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北風の道  作者: きーち
第十三章 殺人者の眼光
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第二話 ある種の決別

 ミース物流取扱社には懇意にしている国の関係者がいる。彼女の名前はレイス・ウルド・ライズ。総領主一族の血を引き、総領館商管室の室長という地位に就いている男装の麗人だった。

 顔立ちは美しく中性的なそれであるため、ただ見ているだけでもドキドキしてしまう。ただし仕事の話となると、ルッドは別だった。

「それじゃあホロヘイの町中に兵士を出せないのには理由が?」

 彼女の仕事場所へとやってきたルッドは、すぐに応接室へと案内された。動きの迅速さから、向こうもこちらが何のために来たのかを予想しているのかもしれない。

 すぐにレイスから説明が始まったのだ。

「町の外で、野盗どもに不穏な動きがあるそうだ。かなりの数。100はくだらないだろうな。ホロヘイの兵士はそれに対応するために待機中で、迂闊に動かせないということらしい」

 レイスはかなり驚くべき事を、あっさり口にした。それだけこちらが信用されているのか、それとものっぴきならない事情があるからか。

「………本来、この土地の兵士が動いていたら、すぐに解決した事件だと思う部分もあるんですよ。今回の殺人鬼の件は」

 怪しい人間を片っ端から捕まえる。最終手段であるが、凶悪な犯罪を一気に止める方法ではあるのだ。

 だが、自警団がそれをするのは中々に難しい。彼らの根元にあるのは一般民衆であり、彼らを敵に回す様な方法は中々に取れない。

 だからこそ、国の兵士が行うべきなのである。勿論、兵士達にしたって、無茶をそうそうするべきではないだろうが、それでも今回の事件は例外にあたる。一日につき町の人間が一人、明確な意思を持って殺されるという事件は、強権を発動したって止めるべき事だろう。

「私もそう思う。だがね、やはり100の敵と町中の殺人鬼一人ならば、前者を警戒するというものだよ」

 レイスの言葉に首を横に振って答える。彼女に言っても仕方ない事であるが、それでも言わなければなるまい。

「それは違います。どっちにも対処すべきなんですよ。タイミング見れば分かるでしょう? その二つは無関係じゃあない」

 事件が重なって起こるのならば、それらは一つの事件として見るべきだ。

「勿論、私もそう考えているよ。外のやつらが内を混乱させるために事件を起こしている。そう考える方が自然だ。そうして、そんな事は既に誰しもが考えていることだ。違うかい?」

 そう言われれば反論はできない。つまりホロヘイの総領主はこう考えたのだ。確かに内の混乱は厄介であるが、それでも外の敵に注力しよう。なあに、殺人鬼は後になってしっかり対処すれば良い、と。

「これは反論なんかじゃなく、感情論も混じった言い方になりますけれど、ホロヘイを今、脅かしているのは、外で怪しい動きをする100の人間じゃあなく、内側で殺人を繰り返す殺人鬼の方なんですよ?」

 どっちを放置したところで、この町は駄目になるのではとルッドは思う。今回の件だけでは無いのだ。もっと、きっとずっと前から重なり、繰り返されてきた混乱の限界点が、今、ここで突破されようとしているのだ。

「そこだよ」

 と、レイスが突然にこちらを指差す。楽しそうな笑みだ。町で起こっている事件をさも楽しむような顔であるが、こういう顔をルッドは嫌いでは無かった。自分も良く浮かべるものであるためだ。

「内と外。この二つは、天秤で言うならば釣り合うくらいの価値があると君は考えている。きっと他にもそう考えている人間がいるはずだね? そうして、100の人間に私は対処できないが、一の殺人鬼についてはなんとかできるかもしれない」

「なるほど。ここであなたが殺人鬼について解決できれば、それは相当な功績になると、そう考えている」

 レイスは阿呆では無い。むしろ機転が回り、尚且つ優秀で、欲もある。だからこそ、ルッドも彼女と懇意になろうとしたのだ。

 それは今の段階でも成功と言えた。ルッドの方も殺人鬼に関しては是非とも解決したいと考えているのだ。ここに来て、権力者の手を借りる事ができるとあっては、それは大変な助けとなるだろう。

