第三話 旅に出よう
「人を斬ったことがある? この僕が?」
酒場で出会った女性にその様なことを言われて、ルッドは困惑する。自慢では無いが、今まで生きて来て、刃物で人を斬りつけたことは一度も無い。そうしようと思ったことさえないのだ。
「違うの? だってその短剣、人を斬ったものよね?」
「………本気で言ってます?」
ルッドの持っている短剣は、確かに人を斬ったことがある物だ。勿論、ルッドが斬ったわけでは無く、人を斬ったという中古品の短剣を購入したのである。元々は作業用のナイフだったらしく、頑丈な見た目が特徴だ。まだ一度も使ったことが無いため、実際はどうなのかは分からないが。
「気のせいだったら良いの。なんとなくそう思っただけだから」
「何となくで、この短剣がどういう来歴の物かが分かったってことですか?」
「勘よ勘。長くこういったものの訓練をしていると、オーラが見えると言えば良いのかしら? それがどういう用途で使われているかが分かっちゃうのよ。と言っても、全部が分かるわけでも無いから、外れることもあるわ」
今回のそれは大当たりだ。元々はルッドの持ち物で無かった以上、本当に短剣の特徴だけを見て、彼女は人を斬った物かどうかを判断できたのだ。面白い一芸だと思う。
「それですよ、それ。剣の腕の売り込みって言うのなら、そういうことをしないと」
「こういうのって、剣の腕と関係あるのかしら?」
「関係あるかどうかなんてのは問題じゃあなくって、剣についての知識があるっていうのが重要なんですよ。剣の腕なんて、使って見なければわからないのが実際ですけど、そういうものを口で伝えようとしたら、さっき話したみたいなことを伝えるのが有用だと思います」
ルッドがそんな助言を口にしていると、女性は感心した様に頷いている。今まではそういう発想を持たなかったらしい。
「ええっと……感心されても困るんですが」
「けれど、そういうテクニックと言えば良いの? 必要になってくると思うのよねえ」
「護衛役として、ですか?」
「そう。腕に自信はあるけれど、口はあまり上手く無いの。だからそちらを学んで行かないと………」
一人寂しく酒場で酒を飲んでいては、何時かは金も尽きてしまうということか。女だてらに護衛で金を稼ごうというのは大変なことだろうとは想像できる。
「でも、数日はその心配は無いと思いますよ」
「どうして?」
「僕が雇うからです。決めました。町を出てからの護衛、頼めませんか?」
剣の腕は確かにありそうに思えた。見た目こそ頼りにならないかもしれないが、それでも、暴漢に襲われた時は助けてくれそうな雰囲気が、彼女にはあった。
彼女、レイナラ・ラグドリンの名前を聞いたのは、酒場に来た次の日。町を出る準備を終えて、町を出る門の前で待ち合わせをしていた彼女と会った時だ。
「失礼かもしれませんが、変わった名前ですね」
「そうかしら。まあ、余所の国から来た人にとってはそうかもね」
ルッドは自分の表向きの素性と、ブルーウッド国から来たことは彼女に伝えている。商人として商売をしているという嘘もついでに。
「一般的な名前を変に思うくらいには、この国に慣れていないんですよね。だから、最初の商売は利益よりも、自分が慣れることを重視して運ぶつもりでして」
「だから護衛や荷馬車を用意しながら、運ぶのは干し魚程度ということなのね。納得だわ」
ルッドがとりあえず用意したものであるのだが、護衛役としてある程度の経験を積んでいるらしいレイナラ。そんな彼女から見て、ルッドの用意は些か過剰であった様だ。
程度のわからぬルッドであるから、単純に経験不足から来た結果だ。しかし、それを知られるというのも何となく嫌だったため、最初の商売として万全を期すための用意であるということにしておいた。
「それで、汚い話になるけれど、護衛代については大丈夫なのかしら? 一日毎の代金については、既に伝えているわよね?」
「ええ。次の町へ掛かる日数分ならこっちも出せそうです」
