しに行ったとき受付の人に頭おかしい人を見る目で見られましたわ」
提出しには行ったのか。何考えてるんだこの女は。
そんなこんな下らない会話を楽しんでいる間に、拠点の設置は完了して後はご飯が炊けるのを待つだけである。
「はぁ、さっそく来たわね」
呆れ顔がこんなにも似合ってしまうみゃーこちゃんはたぶん普段から呆れることが多いんだろうな。ってなにが来たの?
私がみゃーこちゃんの発言に呆けた表情をしていると、後方の木々から爆発音が聞こえてくる。
「さて、まんまと罠に引っかかった馬鹿を拝みに行きましょうか」
「あー、そういうこと」
どうやらさきほど張った罠に誰かかかったらしい。まぁ、火も起こしてるし、襲われるのは当然か。というか相手を誘い出すために火を起こさせたと考えるのが正しいか。みゃーこちゃん策士だね!
「だいたい少し考えれば火を起こして煙を立てているなんて罠だって分かるようなものを、ほんとうに馬鹿なのかしら」
相手が罠にかかって心底嬉しいらしい。飛び切りの笑顔ですよこの子。
音のしたほうへ向かい、誰が罠にかかったか見にいった私たちだが、そこで後悔することになる。
ああ、変態が釣れてしまったと。
「やっぱり我が愛しのあーちゃんでしたか」
こいつ煙に釣られてきたわけじゃなく、私の存在を感知して匂いでここまで来たんじゃないだろうか。この変態ならやりかねない。
そこにはツタに全身を拘束された私の親友、じゃなかった友人のことちゃんがいた。
「確か、言塚琴葉さんでしたっけ? 随分とまぁお恥ずかしい格好をしてらして、可哀想に」
嫌味全開のみゃーこちゃんには目もくれず、ことちゃんはひたすら私を見つめていた。
「研修とかどうでもいい。それよりもどうして私とあーちゃんが同じ班にならなかったのか、それだけが悔しくて私、一週間前から一睡もしてないの」
よく見れば目の下にくまが出来ていた。おいおいほんとうに寝てないのかよ。
「ご飯ものどを通らなかったし、外に出る気力もなくてベッドで小さくうずくまっているだけの毎日だったんだよ」
お前どれだけ私のこと好きなんだよ。恋する乙女通り越して狂気に飲まれてるぞ。これが世に言うストーカーか。なるほど怖いな。
「私のことを無視するとは、いい度胸ね」
笑顔が怖い。ストーカーことちゃんも怖いが、怒り笑顔のみゃーこちゃんもそれ以上に怖い。なに、今から戦争でも起こるの? 雰囲気最悪だよ。ほら、もっと楽しまないと。せっかくキャンプに来たんだから。
「あーちゃん、私たちはキャンプに来たのではないわよ」
「だって血なまぐさいのは勘弁だし、どうせならキャンプついでに研修受けてるくらいの気分のほうがいいじゃない」
「そんなに悠長なこと言ってるのは、きっとあーちゃんくらいですよ」
そうなの? というかその格好で言われるとむかつくな。一発殴ろう。
「研修地が幽閉島と聞いたときから、それなりに覚悟はしていましたわ。きっとあーちゃん以外の人は相応の覚悟で来ているわ」
ここってそんなにやばい場所なのか。話には聞いていたがそれほどとは思わなかった。
「特Aランクの生物が放し飼いされてるなんて場所、世界中探してもここだけですから。むしろあーちゃんたちと私がここまで移動していて、よく特級の生物と遭遇しなかったと思っています」
「私たちの移動時は森林操作であらゆる生物を寄せ付けませんでしたから」
ああ、だから急勾配とかを登っていたのか。すんません文句言ったりして。
「あなたが森林乙女の香乃宮古さんですか。噂には聞いています」
みゃーこちゃん森林乙女とか言われてるのか。私的には森林女王とかがお似合いだと思う。
「あと十秒ってところですかね」
「なに訳分からないこと言ってるのかしら? 頭でもおかしいのかしら」
頭がおかしいのは否定できないが、しかし私にはなんのことだか理解できた。
これは二人一組の研修だ。ここにことちゃんがいるということは、もちろんもう一人もこの場に来ている!
「みゃーこちゃん! もう一人来る!」
私が叫ぶと同時に、それは私たちの目の前に飛んできた。
「遅いです。時間を稼ぐのも大変なんですよ」
その格好で言っても滑稽なんだけれど。とは本気で思えなかった。
この瞬間のためにわざと罠にかかったと、今気付いてしまったから。
「すみません。結構な距離でしたから、力を溜めるのに手間取りました」
地面が抉れるほどの距離から飛翔し、相手が目の前にいても冷静なその態度。なるほど相当の実力者である。
その冷静な態度を崩すことなく、大胆にもみゃーこちゃんを見て言い放った。
「代わりに、この人たちを五分で片付けますので、許してください」
「言いましたわね三下。痛い目にあわせてあげるわ」
なんだか戦闘の雰囲気になってきましたね。と、当事者にも関わらず暢気なことを思う。
私は極力戦闘を避けたいので、みゃーこちゃんに「ご飯見てるから、終わったら言ってね」と告げ、その場を後にする。
「これが終わったらあーちゃんもお仕置きですから、覚悟しておきなさい」
なんでさ。
でもまぁ、殺傷区域からは脱出できたので、いいとしよう。
みゃーこちゃん、健闘を祈るよ。
そして私は戦闘音を背中に受けながら、一人拠点に戻るのであった。
ああ、早く四日過ぎないかな。