「率直に聞こう。君らは動いてくれるな?」

「そのために来たわけですよ。ただし、僕らだけじゃあ無理ですから、あなたにも話をと」

「実際、こちらからはどんな助けがいる?」

「戦闘経験がある人間を何人か。ある時点で貸して貰いたいです。できますか?」

 本来なら事件の調査用人員も欲しいところであるが、レイスの権力ではそこまで用意するのは無理だろう。調査はこちらがする。そうして殺人鬼を特定した段階で、それらに対処する人員を借り受けたいのだ。

「………何人だ? そこは正確に言って欲しい」

「3……いえ、4人は欲しいです」

「その数の根拠は?」

「恐らく、殺人鬼とされる人間はそれくらいの人数で行動しているはずです。しかも、人を殺す技能を持っている」

 少なくとも同数がこちらに居なければ、反撃されて取り逃がしてしまう可能性があるだろう。

「………命の危険がある任務で働いてくれる人材。その方が良いかな?」

「できれば」

「わかった。少々厄介だが、その人数なら用意しておこう。これでも、最近は兵庁舎の方にも顔が効く様になったので、できなくはあるまい」

 レイスの部下には魔法使いがいる。その魔法使いの魔法は軍事にも通じる何がしかがあるらしく、そのツテで、彼女はあちこちに顔を出しているというわけだった。その点に関しては、レイスの才覚と能力に寄るもので、詳しい内容をルッドは知らない。

 今、ここにおいては、彼女がこちらの望む要求を通してくれるという事が大事だった。

「頼みます。できれば近日中に結果を出したいと思いますので、その時は」

 レイスが頷くのを見てから、ルッドはこの場を離れるための準備を始めた。とにかく速度が大事だったのだ。少しでも早く、殺人鬼をなんとかしなければなるまい。




 さて、いざと言う時の戦力についてはこれで問題はあるまい。次は、どうやって殺人鬼の正体に迫るかである。

「あたしらで調べれば良いのか?」

「そうだけど、その方法だよ」

 再度、ミース物流取扱社へ戻ったルッドは、社長のミースとこの後の事について話す。

「聞いて回って見つけられるなら、自警団がそうしてるはずだよな?」

「これまで現行犯で捕まってない。似顔絵すらも出回ってないってことは、目撃されないように殺してる慎重な相手だよ。普通の方法じゃあ無理だ」

 何か搦め手を考える必要がありそうだ。と、呟こうとしたところで、どうにも可笑しくなり、笑いが零れた。

「うん? どうしたんだ?」

「いや、いっつもこんなんだから、むしろ普通の事だなってさ」

 搦め手を考える必要がある。そんな事、何時もの事だ。自分はまだまだ弱い立場で、挑もうとする相手は強大である。搦め手を常道とすることこそが自分の道だったはずだ。今回の件だって、何時もと何ら違いは無い。

「まあ、そうか。で、そのいっつもと同じ様にするには、何をしたら良いんだ?」

「一つ、すぐに思いつくものとして、囮で殺人鬼を誘き出すって手がある」

 その案を口に出せば、キャルがすぐに反対すると思いきや、思案顔で黙り込んだ。彼女の返答を待つために、ルッドは黙る。

 沈黙が続いた後、漸くキャルが口を開いた。

「危険とか誰がするのかってのは、とりあえず置いとく。置いとくだけだぞ? あとで取り出すからな?」

「う、うん。了解。そ、それで?」

 なんだか最近は威圧感も出て来たなとキャルを見て思う。彼女、もしかしたら将来的には大物になるかもしれない。それもかなりキツい感じの。

「それで、殺人鬼を本当に誘き出せるのかが不安だろ?」

「まったくもってその通り。囮なんてのは搦め手は搦め手だけれども、単純で成功確率も低い作戦だと僕も思う。だから準備が必要だって考えてる」

「準備?」

「殺人鬼が何を狙っているか。大凡、何人かどういう目的で動いているかを伺い知らないといけない。逆に、それらを聞けるのなら、こちらの目的はほぼ達成できたと言えるかもしれない。囮なんて危険な手を使わないで、事件を解決できる可能性もある」

