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北風の道  作者: きーち
第十三章 殺人者の眼光
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第一話 既に末期的

 マーダの村からホロヘイにあるミース物流取扱社へと戻ったルッド、キャル、レイナラの3人を出迎えたのは、最近になって臨時の社員となった、ランディルとミターニャの兄妹だった。

「おかえりー」

「えりー」

 二人共まだ子どもであるが、社員の帰宅を歓迎してくれる言葉を発する。それは実に良いことだとルッドは頷きながら、彼らに尋ねた。

「ただいま。こっちで何か変わったことは無かったかい?」

 社内へ入り、外出用の外套を脱ぎながら尋ねる。キャルとレイナラも同様の行動をしており、レイナラなどはさっさと外套を放り出して、部屋内のソファーに寝転んでしまった。

「変わったこと? ああ、あったぞ? すっげー大変なんだ。町中その噂で持ちきりでさ! ダヴィラスの旦那に、出来るだけ社内から出るな。出るにしても日が出てる昼間にしろってキツく言われてるんだよ」

 ランディルが脱いだ外套を受け取りながら答えてくれる。妹のミターニャの方は、レイナラが脱ぎ散らかした外套を持ち、寝ている彼女の上に被せてあげている。

 一番偉いはずの社長であるキャルだけが、誰にも外套を受け取って貰えていないため、手持ち無沙汰になりつつも、自分で直すつもりになったのか、服掛けに外套を吊るす。

「それって、つまり物騒ってことかい?」

 キャルの方もランディルに尋ねる。なんとなく何時もの口調が違う感じだ。きっと社内で初めて出来た年下の社員であるため、少しばかりでも威厳を出そうとしているのだろう。

「そうなんです。おそとは殺人鬼が出るからって………実際、何人か死んだ人いるって」

「殺人鬼だって!?」

 問い掛けにはミターニャが答えた。彼女は実に不安そうであった。そうしてルッドは驚いた。というか殺人鬼の噂は今日、初めて聞いた。ルッド達がマーダ村に向かってからの事件なのだろう。

(時期的に考えて、この事件がブラフガ党の狙いってことになるのか?)

 マーダの村であったブラフガ党の党首との交渉において、ルッドはホロヘイにて何事かをするつもりであることを知った。

 ホロヘイに帰った後、すぐに知ったこの情報について、ルッドは詳しく調べてみる必要性を感じる。

「そういえば、そのダヴィラスさんはどうしたの? 社内にはいないみたいだけど?」

 詳しく話を聞くのなら、まずはホロヘイにずっと居たはずのダヴィラスからだろうと考える。ランディルやミターニャが知っていることについても、勿論、ダヴィラスの方が良く知っているはずだろう。

「ああ、買い出し。さっきも言ったけど、外にはあんまり出るなって言われてるからさ、俺達」

「ダヴィラスさんが? 店の人に怖がられていなきゃ良いけど」

 彼の顔を頭に浮かべながら、ルッドは自分の言葉に自分で苦笑した。ダヴィラスの顔がいくら怖いと言っても、買い物くらいはできる人なのだから。




「は、はははい…………こちらがお望みのぉおお! 商品でございますぅう! だから、だから命だけはぁっ!」

「い、いや………代金も払うから………」

 最近は普通の買い物もできなくなってきたなと、ダヴィラス・ルーンデは空を仰ぎ見たくなってきた。

 春の麗らかな日差しの中。実際に空を見れば、冬の厚い雲が晴れて青空が広がっている。なんて心地よい季節だろうか。だというのに、何故かは知らぬが、自分は店で強盗か何かに間違われているらしい。

(いや、まあ、理由くらいは……………知ってるが………)

 とりあえず怯える店員に無理矢理代金を渡してから、商品(ここ2,3日分の食料だ)を受け取り、さっさとその場を離れる。

 ずっといれば、もしかしなくても自警団あたり呼ばれてしまうと考えて、足早に店を去った。

 そう。自分が恐れられる理由はちゃんとある。一番の原因は勿論この顔だ。誰だって自分の顔を見れば怖がる。最近、ミース物流取扱社の社員となった二人の兄妹だって、自分の顔を初めて見た時は泣きそうになっていたし。

