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北風の道  作者: きーち
第十二章 突き付けられた刃
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第五話 いざ戦いの場へ

 材料は揃ったか? と問われれば、未だ足りない。だが、集める術が無い。故に挑む。という言葉を返さなければなるまい。

 ルッドは宿の自分の部屋にて、そんな事を考えていた。

「マジでやるのか?」

 自分のこの考えは、キャルとレイナラには伝えていた。というか今、伝えた。今というのは、マーダ地方の領主から各工房の視察依頼を頼まれてから3日ほど経った日の事である。

 既に視察するべき工房はすべて周っており、その報告という形で領主宅へまた足を運ぶという名目があった。

 勿論、領主とは直に会うことになるし、勝負を掛けるならその時だろう。

「交渉内容や、どうやって会話するかなんて私には分からないけれど、一つ個人的に出しておきたい問題があるわ」

「どうぞ」

 レイナラが手を上げて意見を述べようとする。恐らく、彼女が口にする問題点は、ルッドが想定してあるものだと思われる。

「交渉が成功するにせよしないにせよ、領主と敵対する様な行動よ? 相手の本拠地でそんなことしてみなさいな。言っておくけれど、守りきれる自信なんて全然ないわよ?」

 そこが第一の問題である。領主が武力行使に出たら、こちらは対処の仕様が無い。つまりは、それをされたらこちらの負けと言える。

「まずは、その危険な状態にならない様に交渉を努めます。こっちに関しては、こちらが無理をしなければ、半分くらいの確率で出来るとは思う………」

「半分かよ……」

 大丈夫なのかとこちらを睨んでくるキャル。ちなみにレイナラは呆れた様な表情だ。確かにこの発言だけならば、半分の確率で命を失うかもしれないと自分で言っている様なものだ。

 どれだけリスクが高い行為か。

「もう半分は、例え向こうと敵対する状況になったとしても、向こうに武力行使をさせない。もしくはさせ辛い状況を作り出すことで、埋めたいと考えています」

「と言うと?」

 具体例を示せとレイナラは言う。その問い掛けに、ルッドは頷いた。

「例えば、この土地で僕らが行方不明になったとして、もしそうであれば、とある国の要職の方に手紙が行く様にしている。とか?」

「………つまりはったりか?」

「はったりだなんて。駆け引きと言って欲しいな」

 実際はそんな状況を作り出せてはいないが、あくまであの屋敷の中での交渉に限るなら、それを確認する術はあるまい。つまり、ルッド達の命を簡単に奪えない状況を作り出すわけである。

「効果あるの? それ?」

「相手が賢明であればあるほど。ですかね。人間、デメリットは早々取りたく無いもんです。まあ、そういう人種であれば、逆に交渉自体が相手主体で動かされそうにもなるんですが………」

 あの領主は、そういう類の人種だとルッドは考える。安易にこちらの命を奪ったりはしない人種だと。

「んじゃあさ、実は領主が賢明で無かったらどうなんだよ」

「無いとは思うんだけど可能性は零かって言われると、怪しいんだよね。だから、まったくの安全ってわけじゃあない」

 だから、そのリスクを飲めるかどうかという話になる。さて、どうする? と二人に目で問い掛けると、キャルが先に溜息を吐いた。

「ブラフガ党とやり合うって決めた段階で、その危険は承知なんだろ? 今から止めたって遅いじゃん」

「そういうことね」

 キャルの言葉にレイナラも了承する。つまりは、領主とやり合うことを決めたわけである。

「き、きみたち? こう、いろいろと話し合ってくれているところ悪いんだが、私を逃がす算段というより、むしろ危険地帯に挑むような話をしていなくもなくも無いかい?」

「実際、そんな感じです」

「おぃいいい!!」

 と、3人での話し合いに、混ざる声が一つ。ウィソミン・ホーニッツの声だ。一応、彼を匿っている状況でもあるため、彼も一緒にここにいて貰う必要があった。

「良く考えてくださいよウィソミンさん。ここに二つ選択肢があります。一つはこの村から身を隠して出て行く。もう一つは今まで通り、大手を振って村を歩ける様になる。この二つのうち、あなたはどちらを選びますか?」