 ただし、それを知る方法が無いから、やはり殺人鬼に遭わなければならないのか。堂々巡りの思考が続く。何時もならばこの状況を打開する思い付きがあるものであるが………。

「何か足りないって顔してるな、兄さん」

「何が足りないって、時間だよ。今は状況が硬直状態。状況が動けば何か手を出せるってこともあるんだろうけど、それを待つだけの余裕は無いと思う」

 こちら側からアクションを起こさねばならないが、それはどういうものが良いかでまた悩む。

「兄さんはさ、あのレイスって総領主様の一族の人とまず接触したけど、それは今回の事件に関係しているかもってことでなんだよな?」

「正確には、関係あるはずなのに動いてないから、どうしたものかなって思ったんだよ」

「じゃあさ、他にそういう奴っていないもんか?」

「他に?」

 レイスとの接触は、ルッドに新たな情報を齎した。何人かの人手を貸してくれるという約束も取り付けることができたのだから、これは良いことだと思う。

「とりあえず会って、今回の事について話して、損は無い相手って、他にいないもんかな?」

「……………もしかしたら。いるかもしれない」

 そうだ。どんな結果になるかは分からないものの、会うべき人間がいた。それを忘れていたことは大きな失態だ。

「じゃあさ、そいつに会ってみようぜ! どこのどいつだ?」

「いや………その人には一人で会いたいんだよ。ちょっと事情があって、僕以外には会ってくれないと思う」

「そうなのか?」

 その通りだ。そうしてルッドは自分の立場を思い出す。いまや、殆どの場面でミース物流取扱社の商人である自分だが、本来、この国、この大陸へやってきたのは、他国の間者としてだった。

 ブルーウッド国のルッド・カラサ。それが自分の元の姿であり、そんな自分には上役がいる。

(グラフィド・ラーサ。僕の先輩外交官。今はブルーウッド国がラージリヴァ国相手へ、公的に送り込んだ外交官をしているはず………そんな人が、ホロヘイの騒動にまったく無関心なんてことは無いはず)

 もしかしたら自分の知識以上の事を知っているかもしれない。そんな希望があるやもと考え、ルッドは彼と接触してみることにした。

 それが予想外の結末を迎えるとは知らないで。




 ルッドはグラフィドに会うことを決めたそのすぐ後には、彼と会うための行動を開始した。

 グラフィドと会うと言っても、まずは彼を呼び出さなければならない。普段、彼がどこでどの様に働いているかは、ルッドは知らないのだ。

 自分は非公式な間者役で、向こうは公式な外交官。接点があっては困るとそういうわけであるのだが、こちらにとって見れば癪に障る話ではあった。

 これまでは偶に会い、報告書の手紙を出すくらいだけで済んでいたのであるが、ここに来ては積極的に会う必要が出て来る。

 そこでルッドは、手紙の仲介役をしている男に対してこう伝言を頼んだ。

「今回の件で、仕事に支障が出始めた。どうすれば良いか指示を仰ぎたい」

 という内容だ。いったい何の件で、どういう仕事に対して、どの様な支障があるのか。そういうものを詳しく伝えないのである。

 普通に考えれば、町中の殺人鬼についての事だと思うだろう。だが、細かい部分は分からない。本当にそれに関するものなのか。であれば、いったいどの様な助言を仰ぎたいのか。

 それが分かり難い形で伝言したのだ。そうすれば向こうはこう思うはずだ。実際に会って話してみるべきだろうと。

(まあそれで、期待通りに動いてくれるんだから、良いことだと思うけどね)

 次の日の朝になると、ルッドの元に返事の手紙が届いた。内容は直接会って話をしよう。場所は例の食堂で。というものだった。

 会うとなった場合には、行き付けの食堂があるのだ。現在、ルッドはその食堂でグラフィドを待っていた。

(ここの店。味が濃いから苦手なんだけどな)