レイナラの護衛代については、手ごろと言えば手ごろだった。護衛役として身体を張って、時には命を賭ける必要がある仕事にしては、格安とすら言えた。恐らく、今までそれくらいの額でなければ、彼女を雇う人間は居なかったのだろう。
「ふうん。金銭的な余裕はあるみたいね。で、肝心の向かう場所はどこなのかしら、掛かる日数もそれで変わってくるし、私への報酬も変わるわ」
「場所はもう決まっています。このラージリヴァ国の中央都市、ホロヘイまでの護衛をあなたに頼みたい」
ホロヘイの町の位置と、移動に掛かる日数は、先輩外交官であるグラフィド・ラーサから聞き及んでいる。
普通に歩いて5日間程の距離にある町だ。荷物を馬に運ばせながらであれば、1日程度予定が伸びて、6日間の日程になるだろうとルッドは予想していた。
「この大陸で長く商売をするつもりなら、当たり前の目的地でしょうね。私も何度か行き来したことがあるから、道も良く知っているわよ」
「それは頼もしいですね。でも順調に進んでしまえば、結局、護衛の日数が短くなってしまいますよ。そうなればラグドリンさんへの報酬も少なくなる」
「別に良いのよ。仕事を上手く遂行することこそが私にとっての名誉なのだから」
まだ出会ったばかりの彼女であるのだが、誠実な人間であるというのが印象として強くなってきた。
(剣の腕があって、護衛役としての報酬も安い。性格的に信頼できそうで、しかも美人だ。残念なところがあるとしたら………うん、僕より身長が高いくらいかな)
レイナラは高身長だ。背が低めのルッドは勿論、背が高い男性にも引けは取らないのではないだろうか。護衛役の見た目としては良い特徴かもしれないが、異性として見る場合は減点対象になるだろう。男というのは身勝手なもので、自分が付き合う異性には、自分より弱い相手を求めるものだから。
「さっそく出発するつもりですけど、一つ質問があるんです」
「なにかしら? 答えられるものなら答えるけれど」
「ええっと。貸し馬車屋に頼んだら、この荷車とそれを引く馬を借りることができたんですけど………この、馬ですね。馬なんですか?」
ルッドは馬ということで借りたそれを見る。毛むくじゃらの体に図太い胴体。それを支える四肢も同様に太い。大きな耳と長い鼻が特徴で、鼻の横には、短いながらも牙が生えていた。
「ええ。馬よ? 毛長馬。知らないのかしら?」
「やっぱり………馬なんですか?」
ルッドが知っている馬と大きく違っている姿なのだが、こっちの国ではこれが馬らしい。最初、貸し馬車屋でこの生き物を見せられた時は、詐欺に遭っているのかと疑ったものだが、レイナラの様子を見る限り、間違いなくこれは馬らしい。馬だ。そう思おう。
「けど、まだ子どもね。まあ、この程度の荷物なら十分だけれど」
「これ、子どもなんですか? 随分と大きく見えますけど」
ルッドの目に映る毛長馬とやらは、普通の馬より少し小さい程度で、もう随分とした大きさだ。体の太さはこちらの方がありそうなため、重量で言えばこの毛長馬の方が重いはずだ。
「長く生きて、成長すれば、今の倍の大きさにはなるはずよ? そうなれば餌も多く食べるから、貸し馬車屋には向かなくなるかもだけれど………これと同じくらいの大きさの馬しか居なかったのよね?」
「はい。全部、これくらいの大きさの馬ばかりが貸し出されていました」
「なら、子どもを産む馬以外は、食肉に変えられるか、別のところへ売り払われているのかもね。まさに家畜よ。可哀そうだけれど、この大陸の文化」
この毛長馬は、牛と馬を兼任した存在なのかもしれない。この国の住民にとっては馴染のある家畜というわけだ。
「質問に答えたところで、さっそく出発しましょうか。準備は良い?」
「ええ。勿論」
門を出て歩き始める。これもまたルッドにとってはスタートラインだ。この国に来てからはスタートラインから歩き始めてばかりいる様な気がするが、仕事の始めというのはそういうものだろう。