 泣きたいなのはこちらであるのだが。

(だが…………ここまでじゃあ無かったはず………だよなあ)

 幾らなんでも、買い物まで困難になるほどの顔では無かったはずだ。それが最近こうなっているのには、勿論理由があった。

(ふむ………今日も人は少ない……と)

 季節は春である。人々が活発に動き始める季節のはずなのだが、驚くほどに人通りが少ない。

 ダヴィラスが現在歩いている場所は、ホロヘイの町の中でも大通りに属する道のはずだった。本来からして人通りが少ない裏路地とは訳が違う。

 去年の今頃であれば、ちゃんと前を見て歩かなければ肩がぶつかってしまうほどに人通りがあったはずなのだ。

「通り魔………いや、殺人鬼と言った方が………良いか」

 呟いて、ダヴィラスは身震いをした。

 丁度、ルッド達一行がマーダ村へと向かったすぐ後だろうか。ダヴィラスが知る限りで初めての被害者が出た。

 殺害現場は、やはり人通りが少ない路地裏からだった。

(………聞いただけで吐き気がしたな。あれは………)

 殺されたのは若い女だった。控えめな言い方をするにせよ、彼女の女性としての象徴がナイフによりぶっすりと………だったらしい。

 その時は、女が娼婦紛いの仕事をしており、だからこそ路地裏をうろついていたらしいので、その筋か、そうで無ければ客と揉めてのことだろうと結論付けられていたと思う。

 要するに怨恨関係であり、殺された女性の関係者を探れば犯人らしき人間は見つかるはず。

 町の自警団はそう考えていたのであるが………。

(二人目が出たのはその次の日。その時点で、これは少し違うぞ。という雰囲気が出始めたな)

 二人目もまた女だった。一人目よりもさらに若い女。彼女は娼婦では無く、良家と言うほどでも無いだろうが、それでも一般的家庭で可愛がられていた少女であったのだ。

 そんな少女が一人目とまったく同じ方法で殺されていた。この時点で、もう完全に二つの事件は重なり、尚且つ、一人目の怨恨という可能性も絶えてしまう。

 殺された二人の女に、共通点らしい部分は無かったからだ。

 二人が殺され、二人目が一般家庭の子女とあっては、自警団も本気を出そうというものだった。彼らは必死で犯人を捜した。かなり無茶な捜索もしたと聞く。

(だが………ああ………神様っていうのがいるなら…………どうしてこうも無情なんだ?)

 三日目には三人目が出たのだ。今度も女。そして今度は主婦だった。彼女の場合は、大通りを歩いているところを何時の間にか急所を刺されていたという状況だったらしい。

 これまで二人目までは裏路地などの人気の無い場所での犯行であったため、まさか人が多くいる中でその様な事が起こるとは、誰も予想していなかった。町の自警団も、人気の無い場所ばかりを見張っていたとして、それの何が悪かったというのか。

 だが、起こってしまった事は起こってしまったことである。犯行は女性を狙って起こっている。その事は確実であるのだから、女性は外出を控えるべきである。そういう注意と噂が町中を駆け巡ったのだ。

「で、直ぐに犯人が正真正銘の殺人鬼で、相手など選んでいないことがわかった訳か………」

 四人目が四日目に出てしまった。殺害されたのは老人。そして男性であったのだ。これまでの犯行の共通点はこれで一つしか無くなってしまった。一日に付き、一人を殺す。

 それは今でも続いているのだ。容疑者とされる人物が捕まる事もあった。しかし、捕まえている間にも被害者は増えて行く。

 既に老若男女、出来得る限りの外出を控えている状態だった。ダヴィラスとて、食糧の買い入れという目的が無ければ、ミース物流取扱社を出ることは無かっただろう。

 町中で、出来るだけ大きな道を歩きながら、必死に探したのが先程の店だった。ひたすらに怯えられたものの、なんとか買い入れることができて幸運だったと考えるべきだ。

(用は終わった…………さっさと帰らないとな…………)

 自分がこうやって出歩く事には、幾つか問題がある。まず一つ目は相次ぐ殺人事件の犠牲者となるかもしれぬという危険。本日は誰かが殺されたという話は耳に入っていないため、きっと殺人鬼は今も獲物を求めて、町中を闊歩しているに違いない。その事を思うとダヴィラスは身震いした。