 とりあえず軽食を頼みながら、ルッドは指定の席でグラフィドを待っていた。ルッドが来て10分くらい経ってからだろうか、待ち望んだ相手がやってくる。

「よお。早かったじゃないか」

 やってきたグラフィドが気軽に話し掛けて来た。現在、町は出歩く人が極端に減っているため、このような軽口は町に似合わない。

 ルッドがいるこの食堂だって、今日、営業していたのが奇跡的だったのだ。

「すみません。呼び出す形になっちゃったみたいで」

 とりあえずは謝罪から始める。グラフィドと自分の関係性は組織的な上下関係であり、下側が自分なのだ。

 そんな自分の方からグラフィドを呼び出すとなれば、それだけで謝らなければならないミスということになる。

「いや、今はこうやってすぐに会った方が良い状況だろ? わかってるさ」

 話をしながら、グラフィドはルッドが座る席の前に同じく座る。

「そうなんです。話したいことって言うのは町の殺人鬼のことで………」

「OK。それが確認できただけでも幸いだ。実はな、話しておきたいことがこっちもあったんだ」

「話しておきたいこと?」

 ダヴィラスの言葉を聞いて、もしやこれは当たりだったかと内心で喜ぶ。向こうから今回の件について話をしてくれるというのなら、こちらは話を聞くだけで良い。相手から情報を引き出さなければと頭を悩まさなくても良いだろう。

 ただ、そう美味い話は無い。

「町で起こってる人殺しに関するそれだけどな。お前は一切関わるな」

「え!?」

 まさか、その様な返答があるなどとは想像していなかった。

 有益な情報を掴めないにしても、向こうは殆ど知らないか、もしくは向こうからこちらに聞いて来るとばかり思っていたのに、話の初めから関わるなと言われるとは思ってもみなかったのだ。

「ちょっと待ってくださいよ。関わるなってどういうことです?」

「文字通りだ。それについては、間者として一切調べるな。調べたりすれば、お前に危害が及ぶだろう? そういうことはだな―――

 いったいどういうことだ。ダヴィラスの話を聞きながらも、相手の思考を予想しようとルッドは頭を働かせはじめた。

 交渉屋としてのルッドが、頭の中で動き出す。グラフィドは自分の上司であるが、それはあくまでブルーウッド国のルッドとしてのそれだ。この大陸に来てからのルッドとして見れば、彼もまた、交渉しなければならぬ相手の一人でしかない。

(調べるなってことは、調べる必要が無いってことだ。つまり、僕が知らない。もしくは向こうが知らないと思っている情報を、ラーサ先輩は持っているということ………そのはずだ)

 そういう情報を持っていたとして、どういう種類であればルッドに調べて欲しく無いと思うだろうか。

(僕に危険が及ぶ場合。そんな理由で内密にするはずは無いだろう? だって、そもそもこの国に間者として送り込まれた時点で、僕は危険な状態なんだからさ)

 実際、この大陸に来てから命の危険は幾つもあった。それはルッドの行動に起因するものも多くあっただろうが、この大陸に来た以上はあって然るべき危険であったとも言える。

(今さら、僕が危険だから調べるな。なんて言葉、口にしないで欲しいな)

 それは自分にとっての侮辱だ。ましてや、取ってつけた様な建前の言葉だとしたら、少々怒りを覚えてしまう。

 だから、グラフィドの本音を引き出したいという気持ちが強くなった。

「何か掴んでるんですね? 僕が知らない何かを」

「調べれば危害が及ぶと言ったぞ?」

「危険な行為をしたら調べられるってことですかね?」

「ちっ………実際調べちまうんだろうな。お前は」

「さて、教えてくれない以上は、知っていることが何であるかは分かりませんからね。どこが止め時かも分からない。ということはどこまでも調べることになりそうだ。それこそ、危険を冒してでも」

 隠すだけの得は無いぞと伝える。いくらこちらがグラフィドにとって下の立場だと言っても、余計な行動はグラフィドを、そしてブルーウッド国に害を及ぼす可能性があるはずだ。