何時かその様々なスタートラインから出発できた時。それが一人前になったということなのかもしれない。
ルッドがホロヘイの町に向かう理由。その表向きなものとして、この国の中央都市であり、商売がしやすい場所だからというものがある。
実際、大陸の中央付近に位置する大きな町というのは、活動拠点として優れている。商売をするには重要な場所であろう。
ただ、裏向きの理由として、そこが先輩外交官グラフィド・ラーサとの接触場所であるというものがルッドにはあった。
ブルーウッド国を代表してラージリヴァ国と交渉するグラフィドであるから、その中央都市で向こうの代表者と話し合うのは当然のことだ。ただの間者であるルッドに会いに来てくれるのは最初の一度だけで、これからはホロヘイの町にルッドが直接向かわなければならないだろう。
一応の取り決めとして、間に報告役を挟み、ルッドが有用な情報を手に入れた時はその内容をグラフィドに送る。そうして、グラフィド側がルッドに直接会いたいと思った時、呼び出しをするという手筈になっていた。
(あー、羨ましいなあ。向こうは重要な仕事をしながら、片手間で僕の集めた情報を品定めするんだよ。一方で僕は、あちこち必死に動き回って、役に立つかどうかもわからない情報を集めると……何時かは向こう側の人間になってやる)
そんなことを考えながらルッドは歩く。既にベイエンド港を出てから2日経っており、足もそれなりに疲れて来た頃合いだ。
隣で荷馬車を引く毛長馬に乗りたいという欲求はあるものの、それをすれば毛長馬の疲労が溜まり、行程に遅延が生じてしまう。もし馬に乗りたければ、もう一頭を借りる必要があっただろうが、それをすれば商売の利益は生まれない。それでも良いかとは思うのだが、商人のフリをする身としては出来ないことだった。
だからこうやって疲れ続けることしかできないのであるが、では同行者はどうだろうと考え、馬を挟んだ隣にいるレイナラを見てみると………
「あら? 随分と疲れてきているわね。向こうじゃあこういう旅はあまりしなかったのかしら?」
「まだまだ。旅の行程は半分も来てないんですから、これくらい大丈夫ですって」
レイナラはまだ余裕のある表情をしている。彼女には負けてられないとルッドは強がるものの、一日くらいなら到着を伸ばして良いかもという甘えが頭を過ぎる。食料や金銭の余裕はまだある。ただしそれらは弱音だ。実際に提案してみることはないし、無理をしようとする意地がルッドの中では優っている。
代わりに口から出るのは、なんでも無いような世間話であった。
「内陸に進めば、より寒くなってくると思ったんですが、そうでもありませんね」
ルッドの知識では、暖かい風は海から来て、寒い風は陸から吹く。しかしこの大陸においてはそうで無い様で、海からの風が寒く、内陸からの風はそれより随分とマシであった。
「この大陸の特徴よ。海流の一つが大陸周囲を回る形で完結しているせいで、海のからの風がとても寒いらしいの。一方で内陸はそうじゃあない。この大陸は、内陸に行くほどに暖かい。どうしてだか分かる?」
「確か……内陸には火山が多いんでしたっけ?」
「その通り。地熱のおかげか、内陸方向に暖かくて、この大陸は住みやすい。だから主要な町や街道は内陸側にある。この道がこうも狭いのもそのせいよね」
確かに、中央都市へ向かう道にしては狭いと感じる。あくまでこの道が、港町から内陸へ向かうものであるためだろう。もし対抗方向に馬車が来れば、交差するのが難しそうだ。
「道が狭いというのは、少し厄介かもしれませんね」
「護衛役としてはそうね。道を塞ぎやすいということであるから。荷馬車って、整備された道じゃないと動きづらいのよね」
人間だってそうである。できればちゃんとした道を進みたい。だが、それを狙う人間もいるのだろう。
「この国、最近は治安が悪いそうですね。ブラフガ党でしたっけ? そういう一党が国を荒らしているとか」