 そしてもう一つは、その殺人鬼が自分であるという間違った目で見られるという問題だ。自分の風貌はご覧のとおり殺人鬼染みている。

 生まれてこの方、人殺しというものをした覚えが無い自分であるが、それに反する手練れ顔らしい。実際、自警団に怪しい男だと呼び止められた事が何度もあった。

 今、町中では自警団も殺人鬼に次いで恐ろしい存在であるのだ。もう彼らは形振りを構っていられない状況であり、怪しい者はとりあえず捕え、そうして次の日に殺人が起こるまでは牢屋に放り込んでおくという行動をとっていた。

 実を言えば、ダヴィラスもそういう事をさせられた。一度だけであるが。

(その一度の行動で…………無罪であることが………証明できたのだから………良かったと言えるのか?)

 だが、やはり怪しいからともう一度捕まる恐れは十分にある。だから長時間の外出は自分にとって損であるはず。

 そうして最後の問題が、もっとも大きな事であろう。

「すっかり………町も変わった………」

 どこでも良い。とりあえず帰宅途中の道を見渡して呟く。人が殆どおらず、活気は無くなり、少ないながらも歩く人影は、不景気どころか死んだような目をした者が殆どであり、そうで無い者は自らの敵意を隠そうともせず、自らのみの命を最優先した様な存在であった。

(このまま犯人が捕まらないとなると…………どうなってしまうんだ? この町は………)

 そんな心配を、町を歩いていて思う。既に町中だというのに、物資の流通自体が滞って来た印象すらあるのだ。

 どこもかしこも自衛のために物質を必要以上に溜め込み、外に放出しない。店の大半が閑古鳥の状況で、商品を売ってくれる店も少なかった。

 こうやって食糧関連の店だけが辛うじて残っている状況だ。だが、それもこの状況が続けば、不備が出て来るかもしれない。

(どうにかしないと………そんな風に思っちまうよなぁ………)

 だが、自警団ですら捕まえられない殺人鬼に対して、ダヴィラスにいったい何ができると言うのか。

 不安になりながら、もし何とかできる人間がいるとしたら、誰だろうと脳裏に思い浮かべる。

 そうして浮かんだ相手は、どこぞの兵士や王家や貴族の人間では無く、何故か自分を雇用している側の人間。ルッド・カラサの顔であった。




「後手後手に回り過ぎですよ。自警団も不甲斐ないなぁ。なんでその殺人鬼の狙いがわかんないんだろう………」

 そそくさとミース物流取扱社に戻ったダヴィラスを待ち受けていたのは、件のルッドだった。

 丁度良く。というわけでは無いが、ダヴィラスは彼に町の状況を事細かに説明する。向こうが聞きたそうにしていたし、無事の帰還を歓迎するよりも先に伝えておくべきことだったのだ。でなければ危険だ。

 そうしてダヴィラスの話を聞き終えたルッドが漏らした感想こそ、先ほどのものであった。

「しかし………殺人鬼もやり手だ。これまで………捕まっていないのがその証拠だろ? いったい……何の目的があって殺しを繰り返すのか……標的の共通点は……そんなのがさっぱりな以上………自警団も手出しの仕様が無いだろ?」

「逆なんですよ。考え方が」

「逆?」

 彼の口ぶりからすると、既にルッドは殺人鬼がどの様な意図を持って動いているのか分かっているらしい。

 当事者であるこの町の住人が判別できぬと言うのに。

「何か目的があって殺人をしてるんじゃないんです。殺人そのものが目的なんですよ。だから殺人鬼なんて呼ばれてるんでしょう?」

「うん? まあ……そうなるが………それにしたって……狙う相手の傾向なんかは偏るんじゃあ………ないか?」

「いや、そうじゃあねえんだよ」

 ダヴィラスが疑問を口にしたところ、ルッドでは無く、ソファーに座っていた社長のキャル・ミースが答えた。ということはだ、殺人鬼についていろいろ考えているのはルッドだけでは無いということだろうか。