「ふぅ………わかった。だが、詳しくは教えんぞ。この言葉だけ伝えれば、お前にも分かるはずだ」

「随分と勿体ぶるじゃないですか」

「重要な話なんだ。良いか? 今回の町の事件………うちの国が関わってる」

「なんですって?」

 頭の中が少し混乱する。うちの国という言葉で、ルッドはラージリヴァ国を思い浮かべてしまったからだ。

 ただ、そうではないことは明らかだろう。ルッドやグラフィドにとって、自分達の国とは本来、ブルーウッド国なのだから。

「考えればわかるだろ? この国は混乱期だ。末期的だと言って構わない。そんな国と、単純に交流を持つなんて事はできない」

「そりゃあそうですけどね、今回の事件に国が関わってる? 事件の内容を分かってますか? 殺人事件ですよ?」

 小声になりつつも、強い口調でルッドは言葉を発する。グラフィドの話の意味は分かる。その意味が分かるからこそ、自らの祖国のやり口に驚いていた。

「だから考えろと言ってるんだ。実際に事件を起こしているのは、この国の非合法組織だ。それくらいはお前だって分かっているんだろう? 俺がお前の行動を何も知らないと思ったら大間違いだ」

 こちらが感情を昂らせるのと同じく、グラフィドの方も苛立つ様に目の前のテーブルを指でトントンと叩き始めた。

「幾らか行動の自由を与えているからな。今回だって、殺人鬼の件の絡繰りを理解しているはずだな? 国とそれに反抗する組織。この二つはラージリヴァ国をどうにかしちまう可能性がある。そんな二者に俺達ができる事は何だ? それは二つの組織に恩を売ることだろう?」

 第三者としてありながら、双方に利益を与える。見返りは事がすべて終わった時に、勝ち残った方から貰う手筈か。

「ブルーウッド国が………ブラフガ党に金銭的、労力的支援をしていると考えて良いんですね?」

 最後の確認だ。この質問の返答如何によって、ルッド自身の身の振り方も決まる。

「ラージリヴァ国の方にもしている。どちらかだけに肩入れはしていない。ただ、この国が滅びたとしても、そうで無かったとしても、今後の展開に対応出来る様にだな」

「了解しました」

 ダンッっと、ルッドはテーブルを叩き、立ち上がった。驚くグラフィドの顔を見ながら、ルッドはある事を決めたのだ。

(ずっと、結論を先延ばしにしてきた。本当はもっと早く伝えるべきことだったけど………)

 できれば灰色のままが良かった。だけど状況はそうも言っていられないらしい。

「お、おい。いったいどうしたって言うんだ」

「………僕は、ブルーウッド国を抜けます」

「なんだと?」

 グラフィドが目つきが睨み付けるそれとなり、こちらを見据えてくる。

「この国で生きていくと言ったんです。そうして、ラージリヴァ国へ肩入れします。他国の非合法組織を支援して、国の崩壊を後押しする様な祖国なんてうんざりだ」

「お前は言っている事の意味を理解しているのか!? お前は国から間者として送り込まれた。お前だってうちの国の暗躍に関わってるだろうに!」

「だからうんざりしたんですよ! これまで、集めた情報を伝える義理は果たした。国を抜ける宣言もした。これで十分でしょう?」

「国への愛国心はどうした。そんな大層なものじゃなくても、帰郷心はあるだろう? 生まれ育った土地を二度と踏めない。そんな状況になるんだぞ?」

「僕を育てたのは………この国だ」

 まだ二年にも満たない。そんな時間の中で、ルッドはラージリヴァ国から成長という掛け替えのない物を貰った。そんな中で得た人間関係もあった。それはルッドのこれまでの人生の中で、大きな部分を占める様になったのだ。 

それこそ、ブルーウッド国で生きた人生と天秤に掛けられるくらいの。

「………裏切り者には、必ず制裁がくる」

「望むところです。そんな覚悟が無くて、僕は国を抜けると言ったわけじゃあない」

 そこまで話すと、これ以上何かを話す必要は無いとルッドは考え、グラフィドに背を向ける。

 口論を聞きつけたらしい店員が食堂の奥から出て来たので、自分の分だけの代金を渡してから、食堂を出た。背後からグラフィドの声が聞こえて来たが、それを一切、聞くつもりは無かった。



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