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第八話「新人研修・1」


 決戦島から東に約三キロ。

 他の島々と違い海には面しておらず、海上から少し浮いた小さな島、幽閉島。

 その四つある航空艇停留場のひとつに、私はいた。

「さて、今日から四日間この島で過ごして貰います。この島から出なければ基本的にどこでキャンプしてもいいですが、島の中央の危険区域には近づかないようにしてください。島の上部には比較的弱い生物しか生息していませんが、島の地下施設には凶悪な生物が多数生息しています。まぁひとつしかない出入り口には私含め監視が三人もいるからあなたたちが侵入するとかは無理だとは思うけれど」

 と、真面目に説明をするリスティルだが、こいつまじでふざけてるのかと思うくらい今の姿はふざけていた。

「で、あなたはどうしてそんな格好なのかしら?」

 もはやみゃーこちゃんの目には軽蔑しか込められていなかった。私ももう突っ込む気力ないわ。

「可愛いじゃないですか猫ちゃんコス。二人の分も用意してありますよ?」

 ロングコートのフードに猫耳、臀部にはしっぽが付いている。なるほど可愛いとは思う。しかしリスティルよ、あなたの年齢でそれはちょっと痛いのではないかと、私はそう問いたい。

「いい歳してそれはちょっと痛いと思いますが」

 みゃーこちゃん、もうちょっとオブラートとか餃子の皮とかに包もうよ。

「何言ってるのですか、私くらいの年齢が対象でしょう」

 こいつホント何言ってるのほんと。

「あなたたち私のこと何歳だと思っているの?」

 この人に呆れた顔をされるとむかつくのは全人類共通の感情だろうな。みゃーこちゃんなんて今まで見たことないくらい苦々しい顔をしている。その顔は女の子としてはレッドカード、失格レベルです。

「えっと、二十歳後半?」

「えっ、なに言ってるのあーちゃん。この人は三十半ばよ?」

 すごい失礼なこと言い切ったなみゃーこちゃん。

「そんなに上に見えるのか……ちょっとショックかな」

 すこぶる笑顔で言われても説得力の原子すらないぞ。

 しかし、そんなに上ときたか。だとすると実年齢はもっと下ということになる。三十代は流石にないだろうから、私の思った二十代あたりが妥当かな。

「私こう見えてもまだ十七歳よ」

「…………」

「あの人寝ているのかしら、ねぇあーちゃん」

 あれは寝言だと言いたいのかみゃーこちゃん。確かに永遠の十七歳とか痛い発言しちゃう人とかはいるけれど、多分あれは本当だと思う。

「みゃーこちゃん、あれ、見てみな」

 私はリスティルが持っているその手帳を指差す。

 魔法使用許可証と呼ばれる、言ってしまえば学生証のようなものだ。

 日本魔法少女協会が発行するそれを持たないと、あらゆる魔法は発動前に消失してしまう。かくいう私もこの許可証を持たないので、家の周辺の障壁が展開された空間でしか魔法を使えない。

 というか許可証が日本のものと違い英国仕様だ。本当にリスティルって英国出身なのか。

「でも、私のお母さんが現役のときに日本に来たって言ってたし、リスティルっていつから魔法少女やってるの?」

 お母さんが現役、しかもまだ前線の地区隊長をしていた時期だから、十年以上も前から魔法少女やってたことになる。なにそれこの人本当にすごい人じゃない。

 普通の魔法少女は二年も魔法を使い続ければ魔動力、魔法力ともに枯渇してしまい、倍の四年は休暇を取らないと威力のある魔法を放てないとされている。

 しかし、お母さんやお姉ちゃん、愚妹へんたいの言動から察するに、リスティルはこの十年、ないし十年以上も休暇を取らずに現役で前線に立っているのだ。まさに才女である。痴女なんて言ってごめんよリスティル。

「これでも私、今年で十三年目のベテランよ」

 才能ある魔法少女って変態しかいないのかな。そうしたら私真面目系魔法少女目指すわ。そうしたら絶対もてる気がする。胸は育たないかもしれないけれど。

「私、疲れてるのかしら」

「現実見ようよみゃーこちゃん」

 みゃーこちゃんはどうあっても認めたくないらしい。しかしそれは残酷にも事実なのだ。

「だから合法的に私たちは付き合えるのですよ、あーちゃん」

「おいおい、この島に入ったらおふざけ禁止って言ったの誰だっけ? それとあーちゃんって呼ぶな」

 こんな変態と付き合うなら、私はみゃーこちゃんの奴隷になるわ。いやどっちも嫌だなそれ。もし女の子と付き合うならちーちゃんみたいな子がいいなぁ。あの綺麗な長髪とつやつやの肌、ぜひとも私のものにしたい。

「はぁ、そろそろこの茶番もお開きにして、本題に入ってもいいんじゃないですか」

 みゃーこちゃんはそろそろリスティルという人間に飽きてきたか。食べ物もそうだけれど人の好き嫌い激しいよねぇみゃーこちゃん。そういうところも可愛いけれど。

「えっと、研修開始時間は……三十分も過ぎてるわね」

「…………」

「行くわよあーちゃん。あっ、私の荷物もお願いね」

「自分の荷物は自分で持ちなさい」

 ようやくみゃーこちゃんの調教が抜けてきた。いやはや、本当に気持ちよかったじゃなくて辛かった。ごめんまだ抜けてないわ。恐るべしみゃーこちゃんの調教。


 リスティルと別れた私たちは、まず活動拠点をどこにするかを話し合っていた。中心部は間違いなく他班との交戦地帯になる。かといって端っこでこそこそとしていたらいい成績は残せないだろう。意欲があるように見せることが出来て、かつ他班との接触が最低限になる位置を絞り込んでいた。いくらみゃーこちゃんの森林支配の効果があるからといって、他班との戦力差は圧倒的だ。交戦はなるべくなら控えて、むしろ生息している生物を多く倒して評価をもらうことに集中するのが得策だと、そこは意見が一致した。

 意見が分かれたのは拠点の位置だ。

 私としては拠点をなるべく端のほうへ置き、活動を中心部にするほうがいいと思うが、みゃーこちゃんは逆を提案してきた。なるべく中心に拠点を置き、活動は島の外周にするという。

 しかしどうだろうか。中心に拠点を置けばまず間違いなく他班に狙われる。ただでさえ戦力差が激しいのに、それは悪手と言わざるを得ない。

「しかしねあーちゃん。こっちから探して踏み潰すのと、あっちから私たちの罠にかかりに来るのを待つのと、どっちが楽だと思う?」

 こういうときでも楽をして相手を辱めようとするみゃーこちゃんってやっぱすごいわ。

「ま、これだけ木があれば罠のふたつやみっつ、一時間でちゃちゃっと作っちゃうわ」

「少なくない?」

 ふたつやみっつであの縦ロールとことちゃんをどうにかできると思えないのだが。

「あーちゃん、桁がふたつも違うわよ」

 あー、そういうこと。

 二百や三百は余裕ってことですね。さすが私のみゃーこちゃん。

「中心地に拠点を築き、罠を張って相手を待ち伏せする。これでいいわね?」

 疑問系で聞いてくるが、しかしそれは有無を言わさない語調だった。

 まぁ、みゃーこちゃんに任せておけば大丈夫だろう。

 こうして私たちは拠点をかまえるべく、森の中へと歩み始める。



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