「そ、そりゃあ後者を選べるのなら、喜んで選ぶがね。できないからこそ、私は君達に、僕を村から逃げ出させてくれるようにと………」

 ウィソミンのこの言葉こそ、ルッドが考える、交渉に挑む上でのもう一つ問題点だった。勿論、彼を無事な状態にしてあげるという課題はあるにはあるが、それはこの問題点に付随するものだと言える。

「要するに何をこちら側にとっての勝利にするか。そういうことなんだと思います」

「領主を追い詰めるってことじゃあ無いんだよな?」

「ある意味じゃあ追い詰めることになるとは思う。けど、それは領主様の地位を危うくしたり、ましてや命のやり取りに届く様なものでは無いんだよ」

 例えばあの領主がブラフガ党に深く関係しているとして、そのまま決着をつけるなどとルッドは考えていなかった。

 それにはまだ早い。それを成すだけの力は無い。その力を手に入れるため。相手に自分の力を届かせるための準備段階こそが今回だ。

「じゃあ、何をもって、私達の勝ちだって言えるわけ?」

「それは勿論、ウィソミンさんが見つけた、領主の屋敷の地下にあるらしい部屋の中身を知ることですよ」

 当初から、これがこの地方と領主とブラフガ党を繋ぐ重要な情報なのではと直感的に思ったのだ。その情報を明確にすることこそ、ルッド達の成功目標であると考える。

「中身については予想が付いてます。ただ、確定じゃない。僕は交渉の中で、その部屋の中身についてを確認できる様な状況を作らなければならないと思ってるんです。そうすることで、まず、ウィソミンさんの問題が片付く」

「わ、私の問題が?」

「ええ。ウィソミンさんが軟禁されたのは、地下の部屋を知ったからですけれど、もしその部屋の存在を他の誰かに見られ、それが周知のものになれば、わざわざ軟禁する必要は無くなるでしょう?」

 となると、ウィソミンが逃げ隠れする必要は無くなるわけである。領主側とて、無理して捕まえるメリットが無くなってしまうのだし。

「な、なるほど。そういうことに………なるのかい?」

「なります。信じてください!」

 若干、そちらに関しては領主が強硬手段に出る可能性も無いわけでは無いので、実は不安なのであるが、ウィソミンに余計な真似をされるのもアレなので、強めに言っておく。

(詐欺師のやり口だよね。これ)

 まあ、自分が商人兼詐欺師みたいな部分がある点は理解している。要はそれを悪用しなければ良いのだ。

「で、あたし達にとって、その部屋の中身が知ることが何の得があるんだよ」

 キャルのその言葉に一度頷いてから、ルッドは口を開く。

「敵の狙いが明確化できる。そしてその情報を元に、国を動かせるかもしれない」

「なんだよ、デカく出たじゃん」

 こちらの目をキャルはじっと見てくる。ルッドが言葉を濁すか、それとも真意を口にするか。そのことを判断するためだろう。

 キャルにもそろそろ、相手の表情を見て、そこから感情の機微を探る技能が身に付いて来たのかもしれぬ。

「あくまで僕の予想でしか無くて、そうじゃなければ、得るものが無く、しかもマーダ地方の領主と敵対するだけで終わる行動かもしれない。それを前提にして話すんだけど………」

「前置きが長い! 早く!」

 レイナラに怒鳴られてしまった。渋々と言った感情が抱くが、言わなければなるまいか。

「領主の地下室は、ブラフガ党にとっての武器庫だと思ってる。ブラフガ党が国に喧嘩を売るためのそれだろうね」

 だから、その存在を確認しなければならないと、ルッドはここに居る皆に伝えた。




 マーダ地方領主宅にはブラフガ党が使う予定の武器が存在している。それが何を意味するのかを分からぬ人間では無いと、ルッドは自分を評価する。

(いや、待て待て。結論を早く求めるのは失敗の元だぞ)