「荒らしている……と言うか、国の中にもう一つ国を作ろうとしていると言った方が良いかしら。勿論、それはラージリヴァ国を乱す行為だし、やっていることは誰が見ても非合法なのだけれど………」
「詳しいんですね。僕は名前くらいしか知らないんで、どういう集団なのかさっぱりですよ。国の中に国を作るですって? 本気なんですかね、その人達」
目指す物は崇高かもしれぬが、やっていることは盗賊まがいの行為であろうに。それを繰り返して国ができるとは到底信じられない。ただ外部に向けて言っているだけではないのか。
「こういう仕事をしていると、暴漢側の事情にも詳しくなっちゃってね。そういう言い分があるってくらいしか知らないけれど」
ブラフガ党についての情報はまだまだ知りたいものの、レイナラの持っている情報もこれくらいだろうか。
「しっかし、国の中に国を作るねえ。それと違法行為にどういう因果関係が………ラグドリンさん」
ルッドは話題を変える。急に思われるかもしれないが、必要なことであった。
「………何かしら」
「気付いてないってわけじゃあないんですよね?」
「ええ。どうしたものか考えているだけ」
道の先に一台の荷馬車が倒れていた。荷馬車を引くべき馬の姿は見えず、人影が一つ荷馬車の近くに立っている。何かの事故だろうか。それとも………
「とりあえずは気を付けた方が良いわね。単なる事故かもしれないし、そうでない状況かもしれない」
「道の真ん中で倒れますもんね。まるで障害物みたいだ。道を通るには、一旦、こっちの荷馬車を道から外さなくちゃあならない。そうなると、こっちの行動が幾らか阻害される」
旅を続ける途中において、行動の自由度が減るというのは危険を意味する。自然にそうなるというのは自身の体力が無くなっているということであるし、人為的な部分にその原因があるのであれば、それは誰かの悪意を意味しているからだ。
「荷馬車の近くに人影が立ったままというのも怪しいわ。もし事故であるのなら、何かしらの行動はするでしょう? 一番気を付けた方が良いのは、荷馬車の影と、ほら、近くに草むらがあるでしょう? あの辺りね。別の人間が居るとしたらそこよ」
レイナラの言っていることが、分からぬルッドでは無い。彼女は盗賊の危険性を指摘しているのだ。
ああやって道の半ばに障害物を用意し、こちらの行動が鈍ったところで襲ってくる。ルッドでも想像できる常套手段だ。
だからと言って、引き返すという選択肢は無い。そもそも道は一つだけなのだ。引き返して元の町に戻ったところで何になる。結局、事を進めるにはあの倒れた荷馬車の横を通らなければならないのだ。
「十分に注意力を使ってね。いざとなったら逃げる覚悟もお願い。隠れる場所の数からして、本当に盗賊だったとしても、倒せない数じゃあないと思うけれど、あなたの安全まで保障できない」
「倒せない数じゃあ無いって………複数人の武装した盗賊がいるかもなんですよね? 僕がいなかったとして、相手にできるものなんですか?」
「あなたが雇ったのは護衛よ? 護衛は腕が立つって相場が決まっているの」
そうだっただろうか。あの酒場にいた人間はそうでも無かった気がするのだが。彼女を信用したいものの、身を守ること自体は自分で考える必要があるだろう。そのためには、最悪の状態になる前に、あの障害物と近くに立つ人影の正体を掴まなければならない。
こちらの荷馬車を近づけて、人影がはっきり見える場所まで歩く。これ以上は荷馬車を道から外さなければ先に進めないという場所まで来たルッドは、倒れた荷馬車近くに立つ人影に話し掛けた。
背中に大きなリュックを背負った青年だ。困り顔で荷馬車を見ており、こっちの存在にも気が付いているのだろう。偶にルッドの顔を伺っていた。
「何かあったんですか?」
あくまで自然に、何かを疑っている風で無く、倒れた荷馬車への疑問をぶつけてみる。