「そうじゃない………とは?」

「殺す事が目的なら、あいつが良い、あいつは嫌だなんて選り好みしないだろ? 偏りがあるんだったらさ、それってつまり、殺しやすいかどうかじゃねえかな?」

「ちょっと待て………なんでそうなるんだ? なんだそれは………殺しやすいから殺すなんて……狂人のそれじゃあないか………」

 社長が何を言っているのか、ダヴィラスにはさっぱりだ。いったい、どんな発想をすればそんな結論に至れるのか。

「狂人って、そうじゃあないだろ? むしろ、めちゃくちゃ冷静に―――

「待った、社長。どうにも、僕らはダヴィラスさんやこの町の住人が知らない情報を知っているから、こういう結論に至ったんであって、マーダの村に行かなかったら、僕らも殺人鬼の目的が分からなかったのかもしれない」

 なんだろう。ちょっとした疎外感を覚える。そりゃあ彼らはマーダの村へ一緒に行ったかもしれないが、ダヴィラスとて、この町でこの場所を守っていたのだ。二人の子どもの子守りをしながらである。

 いや、まあ、子守りに関しては思いの外、二人は世話が掛からなかった。むしろ仕事を幾らか手伝って貰ったわけであるが、それでも、自分だってミース物流取扱社の一員であるはず。仲間外れにするような話は止めて欲しい。

「いったい……向こうで何があったんだ………。こっちの事を話した以上………そっちだって話すべきだろう?」

 ダヴィラスが尋ねると、ルッドがきょろきょろと辺りを見渡す。社内はそれほど広く無いのだから、そんな風に視線を動かす必要もあるまいに。

「ミターニャとランディルの二人は……二階ですよね?」

「ああ…………ちょっと資料の整理を頼んでる………聞かせにくい話か?」

「どっちかと言えば巻き込みたくない話ですかね? うん。子どもに聞かせるような話じゃあ無い。実はですね―――

 自分は巻き込んでも構わないのかとダヴィラスは尋ねたくなったが、とりあえずルッドの話をすべて聞くことにした。そうして聞いた事を後悔した。

「ちょ、ちょっと待て………なんだその………ブラフガ党が既に……この国を滅ぼす行動に出たという話は………! というか、党首に会って来て、その党首がマーダ地方の領主というのは………その………」

「言ったことがすべてです。ですから今はこの町の殺人鬼についての話を」

 混乱する頭を落ち着かせることすらできぬまま、ダヴィラスはルッドの話を聞かされることになる。理解が話に追い付くのが何時になるのかすら分からないままで。




 ルッドの予想ではこうだ。このホロヘイの町で行われている事件は、確実にブラフガ党が一枚噛んでいる。というか、ブラフガ党主導のものだろう。

 マーダ地方の領主かつブラフガ党党首のグゥインリーはこの事件を指して、ホロヘイで始まった国崩壊の一手だということを示していた。

「いったい……どういうことだ……? 今回の殺人鬼とブラフガ党が………どう関係している?」

「そこはまだ、狙いがはっきりしません。ただ、何がしかの目的。それも個人の感情からでなく、組織的な動きが後ろにあるんだという前提に立てば、今回の事件。どういう相手を狙っているのかは分かるはずですよ」

 ルッドがそう告げると、ダヴィラスは考える様な仕草をした。彼がその仕草をする場合、顔を苦々し気に歪めるため、まるでこれから人を殺す算段をしている様にも見えてしまう。一生懸命考えている以上の意味合いが無いことをルッドは知っているが。

「そう言ってもな…………いや、待て…………組織がやっていることなら………実行犯は義務でやってることになるな?」

「そうですその通りです。分かってるじゃないですか。この犯人は義務感でやってます。となると、別にそこに快楽やらが混じる事は無い。仕事ですからね? そうして、仕事ってのは普通、どういう風に行なうか」