 再度やってきた領主宅を見上げて、ルッドは自戒する。さっそく見張りというか案内というか、パックスがやってきたのを見て、そんな事を思った。

 レイナラの勘に寄れば、彼は強者らしい。彼の手が何時ルッドに届くとも知れぬ状態なのだ。

 ルッドはそっと隣に立つレイナラを見た。彼から自分を守る力を持つのは彼女だけであるが、彼女だけどルッド達を守りきれるのかと言えば、そうでもあるまい。

 次にルッドはキャルを見る。彼女の同行については何も言わなかったのであるものの、それでもその身が心配だった。有事の際は、自分より彼女を守ってくれるようにレイナラに頼まねば。

(それと………宿に置いてきたウィソミンさんが勝手に動かないかも、心配と言えば心配か)

 3人でここに向かうことを決めた以上、匿ったウィソミンは宿へ置いて来ることになったのだが、それは彼を放りっぱなしということなのである。恐らくは一番の不確定要素だ。

(今日中に一通りの事を終わらせる。タイムリミットを考えたらそんなところかな)

 なんとも不自由な状況だ。万全の態勢も無く、時間の余裕も無い。弱い立場であることを何度も認識させられながら、それでも挑む事を決めたのは自分だ。

「おっ、仕事は上手く出来たのかい?」

 パックスがルッドを確認してから、笑顔を浮かべる。その笑顔がそのままレイナラにも向けられていた。レイナラも合わせてか微笑んでいる。この二人、何かあったのだろうか。

「とりあえずは一通りの工房を周りましたよ。そうして評価をこうやって纏めたんですが、見ます?」

 紙にそれぞれの工房が出展予定の石工細工に関する評価と、工房それそのものの特色も添えて書いてある。ルッドが突貫作業で仕上げたものであった。

 はっきり言って、これだけで一仕事くらいの物だと自負している。それくらいで無ければ相手を騙せない。

 例えば中途半端に仕上げて、ここでパックスがそれを確認し、それが仕事として不適格な物であれば、そのまま屋敷から退散されかねないし、そうでなくてもこちらの不正を疑われる可能性だってある。

「いや、見ても良くわからんだろうしな。領主様に直接渡してくれよ」

 それは残念な返答だった。もしここで見られたとしても、それはルッドの仕事の成果を披露することができるだけなので、それはそれで楽しい事だったのだが。

「分かりました。今は会っても大丈夫なんですよね?」

「でなきゃ通さねえよ。それに何度も言うが、あんた、気に入られてるんだよ。ちょっとした仕事なら、あんたを優先するだろうな」

「そんなに気に入られる理由が思い付かないんだけどなぁ」

 そんな疑問を抱いたまま、ルッドは領主の屋敷へと足を踏み入れた。今度は、彼と勝負をするために。




「いやはやまったく。良く仕上げてくれたものだよ。素晴らしい。品評会の準備も、この資料のおかげで上手く行きそうだ」

 領主、グゥインリー・ドルゴランから、そんな評価を受けるルッド。それくらい言われる資料を作ってきたつもりだが、些か褒め過ぎの様な気もする。

(いや、褒めるなら口さえ働かさせればタダなんだから、そうしてるだけかも)

 再度、応接間へと案内されたルッド達は、とりあえずは様子見だとばかり、本心を隠して、表面的な仕事を進めていた。

 このまま領主の褒め殺しが続けば、本来の目的には続かず、ある程度の報酬を貰って、そのまま屋敷を去ることになるだろう。

(そっちの方が、安易で安全………なんだけどさ)

 そのことについて悩む時間は過ぎていた。もうやるとなれば進まねばならぬ。そういう状況なのだ。だから一歩、ここで踏み込むことにした。

「そういえば、に各工房を幾つか周っている内、ウィソミン・ホーニッツ氏の工房にも立ち寄ったんですが………」

「ほう。彼は留守だと言うのは知っているだろう? 何故?」

「確かに、領主様のお屋敷でお仕事をしているとは聞いてます。ただ、村内のすべての工房を周っていたわけですからね。やっぱり一つだけ外すというのもちょっとなんだか落ち着かないじゃないですか」