「あ、ええ。そうなんですよ。馬が逃げてしまって」
なるほど、確かに馬はどこにも居ない。であるならば、さっさとこの場から移動するべきだと思うのだが。
「荷が残ったままなんでしょうか? こんなところで立ったままというわけにも行かないでしょう?」
荷馬車の近くには、幾つかの木箱が転がっていた。その中にあるのが輸送物であれば、放って置けないだろうし、どうしたものかと立ち往生する可能性はあるかもしれない。一方で、あれらの木箱には人が一人くらいは入れるだろうなと考えてしまう自分がいた。
「そうなんですよ。一応、連れが居て、近くの町まで馬を借りてきてくれる手筈で。邪魔なんであれば、横を通ってくれて構いませんよ」
「近くの町まで?」
「はい。方向からして、あなた方はベイエンド港から来たのでしょう? 確かあそこには貸し馬車屋があったと―――
「ラグドリンさん」
「ええ。下がってて!」
ルッドはできる限り目の前の青年から離れる。一方でレイナラは小動物の様な機敏さで青年に近づくと、その手に持った長剣を鞘から抜き、青年の首元に刃を置いた。
「な、何を!」
「演技ならもう良いわよ。話し掛けられた時の内容なら、ちゃんと考えて置くべきだったと思うけどね」
レイナラが話すのは、先ほど、青年が話していた内容だ。青年の話を要約すると、荷馬車の馬が逃げたので、連れをベイエンド港まで送ったということになるが、ルッド達はその様な助けを求める人間にすれ違った覚えは無い。ちなみにベイエンド港からここまでの道は、ほぼ一本道と言って良かった。
「………いちいち内容なんて吟味しねえだろ。どうせ獲物は手の内にあるんだ」
青年の口調が変わる。そして散らばる木箱から武装した男達が出て来た。木箱は3つ散らばっていたので、3人だ。レイナラが指摘した草むらからも2人の男が姿を現す。青年も合わせて全員で6人。青年もリュックの中に武器を隠しているのだろうが………
「つまり5人を同時に相手にするってことね」
「あ? 何………を……あ」
ルッドは目の前で起こった事に驚く。レイナラは隠れていた盗賊が姿を現した瞬間、躊躇無く、青年の首元に置いた長剣を引いたのだ。首筋を斬られた青年は、大量の血を噴き出しながら静かに倒れた。
場面の動きはそこで終わらない。起こった事に誰もが呆気に取られる中、レイナラだけは次の敵へ狙いを移していた。
散らばった木箱は障害物の荷馬車の向こう側に二つとこちら側に一つ。つまり、そこから出て来た盗賊のうち一人は、レイナラの近くに立っていた。
それが一番危険だと判断したのだろう。レイナラは半歩だけその盗賊に近づき、長剣を振るった。
ルッドから見れば、長剣はまだ届かぬ位置にあると思っていた。実際、盗賊もそう考えていたのだろう。防御の体勢を取らないでいる。しかし、手元でどう伸びたか知らぬが、剣は盗賊の腕に届き、その衝撃で盗賊は手に持っていた武器を落とした。盗賊の武器は棍棒のようなそれであるが、重量があるだろうから、しっかりと握れなければそうなってしまうだろう。盗賊は腕の筋を斬られていた。
「お前ら、この女! ぐっ」
腕の筋を斬られた盗賊は叫ぶ。自分達が襲った相手が、一筋縄では行かぬ相手であることが漸く分かったのだろう。しかし、叫ぶ盗賊はそこで言葉が止まった。
レイナラは敵の腕の筋を斬ると同時に、さらに敵へ近づき、今度は長剣で盗賊の胸を突いた。
突くと同時に、どういう種があるのか、何も障害が無かった様に剣を手元に戻した。残ったのは、胸を貫かれて倒れる盗賊が一人。残りは4人
「忠告だけれど……逃げたらどうかしら? こっちにはあなた達を追う余力は無いのよね」
レイナラの言葉はまるで挑発だ。盗賊達の顔は怒りに染まっていく。しかしルッドには、それが真の意味で忠告であることがわかった。
レイナラは襲い来る盗賊を、当然の様に倒せる自信があるのだ。彼女の剣の腕を知らぬルッドであるが、彼女の言葉に込められた感情だけは伺い知ることができた。