「機能的に行なうな………。慣れてくれば、できるだけ………苦労の無い様にするだろう………」

 ダヴィラスの言葉に頷く。仮に、今回の犯人が特定の人物を狙っていないとしよう。そうして、殺人を行わなければならないという義務があるとすれば、どうするか。

「簡単な話です。狙いやすい相手から狙います。それもできるだけ多くを殺せる様に」

 一度目の相手は娼婦だったか。人の目立たぬ場所で、子どもよりも大人が良いだろう。大人であれば、あれこれ、私的な事情があっての犯行だと勘違いさせられる。

 男か女かであれば、女を狙うべきだ。なにせそっちの方が抵抗する力が弱い。勿論、場所は目立たぬ路地裏だ。娼婦は偶然そこにいて、狙うべき相手として適当だった。だから殺された。

 二人目も同じ。だが娼婦では無い。一人目の関係者が狙われるか犯人かと自警団は怪しんでいた。だから娼婦を狙うべきではないだろう。

 ただ、やはり目立たぬ場所で女を狙うのが容易い。それが二人目の殺害された女だ。

「三人目は目立たぬ場所はむしろ自警団がいて危ないと認識されたから、大通りで人を殺しました。四人目は女が狙われていると噂されたので、そもそも女性の外出者が少なくなっていた。じゃあ今度は男。それも老人を狙おうってことになった」

 一人につき指を一本ずつ立てながら、ルッドは説明する。

 殺す対象の選別は酷く簡単なものであるのだ。つまり、殺しやすい相手を殺すのだ。殺すことが目的であるのだから、誰をどう殺すかの選別はやりやすい相手を選ぶということ。

「だが………ちょっと待て? なら何故………二人目を一人目と同じやり方で殺した? あの件で………二つの事件が結び付けられ………自警団は警戒を強めたんだぞ?」

「警戒が強まることになろうと、やっておくべきことがあったからですよ。それはダヴィラスさんも嵌ってしまってる」

「俺が………?」

 多分、ダヴィラスだけでなく、ホロヘイの多くの人間が嵌っている罠だ。誰しもが連続殺人鬼を想起して、それが町を歩き、獲物を狙っていると考えている。だが、勘違いしてはいけない。この裏にあるのは一つの組織。ブラフガ党であるはずだ。

「実行犯は一人じゃあありませんよ。毎日一人ずつ人を殺すなんてとんでも無い労力です。そんなのをずっと続けていられるのは、やっているのが個人じゃあないからとしか考えられない」

 その事実を、最初の二回の殺人で考えられない様にしてしまった。それが故に、まだ犯人は捕まっていないのだ。

「怪しい人間を捕まえるのは良いです。けどその人物が捕まっている間に、他の殺人が起こったから解放するなんてしちゃあいけなかったんですよ。解放してさえいなきゃ、殺人が無くならないにしても、これほどの頻度を維持できなかったはず」

「まあ………そういうことになるのか? いや………俺は俺で困った事態になっていただろうが………」

 確かにダヴィラスは一度捕まった側だったか。そうなってしまった時こそ、ルッドが動いて彼を釈放させる様に動いていただろうが、そういう状況ですら無かったのが最悪だ。

「思った以上に、ブラフガ党に言い様にやられてる。これはまずいです。なんとかしないと………」

 ホロヘイの現状を知って、焦りを感じてしまう。確かにブラフガ党党首の言う通り、転がり出した物事はもう止められない段階に来ているのかもしれない。

 だが、放置しておくことはできないと強く感じる。

「けどさ。どうするんだよ? あたし達じゃあ犯人に見当が付かないし、複数いるってんなら、動いたら危険じゃないのか?」

 口を挟むキャルの言う通りだった。殺人を繰り返している者がいるということは、その相手はかなりの手練れだと予想もできる。それも複数。こちらに対人で、戦力になりそうなのはレイナラだけであるし、彼女は今、旅の疲れを癒すために眠っている。護衛の仕事である以上、帰りもずっと警戒を続けていたから、疲労もかなりのものだと思う。

「自警団に………あんたの話を聞かせる………というのはどうだ?」

「そうですね。多少なりとも効果はあると思いますが………それよりさきにやって置かなきゃいけないことがあります」

「それは………?」

 今回の件で浮かんだ疑問点があった。その事を真っ先に調べるべきだろうとルッドは考える。

「これだけの事件だって言うのに、動くのが自警団のみで、国の兵士達が動いていません。気になりませんか?」

 ルッドは次に、国の要人に会おうと心に決める。会うべき相手の心当たりは、勿論、存在していた。



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