「ふむ。そういうものかね」

 不思議な者を見る様な視線をこちらへ向けてくる領主。まだここまでは敵対では無い。単なる特殊な行動であり、向こうも単なる好奇心や興味を向けているだけだ。

「と言っても、工房への立ち入りは本人がいなければ無理なんですから、外観だけの観察をと思いまして。工房の外からでも、作り掛けの石細工なんか置かれてたりするでしょ?」

「商品の見本みたいなものだな。どこの工房もしている事だよ。なるほど。彼ほどの者の工房となると、それを見るだけでも足を運ぶ理由になるか」

 なにやら納得した様子の領主。それもルッドにとっては安全な方向へ。つまりはまだ安全圏に自分はいるということだ。なので、さらに一歩を踏み込もう。危険を冒さなければ成功には届かない。

「そういう意図もあっての訪問だったんですけれど、妙だったんですよね………」

「妙……とは?」

 領主は勿論興味を抱く。そういう風に話を仕向けているからだ。こちらの手を届かせようとするのなら、向こうからも近づいて貰わなければならない。お互いの手が相手の首を狙える距離に。

「いえ、こっちも失礼かと思ったんですが、ちょっと本当にいないかどうか確認したところ、鍵が掛かってなかったでんすよ。工房に。そのまま工房を出てここで働いているっていうのなら不用心ですし、一度帰っていたっていうのなら、留守だったのも変だ。あの、ウィソミン氏はここで働いているんですよね?」

 いけしゃあしゃあと、こんなことをルッドは尋ねてみる。相手が嘘を吐いているという前提があるのであれば、その嘘に気が付かぬ風を装って、尚且つ、その嘘によって起こり得る問題点を突くのである。

 どう足掻いたって、相手は内心を揺さぶられるし、結果、話題に変化を起こす。その変化をしっかりと観察することがルッドにとって重要だった。

「…………ここだけの話を始めても良いかな?」

 ほらきた。これが変化だ。重要そうな表情を浮かべる領主だが、まだ仮面を被っていることは分かっている。

 何がしかの真実を話すフリをしつつ、また別の虚構を作りあげ、そこにルッドを落とし込む。そんな狙いがあるのだろう。

「言ってしまったら、もう始めてるみたいな物じゃないですか。こちらとしては、どうぞとしか言えない」

 皮肉気に答えておく。この話を引き出すのが狙いだった。みたいな表情を浮かべられていれば幸いだろう。相手にそこまでの人間だったと思わせられる。油断させることができる。

「ふむ。では話すが、実は屋敷の外壁作りを任せたウィソミン氏なのだが、突如、いなくなってしまったのだ」

「本当ですか?」

 本当のことであろうとも。彼は屋敷から逃げて、今、ルッド達の元にいるのだから。

「ああ。なんなら屋敷の中を探してくれても構わんよ。それで見つけられたのなら御の字だからね。問題は何故逃げたかだ。その理由がわからない。もしやプレッシャーに負けたのかとも思ったが………」

 軟禁されたから隙を見て逃げ出したというのは自然な事では無いだろうか。真っ当な理由であろう。

「それは………そちら側にとってはいろいろと大変でしょう? 風聞とか」

「私個人で納まる風聞ならそれで良いのだが、ウィソミン氏自身にもそれが向かうとなると、少々な。彼の腕と才能は確かだ。無くしたり、余計な風評被害で彼のその腕が失われるのは惜しい」

 だから、殺さずに軟禁していたということか。それとも口封じをするまでも無いことだと判断しただけか。

「と言っても、僕にはその話をするんですね?」

 風聞についてを気にするのであれば、ルッドとてその対象だろうに。まさかそんな話を聞かせなければならぬほどに関係性が深いわけでもあるまいて。

「だからここだけの話にして欲しいと言っただろう? まあ、君が村の工房をすべて周ったのならば、もしかしたら彼を見たか、彼に関わる何かがあったのでは。という下心はあるのだがね」

 なるほど。そう来たかとルッドは感心する。もし、ルッドが本当にウィソミンの事情を知らないのであれば、ここで素直にウィソミンに関する何がしかを話していたことだろう。

(知らないなら知らないで、そこで終わり。知っていれば、彼の足取りを追えるってことだ)

 どちらにせよ損にはならない。そうして、もし、ルッドがウィソミンに関する物事を知っているとしたらどうだ?

(丁度、今がそれだ。僕にとっての揺さぶりになってる)

 素直に答えるわけにはいかない。彼を知らないと言うにしても、実は知っていると答えるにしても、何がしかの嘘を混ぜる必要があるだろう。

(嘘はそれを吐くとなると、必ず感情が揺さぶられる。どんな人間だってそうなんだ。隠すのが上手いかそうでないかくらいの差さ)

 だからもし、鋭い刃の様な観察眼を持つ人間が、揺さぶりを前提で尋ねたとしたら、相手の嘘を見抜いてしまえる。勿論、何のための嘘か、どういう意図を持っているのかと言った部分については、超能力者で無い限りは判断つかないだろう。

 だとしても、嘘を吐いたという事実があれば、相手の狙いを見据えることができるだろう。

(さて、目の前のこの人がそうであるか。そうであるんだろうさ。一筋縄で行かない相手だ。そうして、迂闊な事を口にしたら、その時点でこちらの敗北)

 ならばどう答えるべきか。長考するだけでも、相手に違和感を与えてしまう。だからすぐにルッドはその言葉を口にした。

「見ましたよ。彼を。実を言えば、だから彼の工房についての話をしたんです」

 真実だけを話してみよう。ただし、自分によって都合の良い真実だけを。そう簡単に、領主に有利な状況を作ってやるものか。

「ほう。どこで? どんな風に?」

「発見したのは彼の工房です。鍵が開いていて、つい中を覗いてしまったんですが―――

「兄さん?」

 話しても大丈夫なのか? と、キャルに尋ねられる。真実を話して、ルッド達の身に危険が及ぶのではないか。そうして、ウィソミン当人についてもそうであろうという意思がその声から感じられ―――

(嘘だ嘘。そこまで考えなんて読めるもんか。とりあえず、このままで良いのかってことで尋ねただけだよ。彼女は)

 言葉にせぬ思いがどこまでも通じると思ったら大間違いだ。だからルッドは、彼女にも分かる様に言葉にする。

「大丈夫だよ。社長。領主様は分かってくれるはずさ。領主様、ここからさらに真実を話します。というのは、覗いた先には、ウィソミンさんがいました。そこで僕らは彼から、妙な事を聞かされて………彼、なんて言ったと思いますか?」

 危険は承知であるという意思をキャルに言葉で示すのと同時に、領主には、さらなる揺さぶりを掛ける。

 まだこの言葉で敵対するわけではない。だが、きっと、本格的に、領主はこちらに何か妙な部分があるということを認識することだろう。

「そうだな。もしや、私が彼を屋敷に捕えたなどと口にしたのではないかね?」

 領主の返答にルッドは頷く。出来る得る限りの素直な表情で。

「その通りです。あれ………なんで分かったんですか?」

「ふぅ………彼が屋敷からいなくなる前、自分は捕えられている! などと口走っていたのを、パックスが見ていたよ」

 領主は疲れた顔を浮かべた。屋敷で働かせていた者が、突如として逃げ出し、狂言を口走る。そんな状況に陥ってしまった領主の顔だ。

(上手いな。僕も本当にウィソミンさんが狂ってしまってたんじゃなかって思うところだった)

 その可能性が万一にでも無いわけでは無いものの、やはり怪しいのは領主の方だとルッドは思う。

「その事なんですけれど、実を言えばウィソミンさん。また別の事を口走っていましてね」

「ほうほう。そちらに関しては見当もつかないが。いったいなんと? 私が実はドラゴンだったとでも言っていたかね?」

「いえいえ。実はですね? この屋敷に隠された地下室があり、そこに戦争を起こすための武器が置かれてあるなんてとんでも無いこと聞かされちゃいましてね!」

 笑いながら、勢いままにその言葉を口にした。さあ。戦いはこれからだ。これより先は危険地帯。命がけの舌戦が始まるのだ。


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